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- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】久々更新 ( No.78 )
- 日時: 2014/10/07 19:23
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: jEJlOpHx)
《本編》
Episode8 夕暮れ、流れ星
こんにちは。
今日早いですね。
急いでいるのですか?
……ああ、雨が降っているんですね。
それはご苦労様です。
冷めないうちに紅茶をどうぞ。
では、本日の物語を読みましょうか。
本日の話は、出会いと別れ。
出会いがあり、別れを越え、
その後にまた素敵な出会いがある。
そんな世界のお話。
「夕暮れ、流れ星」
それでは始まり、始まり。
〔character〕
藍野 真白 アイノ マシロ
城田 命 シロタ ミコト
——‥*※*‥——
『好きだよ』
そう言って微笑んだ、彼の声が頭に響く。
だけれど彼は隣にいない。
私はぼろぼろと泣いた。
夕暮れ、夜との境目。
赤と紺の空に、流れ星がひとつ現れて、消えた。
——‥*※*‥——
彼が現れたのは、本当に突然で。
今思えば、まるで流れ星のような人だった。
「転校してきました、城田命です。
親が転勤族なので三ヶ月しかここにいませんが、
よろしくお願いします」
そう言ってお辞儀した空はとても優しげで、
人気者になるのはすぐだった。
三ヶ月。
長いようで、短いような期限。
最初から、彼には期限があったのだ。
それでも、私は彼に恋をした。
——‥*※*‥——
彼が転校してきたその日に席替えがあった。
私は九番。彼は十番。
私と彼は、隣同士になった。
「藍野さん、よろしく」
彼は私の隣に座ると、ふわっと笑った。
私は何故だか、くすぐったいような恥ずかしい気分になって、
ぎこちなく笑みを浮かべた。
「よろしく、城田くん」
これが私、藍野真白と彼、城田命の
一番最初の交流だった。
——‥*※*‥——
彼が何でもできるということはすぐに分かった。
授業はスラスラと答えるし、小テストは満点。
料理なんかも得意で、足は学年一。
だけど彼はそれを鼻にかけない。
そんなところに私は惚れたのかもしれない。
彼と私は、偶然だが帰る方向が一緒だった。
たまにばったりと会って一緒に帰ることもあった。
だからだろうか、彼が転校してきて一ヶ月目には
私達は名前で呼び合う間だった。
私は別に目立つ方ではなかったから、
みんな多分驚いたはずだ。
何人かの友だちには「付き合ってるの?」と
聞かれたほどだった。
でも私達はあくまで友達だった。
期限のある彼とは、友達でないといけなかった。
——‥*※*‥——
彼の転校から二ヶ月がたった頃。
すでに季節は秋から初冬へと変わっていて、マフラー
も手放せなくなる頃には彼もクラスに馴染んでいた。
そんなとき、彼と私の仲は一変した。
「真白、海に行こう」
きっかけは彼のそんな一言。
何故いきなり、と戸惑いながら私は頷く。
明日の日曜日、と彼は言うと
いつもの分かれ道を曲がって消えていった。
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】久々更新 ( No.79 )
- 日時: 2014/10/07 19:30
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: jEJlOpHx)
——‥*※*‥——
彼が指定した待ち合わせ時間は、四時。
ちょうど夕暮れで、空が赤く色付く頃。
ふっと海を見ると、沈みかけた太陽が空と海を
赤く燃やしていた。
「真白、待ったか?」
ちょうど私も今来たところ、と伝えると
彼は頷いて手をとった。
「え?なに命——」
「真白、好きだよ」
彼の決心したような口が、そう話すのが聞こえて。
突然のことに私の頭は真っ白になって。
彼は私を見つめて、微笑んだ。
……どうして?
なんで?今、そんなことを言うのだろう?
私達は、友達のはずだ。友達でなくてはいけないはずだ。
「これは期限付きの恋だよ」
彼はまた、微笑む。
私の頬を、涙が伝った。
「……私も、好き」
そう言うと、彼の体温が私を包む。
彼は私を、抱きしめる。
私も彼を、抱きしめる。
彼は私の唇にそっと唇を重ねる。
これは期限付きの恋。
彼が去る、一ヶ月前のこと。
——‥*※*‥——
それから。
私達は、前よりもずっと長く一緒にいるようになった。
休日は出かけ、放課後は共に帰る。
海を見たり、公園へ行ったり、遊園地へ行ったり。
隙間を見つけては埋めるように私達は共にいた。
気づけば隣に彼がいるのは当たり前だった。
時が過ぎるのはとても速い。
何かに夢中になるほど、速く速く過ぎる。
だから一ヶ月なんて、あっという間で。
——‥*※*‥——
「真白、海に行こう」
いつものように彼に誘われ海へ行く。
待ち合わせは午後の四時。
目を開けば、一ヶ月前と同じ景色がそこにあった。
だけど今回は彼が先に来ていた。
少しだけ、違う。
「命、おまたせ」
小走りで駆け寄ると、彼はいつかのように笑う。
いつもは嬉しい彼の笑顔、
だけど今日はたまらなく切なかった。
彼と手をつないで海辺を歩く。
冬の夕日は今日も、空と海を燃やしていた。
私達はただ歩く。
いつもより手を強く握って。
やがて彼が、立ち止まる。
あの日と同じで、あの日と何かが違う空気。
彼の手が離れ、温もりが風で消えた。
彼は私を見つめる。
「真白、好きだよ」
あの日と同じ言葉を彼は囁く。
あの日と違う気持ちが心を満たす。
「真白、好きだよ。誰よりも。
これは期限付きの恋だった。だからもう、別れよう」
一ヶ月前の日と似ていて、だけど決定的に違う
矛盾した言葉を彼は囁いた。
涙は出なかった。
最初から知っていたから。
今日彼がここから去ることを、知っていたから。
「私も。私も命が誰よりも大好き。大好き」
彼は静かに頷いた。
そして温もりが私を包む。
彼は私を抱きしめる。あの日のように。
私も彼を抱きしめる。最後の温もりを。
そして最後にやさしくキスをする。
「さよなら、真白。元気で」
「さよなら、命。……さよなら」
抱き合った体を離すと、彼は歩き出す。
振り返らずに、早足で歩き出す。
私は彼が見えなくなるまで見つめていた。
冬の風が彼の最後の温もりを奪って、消えた。
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】久々更新 ( No.80 )
- 日時: 2014/10/07 19:32
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: jEJlOpHx)
——‥*※*‥——
「えー、今日の朝、城田が引っ越した。
三ヶ月という短い期間だったが———」
いつも通りの、朝のホームルーム。
そこにはやはり彼がいなかった。
当然だけれど、彼がいなくなっても朝は来る。
クラスメイトは彼のことについてヒソヒソと
思い出話を交わしている。
彼はメールアドレスも電話番号も変えたと、
今朝クラスとの男子生徒が言っていた。
彼が、いない。
隣の席は当然、空で。
でもまるで私は、彼と会えないなんてまだ信じられなかった。
心の奥でまだ信じていなかった。
——‥*※*‥——
一時間目、二時間目……。
一人のお昼休み、午後の授業。
驚くほど速く時間は進んで。
彼のいない一日の空が段々と日を傾けた。
私は呆然とした。
そして私は——走りだす。
——‥*※*‥——
彼の家だった場所、二人で行った公園、近くの遊園地。
彼を探すかのように私は走った。
だけど、それでも彼はいない。
結局私は午後の四時、海へ来ていた。
夕日で燃える空と海は、悲しいくらいあの日と変わらない。
夕暮れの、赤と紺に染まる空を見上げた。
『好きだよ』
彼の声が聞こえた気がして、振り向く。
そこには何もない。ただ、砂浜が広がるだけ。
——————ああ。
彼が、いない。
もう彼はいないんだ。
彼の温もりを感じることはないんだ。
命は、もういないんだ。
分かっていたはずの、だけど信じられない事実に
今更驚いた。
涙がやっと、溢れ出てきた。
「……っ」
一度流した涙は止まらなくて。
私は子供のように、わぁわぁと泣いた。
砂浜を立った一人で歩きながら、ただ泣いた。
体中の水分がなくなるんじゃないかと思うくらい
泣いて泣いて、泣いた。
夕暮れの砂浜に私の泣き声が響いた。
——‥*※*‥——
どうにか、涙と嗚咽が止まった頃。
私はそろそろと帰り道を歩き始める。
……前を向いていかなければいけない。
あの時、彼が振り返らなかったように。
私も振り返らずに歩かなければならない。
「ありがとう、命」
あなたが本当に大好きだった。
「さよなら、命」
その呟きは風がどこかへ運んでいった。
夕暮れの赤と紺に染まる空。
一つの流れ星が現れて、消えた。
——‥*※*‥——
きっとあれは、神様から見たら小さな出会いと別れ。
ただ、少年が消えて。
少女は振り返らずに歩く。
それだけのことなんだろう。
彼は流れ星のようだった。
流れ星のように現れ、流れ星のように消えた。
あの時見つめずに追いかけていたなら。
何か、変わっていたのだろうか?
彼は今、どこにいるのだろう。
何をしているのだろう。
私が見上げている空を見つめているだろうか。
そして私は願う。
彼があの日のように、笑っていますように、と。
——これは短い、恋の話。
期限付きの、あの日私の駆け抜けた、恋の話。
——‥*※*‥——
「貴方を好きになれてよかった。
そう思える日が
いつか来る。」
出会いと、別れ。
それはきっと必然で、避けられないこと。
でも、私はこう思います。
別れがあるから、出会いは美しいのだと。
誰かと巡り会い、また別れる。
その別れの時、出会えて本当に良かったと
そう思えるのでしょう。
時はいつも進みます。
時が進めば、別れは近づきます。
でもその分、次の出会いにも近づくのです。
それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:作者不群》