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Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.91 )
日時: 2014/12/02 00:52
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: ztDxVDAP)

心の色

《本編》

Episode10 私の愛と心の色

あ、起こしてしまいましたか?
ふふ、眠っていらしたんですよ?

森にも薄い霜が降りてきました。
動物たちも冬籠りの準備ですね……。

では、本日の物語を読みましょうか。

本日の話は、人を愛する心の話。

誰かが愛しくて恋しくて、欲しくてたまらない。
だけれどその心は手に入らない。

そんなもどかしい感情は多分、どこにでもあるものです。

ただ、愛してほしい。
そう願った人間の話。

「私の愛と心の色」
それでは始まり、始まり。

〔character〕
田山 清  タヤマ セイ

戸田 流花 トダ ルカ

戸田 梨花 トダ リカ

    ——‥*※*‥——

冬の白くて鋭い日差しが部屋を照らしていく。
柔らかな白いシーツが弧を描いているベッドの上。

そこに私と彼はいる。

隣に眠るのは愛しい人。

熱い夜は過ぎ去り、まるで気絶するかのように寝ていた。
……彼は私のことが好きなわけではない。
でも私は深く彼を愛していた。

彼の名前は、田山清。
同じ大学に通う私の好きな人。

何故好かれてもいないのにこうして夜を共にして
隣にいるのか、今更ながら笑えてきた。

——清には、好きな人がいる。

もちろん私ではない。
皮肉なことに、私の妹である戸田梨花だ。

しかし梨花には、彼氏がいた。
それも結婚を約束するほどの仲の。

私は清を求めている。
清は私を通して梨花を見ている。
全く、歪んだ関係だ。

けれど私は酷いことに、彼に抱かれるのが嬉しかった。
彼が私を見ていないとしても、
彼の温もりを感じるのが心から嬉しかった。

梨花の姉である私に清が相談してきたのは前々からだった。
そして私が清を誘ったのは昨日。

清は梨花に恋人がいることを知らなかった。
梨花は極力周りに話すのを避けていたし、
私もわざと清に教えていなかった。

だから昨日、教えてあげた。
梨花に恋人がいることを。

その時の清の絶望した顔。
見ていて辛かったけど、胸が軽くなった気がした。

流れのままに私達は一夜を過ごした。
これでいいのかと、何度も思った。

だけど己に逆らえなかった。
今の私には清が全て。
そう、未だに抱かれた幸せに浸る私には。

手を伸ばして、清の髪を撫でる。
黒い髪がサラサラと揺れた。

——いつか、私を愛してほしい。

その愛を、瞳を、私に向けてほしい。
清の愛がほしい。

狂っていると思う。馬鹿げていると思う。
好きな相手を絶望させて、なお愛を願うなんて。
それ程に私は清に溺れていた。

清が、好きだ。
誰よりも深く愛している。

ねえ。
「貴方が欲しいの……」

その言葉は誰にも聞かれずに溶けていく。

もう一度だけ、強く思う。
清が、……清の愛がほしい。

外では鳥達が朝の訪れを告げていた。

    ——‥*※*‥——

「片思いでもいいの。

 二人分愛するから。」

愛がほしい。
きっと誰もが切に願うこと。

誰かに、愛されたい。
誰かを、愛したい。

そう思うのは実に自然のように感じられます。
でもどこか不自然だと思いませんか?

愛するというのは、人が無意識的領域
つまり心の深いところで思うこと。

「愛したい」と望むとのではないのです。

大きな愛の力が、何よりも怖いものなのかもしれません。
それは狂気にさえ繋がるのです。

それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。

《引用:映画・荒野を歩け》