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Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.98 )
日時: 2015/01/10 19:19
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: NlHa02Hm)

《本編》

Episode11 ティータイムにロマンスを

あら、お久しぶりですね。

今紅茶を切らしていて……ミルクティーはいかが?
もうすっかり雪景色ですね。
外は寒いでしょう?
動物たちも冬眠して随分と静かになりました。
 
では、本日の物語を読みましょうか。

今回は少しだけ甘いお話。
寒い冬には暖かい春の話を。

麗らかな日のお茶会。
いつか、どこかのティータイム。

「ティータイムにロマンスを」
それでは始まり、始まり。

〔character〕
ミリア・レティシー・ガザエフ
(ミリア・レティシー・キュイ)

レナート・ジャック・ガザエフ

    ——‥*※*‥——

大陸の端、海辺の大国ガザエフ。

数ヶ月前に次期国王の第一王子と隣国の第一皇女
の婚約が発表された。

美しく聡明な隣国の皇女と若く凛々しい大国の
王子の婚約。
古くから親交が続く両国の更なる推進として、
両国の民は大いに喜んだ。

これはそんな、とある春の話。

    ——‥*※*‥——

どこまでも青い空に薄く浮かぶ白い雲。
地面に目を向ければ小さく愛らしい花が咲いていて、まさにお茶会にはもってこいの季節。

目の前の小さなテーブルにはスコーンや
ケーキやクッキーにジャム。
手元にはそれこそ湯を入れれば割れてしまいそうなほど
薄く繊細な紅茶の入ったティーカップ。

立ち込める甘い匂いと、春の花の香り。

「至福だわ……」

うっとりと目を閉じる。
……あーあ、この幸せが続けばいいのに。

そう思ったのはコツコツと足音が響いたからだ。
もう聞き慣れてきた足音。

「こんな所にいた、ミリア・レティシー皇女?」

響く男の声。耳に届く声は心地よいと貴婦人方の間でもっぱらの噂。

——見つかっちゃったか。

せっかく王国史の授業もお裁縫も終わらせてきたのに。
ダンスの先生から逃れようとここに来たのに。
なんで来るのかしら。

「……何よ、レナート第一王子さん?」

目を開いてみれば案の定、そこにはふわりと佇む
ガザエフ王国第一王子……にして、信じたくないが私の婚約者の姿。

光の加減で銀にさえ見える不思議な金髪と緑の瞳。
その目はニヤリと笑っていた。

「またダンスサボろうとしたな?」

……ぐ。
やっぱりバレてたのね。

がっくりと肩をすくめる。
あのダンスのケイティ先生、厳しいから苦手なのに。

「ちなみにケイティ教師が菓子厳禁と言っていた」

う。

「太ったらコルセットを死ぬ程キツくする羽目に
なるからやめろとのことだ」

ううう。

「なのに姫様は案の定ティータイムときた」

………あー、もうこいつは!

「うるさいわね、お茶くらい勝手にしたっていいじゃない!
私が太っても貴方には関係無いでしょう!」

それにまだケーキとか食べてないし。

ククク、と笑うその顔がいらつくのよ。
ケーキでも投げつけてやろうかしら。

「まあいいさ。紅茶くらいな。俺にもくれ」

ドカリと当たり前のように目の前の席に座る。
……は?

「貴方、公務とかはないの?それでも第一王子でしょ」

「そんなもの終わらせてきた。未来の妻の顔を見るために、な?」

彼はフッと笑う。
……何。何なのよこの男は。

「……意味がわからないわ」

彼は何食わぬ顔して紅茶を飲み始める。
何勝手に飲んでいるのかと言いたいが、
また何か言われそうでグッとこらえた。

「そういえばこの頃名前で呼んでくれないよな、
ミリア?」

「……何よ、別にいいじゃない」

ギロリと目の前の男を睨む。 
確かに小さい頃は散々呼んでいたけど、気づけばあまり呼んでいない気がする。 

でも別にいいじゃない。

「そういうなよレティ」

「なんでわざわざミドルネームで呼ぶのよ……」

この男はさっきから何がしたいのか。
というか私もうすぐ結婚するんだなあと思うと、なんだか嫌になってきた。
なんで相手が生意気な王子なんだろう。

「まあいいさ。ミリアの心は自分で手に入れる」

……でも別に嫌いでもないんだけどね。 
多分頼りになるんだろうし。多分。

「……って、聞いてなさそうだな」

「え?なんか言ったかしら?」

顔を上げるとじっとこちらを見つめる彼。
問には答えずにガタッと席を立ち上がった。
そのまま私の目の前に立つ。

「え、何……」

言葉を紡ぐのを待たずに、ふわりと唇に温かさが伝わった。
甘い、柔らかな感触。

ふっとそれが途切れると、頭上からしてやったりというような笑い声が聞こえた。

…………え?
え?

「え?」

もしかして今の、キス?私のファーストキス?
顔が真っ赤に染まるのがわかる。
頬がものすごく熱い。 

「少しは意識したか?」

視線の先には不敵な微笑み。
意識するって、何。

彼はさっと背を向けると歩き始めた。
聞く間もなくヒラヒラと手を振って遠のいて行く。

やがてその背が見えなくなった頃。
ようやく頭が冷めてきた。

「…………ばかじゃないの」

彼が消えた通路を睨んでみる。

悔しいことに唇はまだ熱いまま。

唇が重なった時の甘さが紅茶の蜂蜜のせいなのか、
はたまたキスのせいなのか。
私には最後までわからなかった。

「…………ばか」

投げやりに呟いた言葉は、風がからかうようにさらっていった。

    ——‥*※*‥——

「あの人が私を愛してから、

 自分が自分にとって

 どれほど価値のあるものになったことだろう。」

まだ芽生えたばかりの恋心。
たしかに育っていく愛の種。

甘い味はきっと、初めての愛の味。

きっと皇女と王子は仲睦まじく。

いつかあなたにも、そんな素敵な恋ができますように。
素敵な出会いがありますように。

いつかどこかのティータイム。
麗らかな春の日にはロマンスを。

それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。

《引用:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ》

    ——‥*※*‥——

「ティータイムにロマンスを」
今回はお題サイト「loop」様より頂きました。
ありがとうございました。