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- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.108 )
- 日時: 2015/01/18 12:57
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: COM.pgX6)
《本編》
Episode13 訪れと足跡と、涙。
あら、こんばんは。
今日は雨が降っていたでしょう?
そろそろ雪に変わる時間でしょうか。
動物たちも……今はまだ、眠っています。
では、本日の物語を読みましょうか。
本日の物語は、戦争の過ぎた世界。
約束に涙する一人の少女のお話。
「訪れと足跡と、涙。」
それでは始まり、始まり。
——‥*※*‥——
平和。
それって、なんだろう。
正義。
それって、なんだろう。
真実。
それは、いったい——……。
——‥*※*‥——
1946年、春。
日本国の新しい朝。
“やり直し”のはじめの一歩。
隣に、貴方は居ない。
……春の桜が散る。
ひらひら、ひらひら。
蝶のように、雪のように。
それはさながら、儚い命。
「……何故ですか?」
青く透き通る空を見つめる。
からかうような日が眩しい。
あの日の思い出も、今は。
何故、貴方は居ないのか。
何故、貴方は死んだのか。
嗚呼、貴方は、貴方は、貴方は。
「……何故、笑うのですか?」
突撃の前夜。
何故あの人は、抱擁の中で笑ったのか。
あの時の笑顔が離れない。
あの時の声が離れない。
嗚呼。
何故、貴方は嘘をついたのか。
声が耳に蘇る。
何日立っても忘れない。一言一句覚えている。
“きっと戻る。だから泣かないでくれ”
約束。
あの時の抱擁も。涙も。笑顔も。さよならも。
「……全部、約束したじゃないですか」
涙が、あふれる。
貴方はもう戻ってこないのですか。
「戻るって、言ったじゃないですか。
大丈夫って、笑ったじゃないですか」
なのに。なのに、なんで。
——なんでここに、今貴方は居ないのですか。
涙があふれる。
桜が散る。私のことなど知らぬ顔で。
それがまるで、空に散った貴方のようで。
貴方は綺麗だと言っていた。
だから春になったら見ようと約束した。
それももう、叶わないのか。
「約束、したじゃないですか!!」
そうだ。だから私はまたここにいるのに。
約束、したじゃないか。
たしかにあの時、貴方は笑ったじゃないか。
嗚呼。
誰か、教えてほしい。
誰でもいい。何でもいい。教えてほしい。
戦争とは、なんだったのか。
正義とは、なんだったのか。
今こうして手にとった幸せと平和。
それは、なんのためだったのか。
貴方がいないんじゃ、意味がない。
私だけがここにいたって、意味がない。
正義の名の下に振りかざされた権力。
それがどれだけの人を傷つけただろう。
貴方はいったい、何を思って笑ったのか。
何を決めて、嘘をついたのか。
「……馬鹿ですよ」
嘘なんかつかなくても。
私は、ずっと待っているのに。
私は、ここにいるのに。
約束は忘れないのに。
貴方は、どこにも居ないのに。
春風。
どうか貴方に届いてほしい。
そしてどうか、知ってほしい。
春の訪れと、戦争の足跡と、私の涙を。
嗚呼。
私も歩き出さなければならないのですか。
貴方をここにおいて。
……でも。
思い出の貴方は、確かにここにいるのだろうか。
ここに来れば、いつか。
何百年、何千年後になろうと。
貴方と、出会える日は来るのだろうか?
だって、だって。
貴方は一度も、約束を破ったことがないのだから。
今度もまた、一緒に桜を見てくれるだろうか?
いつか遠い未来、貴方は約束を守ってくれるだろうか?
どれだけ思っても、答えはなく。
此処から先には未来があるのみだった。
過去の貴方は、ここにいる。
今の貴方は、私の中に。
未来の貴方は——私を、迎えに来てくれますか?
桜が散る。風に吹かれて。
それはさながら貴方の笑顔。
「……約束、守ってくれますか」
涙があふれる。
ただ、この涙は多分。
新しい決意の涙。
今はたしかに、そう思う。
薫風。
どうか背中を押してほしい。
踏み出す勇気と、信じる希望を。
残してほしい。
春の訪れと、戦争の足跡と、私の涙を。
——‥*※*‥——
「あの日聞けなかった言葉
あの日果たせなかった約束
その後悔と慟哭が
閉じられたままだった運命を開く
一つの光となった」
正義って、なんでしょうか。
悪って、なんでしょうか。
きっと、その境界は曖昧です。
まるで滲んだ絵の具のようにどこからが悪か、どこまでが正義かわかりません。
ならば、彼にとっての正義とは何でしょうか。
国を守ること?
敵を倒すこと?
いいえ、私はこう思うのです。
それは彼女を、守るため。
彼と彼女の約束。
いつか忘れられるかもしれない。
そんな些細な約束。
だけれどいつか、それが守られる時が来ますように。
彼と彼女が、どうか笑って花を見つめる時が来ますように。
平和。
それは確かに、誰もが望んだこと。
それは彼が強く望んだこと。
どうか彼女の歩く道に、平和がありますように。
それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:ひぐらしのなく頃に》