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Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.124 )
日時: 2015/02/14 22:22
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: GbOqdb.J)

《本編》
Episode14 終わりゆくこの世界へ綴る

あらあら、こんにちは。

どうしたんですか?そんなに急いで。
……ああ、雨が降り始めたんですね。

いいんですよ。それより早く拭かないと風邪をひいてしまいます。

……ええ、わかりました。

では、本日の物語を読みましょうか。

本日の物語は、世界の終わりの終わり。
世界に涙した人間の話。

「終わりゆくこの世界へ綴る」
それでは始まり、始まり。

    ——‥*※*‥——

『世界が終わる』なんて、そんな突拍子もないこと。
始めこそ人々は笑い、蔑み。最後には泣き悲しみ、慟哭する。

『世界が終わる』
……それが本当だと分かっても、私には衝撃がなかった。

だって君がいなくなった世界は、私にとってもう終わったのと同じで———……

    ——‥*※*‥——

日光に照らされ、顔の上で光が踊る。
思い瞼を持ち上げるとざわめきが耳をつく。

……そういえば今日は、世界が終わる日だったかもしれない。

いつもとは違う、お気に入りの白いワンピースを着てみる。
誰にも見せるわけではないのに鏡の前で一回り。

そしてわざと窓の外を見ずに部屋を出た。
家の静寂は外とは正反対で心地いい。

父も、母も兄もいない。
私を置いて逃げたのか、それとももう消えたのか。
妙に冴えきった頭は全てを冷静に見つめる。

……だって今更逃げて何になる?

世界は、終わるのだ。絶対に終わるのだ。
それは今まで我が物顔で地球を闊歩した人類にあるべき罰であり、終わりだ。

それからどうして逃れられる?

外に出てみようとドアを開ける。
自分の手に持っている鍵を見つけてつい笑ってしまった。
習慣というのは恐ろしい。もうこの家に帰ることすら無いだろうに。

鍵を床に投げ捨てる。
硬い金属音。
鉄色が、朝日で鈍く光っていた。

    ——‥*※*‥——

外に出た瞬間、耳を騒音が覆う。
誰とも分からぬ叫び声。掠れていく慟哭。赤子が母を呼ぶ声。
……悲しそうに鳴く鳥の声。

空はまるで壊したように割れていて、それでいて美しい。
日は出ているが、星が見える。いつか絵本で読んだ天国のようだ。

「……朝と夜、一緒に見れるなんてね」

人間の、世界の終わりにしては美しい。
きっと誰もが見とれる景色。

気がつけば足は勝手に歩き出していた。
見慣れた道を進んでいることに呆れを感じる。

道では花が終わりを知らぬように咲いていた。

    ——‥*※*‥——

「結局、ここか……」

町外れの丘から、景色を眺める。
昨日まで確かに人が住んでいた街は、最早廃墟だった。

「……ほら、ね」

いるはずもない「君」に話しかける。
なぜだか君が、聞いてくれている気がしたから。

……君が言ったとおり。世界はもうすぐ終わってしまうよ。

誰かの嘆き。誰かの怒り。
それは終わりを彩る歌。

「これは罰?人間への罰なのかな?」

嘆きは後悔に変わり。怒りは諦めが滲み。

「多分君は、非現実的だって笑うだろうけど。
私はもうすぐ死ぬ。何となくわかるよ」

後悔はいつしか懺悔になり。諦めに絶望がうまれ。

「でもね、それでいいと思うんだ」

懺悔は空に消え。絶望は虚無となり。

「……だってこんな最期になって、やっと私は世界が美しいと思えたんだから」

やがてそれらも、空気に溶けて。

……だから、それでいいと思う。

風が後ろから吹き上げた。
自慢の黒髪がはためいて、揺れる。

「死ぬのが怖いなんて言わないよ。だって君がいてくれるもの……」

死にたくないなんて言わない。きっと君がいてくれるから。

声はいつしか掠れていて。

私は歩き始める。
この終わりへ転がる世界を、君が美しいと言った世界を。

……君はいつか、人間は傲慢だと笑った。
それでいて弱い生き物なのだと笑った。

今ならそれもわかる。

自ら世界を壊して力と支配を手に入れた人間の傲慢さを。
壊した世界に嘆き、哀れに逃げ惑う人間の弱さを。

鳥が頭上で鳴いている。
君が死んだあの日のように鳴いている。

君が美しいと言った世界は、終わる時すら美しい。

    ——‥*※*‥——

いつしか私は、膝をついていて。
歩き出す力すらなく倒れていく。

「……君の、言ったとおりだ」

人間は我儘だ。弱い。自分勝手だ。
散々犠牲にしてきて、最期に死にたくないと泣く。

ねえ、君は今見ている?
君が美しいと言った世界の終わりを。

瞳が閉じていく。
見えた空は本当に、本当に綺麗で。
……生まれて良かったと確かに思った。

君はまだ、空で待っててくれている?
君はまた、私に笑ってくれる?

ここは寒い。寒くて寂しくて。

今すぐ君のそばに行く。
君が愛したこの世界の話を、沢山沢山したいんだ。

だから、だから——

    ——‥*※*‥——

“抱きしめて、くれる?”

    ——‥*※*‥——

「あなたと出会えなければ、

50年生きたって

これほど満ち足りた気持ちに

なれなかったと思う。」

世界の、終末。
それはいつか必ず訪れること。
絶対に避けられないこと。

そんな世界の最期が美しいものでありますように。

人間は傲慢です。
だけれど同時に脆くて、弱い。

人間はそういう生き物です。

人を傷つけられずにはいられない。
生きている限り、きっとどこかで誰かを傷つける。

……でもきっと、その分誰かを救うことだってあると思うのです。

願わくば、彼女と彼が……確かに抱きしめ合えますように。

それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。

《引用:市川 拓司》

    ——‥*※*‥——

このお話について。

今回のお話はEpisode2「美しい世界の最期に」と同じ世界観となっています。
Episode2の世界の、別の人間のお話です。

合わせて読んでみてくださると嬉しいです。