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- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.127 )
- 日時: 2015/05/17 01:55
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: LHB2R4qF)
《本編》
Episode16 温もりを知らない君へ
こんにちは。
だんだんと日も長くなっていますね。
……もう、春なんですね。
そういえば、この前朝日に花々が照らされてとても綺麗だったんですよ。
今度ぜひ見てみてくださいね。
では、本日の物語を読みましょうか。
本日の物語は、ずっと昔に確かに在った恋のお話。
結ばれてはならない。それでも惹かれ合った二人の話。
「温もりを知らない君へ」
それでは始まり、始まり。
〔character〕
救世主 / レクス・クロウディア
魔王 / クルル・アマチュレン
——‥*※*‥——
大きく構えるような扉を開けた先。
輝くような剣を携えた姿。
私達は出会ってしまった。
それはまるで物語のように運命的な邂逅。
二人の交わる視線は驚きと、かすかな熱。
「——君が、魔王?」
ああ、ほら。
彼の声が違う私の名前を囁く。
「私は——……」
——‥*※*‥——
曇天。
討伐に行くに最適な——不安になるような夜空。
星は愚か空すら見えない、くすんだ灰色の雲。
思わずため息を吐きそうになって押し留めた。
周りには多数の武装した兵士たち。
彼らは自分の“お供”として来た者達だ。
あくまでこの場所の代表は自分。
ため息なんてしてはならなかった。
馬を操りながら、遠くに見えてきた禍々しい城を見つめる。
少し昔のやりとりが頭に思い浮かんでくるようでうんざりした。
——‥*※*‥——
「帝国騎士団団長レクス・クロウディア。これより汝を魔王討伐特別隊隊長に任命する」
厳かな大広間。
王の深い声が広い城に響き渡る。
「ここから北に位置する魔王城に発ち、魔王討伐を成功させよ」
「……陛下の御命令のままに」
逆らうことを許されない空間。
自分の声が震えないようにするので精一杯だ。
……冗談じゃない。
レクスの心の中では苛立ちが募っていた。
これは表面的には、人々を脅かす魔物と呼ばれる生物を統括する魔王の抹殺の命令。
しかしレクスは知っていた。
十七という驚異的な若さで騎士団団長に上り詰めたレクスを、上層部の大臣達は地位をとられると脅威に思っていることを。
魔物は人間達より数倍優勢な戦力。
一国が特別部隊を編成して突撃したくらいでは滅びない。
——つまり。
これはレクスを魔王討伐に向かわせ、排除しようという国の目論見だった。
「うむ。汝の更なる活躍、期待しておる」
国王の近くに整列する大臣達がしてやったりという空気になったのを感じる。
こうなれば魔王を倒して帰ってきてやろうではないか。
たとえそれが無理だとしても、大臣達に一泡吹かせてやろう。
そんな思いを込めて睨むと、彼らは居心地悪そうに姿勢を正した。
——‥*※*‥——
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.128 )
- 日時: 2015/04/07 02:03
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 65byAhaC)
——‥*※*‥——
曇天にも不思議と映える黒のシルエット。
それが魔王城と呼ばれる、目の前の城だ。
兵士達は……謎の士気に包まれていた。
勝てない可能性の方が強いこの討伐。
己を勇気づけるためだろうか、その姿は討伐への自信に満ちていた。
さて、と。
こうしていつまでもグズグズしていられない。
入ったら一瞬で魔物たちの猛攻に合うだろう。
あえて城の中まで誘き寄せるためか、外には見張りさえいなかった。
しかしきっと魔物側も王城という一つの建物にいる数は限られている。
決して勝てないわけでもなかった。
「これより、国王陛下勅命の魔王討伐を開始する!帝国騎士団の誇りを見せよ!」
兵士たちは声を合わせ叫ぶ。
己を奮い立たせているようだった。
「よし——突入せよ!」
門が破られる。
いち早く王城の扉へ辿り着いた兵士が数人、火槍で扉をこじ開けた。
その程度で開けられるのだから、やはり魔物たちは自分たちの優位さを分かっているのだろう。
ここまで来ても、緊張が生まれなかった。
それは勝てないと思っているからか、勝てると思っているからか。
自分でもよくわからない。
ただ、自分は今冷静にものを見ていた。
突撃した兵士達に早速人型の魔物——頭から角を生やした姿はまるで悪魔だ——が襲いかかる。
帝国騎士団でも選りすぐりの精鋭軍だ。
一方的な嬲り合いにはならなくとも、やはり圧されていた。
そんな中、俺は一直線にこの先にあるであろう広間を目指す。
即ち王の玉座。
魔王討伐こそ目的であり、いったい何体いるかも分からない魔物たちは部下である兵士たちに任せておく。
城内は魔王の城だとは思えないほど美しかった。
磨かれたシャンデリアはキラキラと光を反射して光っている。
だが今はそんなものに見惚れている場合ではない。
そう頭を振り、広間へ続くと思われる最初の扉を睨んだ。
させるか、と魔物が飛びかかってくるが舐めないでほしい。
こちとら伊達に騎士団長をやっているわけでもない。
ひと振りで薙ぎ払い、走る。
扉を勢いで壊して越えると、涼しい廊下に出た。
その先の少し開けた場所に豪勢な扉があった。
そこまで一直線に走る。
途中でやはり魔物達が飛び出してくるが、それを薙ぎ払う。
だがやはり単体で行くには少々の無理があったようで、
腕にそれなりの深さの傷を作ってしまった。
しかしそれに構う暇はない。
応急処置の包帯を当てると走りだす。
何故なら扉は目の前であるから。
走る勢いのままに扉に寄る。
拳を握り締め、扉を壊そうと剣を振りかざした。
「なっ!?」
だがその前に——扉はすっと開いた。
突然のことに息を呑みつつ、ようやく追い付いてきた緊張を感じながら前を睨んだ。
そしてその部屋の奥に、人影を認めた。
予想通りの玉座の上。
だがその上に座る姿は——予想外だった。
「……は?」
そこに座るのは、恐らく外見からして自分と同い年ほどの少女だった。
真っ白な肌に透き通るような蒼い髪の少女は、
驚いたようにただこちらを見ていた。
時が止まった、そんな気がした。
お互いにお互いを見つめ続ける。
自分の中で、感じたことのない感情を覚えながら。
まるで物語のようなワンシーン。
運命的な邂逅とも言えるだろう一瞬。
「——君が、魔王?」
カラカラになった喉からやっと出たのは、そんな言葉だった。
まずこんな時に玉座に座っている時点で魔王確定なはずなのに、とんだ的外れだと思う。
少女は何故が目を見開き、それから少し悲しそうに俯いた。
「私は——」
鈴を転がしたような透明な声。
少女は何かを言いたげにきっとこちらを見る。
しかしそこで大きな音が広間を揺らした。
「陛下!魔王陛下!今こそこの大陸の“帝国”とやらの軍を潰す時です!」
側近なのだろうか、上質な衣を纏った魔物が後ろにたくさんの魔物を連れて叫ぶ。
魔物のものではない剣や怒声が聞こえる。
未だに圧され気味の攻防戦が続いているらしい。
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.129 )
- 日時: 2015/04/07 02:07
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 65byAhaC)
「さあ早く!お腰の剣を手に!人間の帝国側の王より声明があったのですよ——その救世主、とほざく者を打ち負かしてくださいませ!」
少女——魔王は震えた。
どちらかといえば叫んでいる魔物の方が魔王に相応しい気迫だった。
「わ、私——」
少女は腰の剣を抜こうとしない。
それを見てさらに魔物が叫ぶ。
「その御歳になられて尚、殺めるのを躊躇われるか!我々は陛下を望んでもいないのにここまで育てたのです!少しは恩を返してくださいませ!」
……おかしい。
「望んでもいない」?
つまり彼女は無理矢理魔王となったということか?
彼女は魔物の叫びに肩を震わせると、決意したように腰に手をかけた。
そしてスラリと細剣を構える。
「……そ、そうよ、救世主とやら——私が、魔王!」
叫びながら彼女は一気に距離を詰める。
驚きつつ剣を受けるが、彼女は速かった。
まさかこの自分についてくるほどの者が……しかも女でいるとは。
力は五分五分。
剣は互いを受け止めるだけで精一杯だった。
「……何故?君は魔王に?」
刃を交えながら少女に問う。
少女はふわりと寂しそうに笑った。
「魔族——貴方達が魔物と呼ぶ者達の世界では、人間に勝るためにも、同じ人型の魔族の中で最も人と近い姿の者が魔王となるのです」
剣が風を切る音が響く。
「それが——君だったと?」
少女は頷く。
そして顔を悲しそうに歪めた。
「しかしそれは所詮お飾り。私は実権など無いのと等しいのです。先程の魔族達が全てを握っています」
少女はそう言いながらも剣を交える。
どこか諦めたように笑いながら。
「私は外に出たことはありません。貴方が来ると聞いた時……少し、嬉しかったのです。やっとこの窮屈な日々から天へ、私は抜け出せるのですから」
そう言うと彼女はふっと剣を振るのをやめた。
勢い余った俺の剣は彼女の喉元を刺しそうになる。
ギリギリその前に飛び退いて防いだ。
「君は何もしていない——何故死のうとする?」
そう問えば、彼女は不思議そうに首を傾げた。
何故そんな事を聞くのか、と。
「だって私が死なない限り、貴方もここから帰れません。私が貴方に見つかった時点で私は死ぬ定めなのです」
さも当たり前という風に彼女は囁く。
そろそろ周りに気付かれそうだったからか、もう一度刃を交えた。
「なら……外に出たいと思わないか?」
彼女はまた目を見開く。
蒼い髪が光に当てられて輝いた。
「——どうやってですか?」
彼女は無理ですと笑った。
刃が交わる、音がする。
しかし俺の頭の中には一つの計画があった。
きっと上手く行く計画。
騎士団の制服の腰から、自爆用の火薬を取り出す。
彼女はそれを見て息を呑んだ。
「これを使う」
「……貴方は死ぬおつもりですか?」
彼女の信じられないという声の響き。
しかしそんなことは思っていない。
むしろ大臣たちを思うと悔しいから死んでやらない。
「こうするんだ」
栓を引っ張り、火薬に着火する。
それを煙幕弾と共に放り投げた。
——‥*※*‥——
突然のことに戦いの喧騒に包まれた広間は更なる喧騒に満ちた。
「魔王陛下!?魔王陛下!!」
魔物は恐れたように叫び。
「レクス団長!団長っ!団長!?」
兵士たちは自爆用の火薬だと気づき焦り。
そんな中を、剣を交えるのを止めた彼女の腕を引っ張り脱出する。
扉を越え、見つからないようにまた扉を越え、
そして城外へ出た。
振り返って彼女を見ると混乱したような顔をしていた。
当たり前だ。
つい数十分前に初めて会った敵であるはずの自分に、
今こうして手を引っ張られているのだから。
「な、何故……貴方は、何故こんなことを」
……何故だろうか。
自分でもよくわからない。
けれど不思議と後悔もなかった。
「——世界は広いんだ」
唐突にそう呟いた自分を見て、彼女は目を細めた。
「美しいものも、醜いものも沢山ある。そんな世界を知らずに死ぬのは悲劇だ」
美しい花。美しい人。
醜い争い。醜い人。
そんなものが混じり合うこの世界は、本当に広い。
「だから——俺が世界を教えてやる。旅に出るんだ」
彼女は訳がわからないと首を傾げる。
でもやがてその顔に、じわりと喜びが浮かんだ。
「貴方はお人好しなんですね。……本当に本当のお人好し」
普通初めて会ったはずの敵にこんなことしないですよ、と彼女は笑った。
「国と、魔族はどうするのですか?」
彼女はいつのまにか歩いて遠ざかった城を見た。
「あれは自爆用だからな。魔王と共に救世主は死んだ——魔王を失った魔族も弱るだろうさ。美談だろ?」
そう答えると彼女は耐え切れないというように吹き出した。
初めて見る彼女の心からの笑顔は何故だか自分も嬉しい。
「本当に、本当に変な人ですね……レクス様は」
しれっと名前を呼んでみせる彼女に驚く。
聞けば先程の兵士の叫び声で知ったらしい。
「じゃあ俺も聞きたい。君の名前は?」
負けじと問うと彼女は嬉しそうに、どこか恥ずかしそうに笑った。
それを聞かれるのを待ち望んでいたみたいに。
「私の名は——クルル。クルル・アマチュレンと申します」
そう言って笑う彼女の笑顔は誰よりも輝いていた。
空を仰げば、いつの間にか陰鬱だった曇天は星空に変わっている。
そういえば今日は満月だったか。
大きな月が辺りを照らしていた。
「ほら、行きましょう?レクス様」
世界を教えてください、と。
差し出された彼女を手を離さないように。
迷わず握った。
——‥*※*‥——
救世主のいた国から遠く離れた土地で。
「やっぱり何度思い出しても、あの時のレクスは変人でした」
「おいこらクルル。お前なあ……」
その土地の者にとってはおなじみとなった、仲のいい夫婦の姿があった。
彼らは今日も幸せそうに笑いあう。
それはきっと——この先も、ずっと。
——‥*※*‥——
「この目で見なければ
その世界は
存在しないのと同じことだし、
その世界を
自分の言葉にできなければ
獲得したことにならない。」
救世主と、魔王。
そんな特別な関係の彼らの恋。
それでも気持ちは普通の人々と同じなのです。
彼と出会ったあとの彼女は——どんな世界を知ったのでしょう?
世界をどんな言葉で表すのでしょう?
利用された存在だった彼ら。
それでも手を取り合ったのはきっと、彼らだけの世界の美しさを見つけたから。
あなたにもそんな素敵な出会いがありますように。
それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:角田光代『あしたはドロミテを歩こう』》
——‥*※*‥——
久々の投稿となりました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
個人的には若干のコレジャナイ感があったりしますが、満足しています。←え
次の更新がいつになるかはわかりませんが、他の方の小説やコメントには顔を出させて頂くつもりです。
それでは。