コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.16 )
- 日時: 2014/06/21 08:42
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: IhKpDlGJ)
【 足立くん征服計画 】1/2
「足立くんって、舞子のこと好きらしいよ」
いつもの昼休み。
いつもの友達との雑談。
でも、それまでただのクラスメイトだった足立くんがどうしようもなく気になって仕方のない存在に変わった瞬間。
*
次の日の朝、学校の下駄箱で足立くんに会った。
「あ、おはよう。足立くん」
「……? おはよ」
私に声を掛けられたことが意外だったのか、足立くんは少し目を丸くした後、小さな声で返事をした。
足立くんはクラスの中で比較的大人しい人たちのグループに属していて、特定の男子としか話している印象がない。人見知りなんだろうか。
*
「こうやってさあ、放課後に部活の練習風景見るのって青春っぽいよねー」
「だよねー」
その日の放課後、私は同じクラスの奈々美と一緒に教室でだらだらとお喋りをしていた。校庭では陸上部やサッカー部が練習をしている。
「ねえ奈々美—、足立くんって何部なのかなあ」
「えー? ……確か野球部じゃなかったっけ」
「野球部ね、分かった!」
校庭を見渡すと、端の方に野球部と思しき集団を発見した。どうやらランニング中らしい。私は目を凝らして足立くんを探す。────あ、いた! 多分後ろから三番目を走っている、あの人だ。
「もしかして舞子、足立のこと好きなの!?」
奈々美の突込みが入る。
「い、いや好きっていうか……何か足立くんが私のこと好きなんじゃないかみたいな噂があるらしくて、」
「それで気になっちゃってる感じ?」
「……そういう感じ」
みるみるうちに奈々美の目が輝いていく。
「きゃー! そうだったんだー! 告白しちゃえばいいのにー」
「ちょっと待って! それは話が早いよ」
「いやでもその場の勢いって大事だからねー。……ていうか二人、結構お似合いなんじゃない?」
そういって奈々美はククク、と笑った。
*
「あ、足立くん」
次に彼に会ったのは、学校帰りに立ち寄ったコンビニでのことだった。
「え、白坂?」
少年漫画を立ち読みしていた足立くんは、朝と同じように目を丸くして驚いている。
「今帰り?」
「あ、うん」
「そういえば足立くんって野球部だよね?」
「うん」
「あ、いや、今日放課後にランニングしてるのが見えたから」
「あー、なるほど」
「…………」
そして会話を少し続けた後、足立くんと別れた私はパンとお菓子を買って、コンビニを出た。
結局会話は全く盛り上がらなかった。男の子との話題ってどんなのがいいんだろう。明日奈々美に相談してみようかな。
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.17 )
- 日時: 2014/06/21 09:53
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: IhKpDlGJ)
2/2
*
いつもの昼休み。
いつもの友達との雑談。
でも私の意識は、十数メートル先でクラスメイトと談笑している足立くんの方に行っていた。
足立くん、それから遠藤くんと円山くん。彼らは大人しそうな雰囲気が共通していて、大体いつも三人で仲良くしている。会話内容はよく聞こえないけど、彼らは結構盛り上がっているようだった。足立くんも屈託なく笑っている。
この前私と話してたときとは全然違う表情だ。
*
「あれ、足立くん」
それから一週間後、帰りのバスで足立くんに会った。
「最近よく会うね」
今日は足立くんの方からそう笑い掛けてきたので少し意外だった。もしかして案外距離は縮まってきているのかも、なんて。
「……隣、座っても良い?」
口に出してから、自分が思いのほか大胆な発言をしてしまったことに気付く。
「あ! いや、ごめん。嫌だったら別にいいんだけど」
「いいよ別に」
そう言うと足立くんは、二人掛け座席の一人分に置いていた鞄を膝の上に移動させて、スペースを空けてくれた。
「ありがと」
少し胸が高鳴ってる。私の方から言っておいて。
「今日、部活は?」
「今日は休み」
「へー、いつも駅前行きのバスに乗ってるの?」
「いや……今日は駅前の本屋に寄ろうと思って」
「そうなんだ。本はよく読むの?」
「本っていうか……漫画ばっかりだよ」
私は、コンビニで足立くんが少年漫画を立ち読みしていたのを思い出した。
それにしても、今日の足立くんはよく笑う。まあ以前と比べてのことだけど。会話もまあまあ弾んだ、と思う。
私が先にバスを降りる時、足立くんは手を挙げて「じゃあまた」とにこやかに笑った。ちょっとちょっと、何か結構良い感じなんじゃない?
────でも、駅前のビルに本屋なんてあったかな。
*
「何それ、めっちゃ展開早いし!」
行きつけのファストフード店で、メロンソーダを飲みながら奈々美が言う。
「でもまだ、ただの友達って感じかなあ」
「いやでもさっ、この前までほとんど話したことすらなかったんでしょ?」
「ほとんどっていうか、一回も」
「だとしたらかなりの進歩じゃーん」
「そう?」
「もうさっさと言っちゃいなよー」
言っちゃう、っていうのは告白する、ということなのだろう。
「だから話が早いってば」
そうして私はオレンジジュースを一気飲みする。
告白、ねえ。前まではそんなこと全然考えてなかった。──でも今なら、そのことが少し現実味を帯びてきているのかもしれない。
*
足立くんは今日も駅前行きのバスに乗ってきた。
「あ、足立くん」
「白坂」
「今日も本屋に寄り道?」
「え、うん」
足立くんはそう言って、私が座っている一人掛け座席のひとつ後ろに座った。私は話題を必死に探して、ようやく思いついたものを振り返って訊いてみる。
「そういえばさ、駅前の本屋ってどこにあるの?」
すると、足立くんの表情が曇った。返答に詰まっているというか、困っているようにみえた。あれれ、何か気に障ることを言ったかな。
「もしかして最近新しく出来たとか? 私、しばらく駅まで行ってないからあんまり知らなくて、」
「あ、いや……ごめん」
ごめん? 何が?
「俺、嘘吐いてた」
「嘘? どうして?」
数秒間の沈黙。ありとあらゆる想像が、頭の中を駆け巡った。
「…………実は、少し前から付き合ってる人がいて、」
「え」
何ですか、それは。
「そんなこと、初めて聞いた」
混乱する心を抑え、私は何とか言葉を絞り出す。
「まだ友達にも言ってないことなんだけど」
じゃあ、遠藤くんや円山くんよりも私の方が先に知ったってわけ?
「それで、本当はその人と駅前で待つ約束をしてて、」
「──それを言うのが恥ずかしかったから、咄嗟に嘘を吐いた、ってこと?」
顔を赤くした足立くんは小さく頷く。そして気恥ずかしそうに黙り込んでしまった。
信号が青になり、バスが走り出す。最近、会話を途切れさせないように気を遣っていたためか、自然と話題を探している自分がいた。
「彼女の写真とかはないの?」
言ってから、後悔した。こんなこと聞きたくもないのに。でも、もう遅い。
「え、あ、一応あるけど……」
幸か不幸か、足立くんは私の動揺に気付かない様子で鞄の中からスマートフォンを取り出す。そして照れくさそうに写真を見せた。
野球部の練習だか合宿だかの時に撮ったものらしかった。二種類のユニフォームを着た男の子たちと数人の女の子が写っている。右端の人だと足立くんは教えてくれた。
「可愛い人だね」
私は心から思ったことを口にする。泣きたい気分だった。
────早くバスを降りてしまいたい。早く足立くんの前から消えてしまいたい。
彼女がいるなんてこと、全然想定してなかった。何だか凄く恥ずかしい。噂なんかほとんどが根も葉もないことなのに、本気にしちゃって。
*
そして、足立くんは私にとってただのクラスメイトに戻った。
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どうやら村雨は失恋話が好みのようです(・ω・)←
ついでに結局想いを告げずに終わる、みたいな儚い展開も好きです(
そういえば本当は、このくらいの長さの短編を書いていくのが理想なんですけどね((
というか相変わらずのノロノロ更新ですみませんorz
そして次はライト版らしく明るい結末にできるようにしたいでs(