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- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.2 )
- 日時: 2014/03/14 21:31
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: IAQru7qe)
【 金魚の飼育係 】
俺の日課、一日二回、金魚に餌をやること。
水槽の上からパラパラと餌を撒くと、ふてぶてしいほどに大きく成長したソイツが、片っ端から消化していく。……飼い始めたときは確か豆粒大の大きさだったと思うのだが、日ごとにどんどん巨大化していって、今や十倍近くの大きさになっている。
コイツを飼うことになったきっかけは、一年前の夏祭りだ。
「あたし金魚すくったの初めて」
俺の隣には、そう言って微笑む浴衣姿の女の子がいた。名前は沙織。俺が当時、付き合っていた彼女だ。
沙織の持っているビニール袋の中には一匹の小さな赤い金魚がいる。彼女はさっきからそれを嬉しそうに眺めていて、俺はそんな彼女の綺麗な横顔を見ていた。
「今うちに水槽とか無いんだよね。今日帰りに買ったほうがいいのかなあ」
「んー、別に今日じゃなくてもいいんじゃない?」
夏祭りには市内から沢山の人が来ていて、帰りは電車もバスも相当混雑するに違いなかった。
「でも、放っておいたら多分すぐに弱って死んじゃうよー」
そうして、小さな金魚を見つめる沙織。俺はふと、以前に亀を飼っていた大きな水槽が家にあることを思い出した。
「…………じゃあ俺の家で飼おうか? その金魚」
*
もうあれから一年も経つのか、としみじみ思う。一年前の小さく可愛らしかったときの面影を一切残していない金魚は、すでに餌を全て平らげていた。
夏祭りの後、沙織は時々俺の家にやって来て、金魚を可愛いと言いながら眺めた。そして、交際は順調だった。
だが、それから半年後に転機が訪れた。親の仕事の都合で沙織が隣の市に引っ越したのだ。
決して会えない距離ではなかった。ただ彼女が転校したことで、自然と会う回数は減っていって、それに伴って電話やメールの回数も減っていった。沙織はきっと、新しい環境になって色々と忙しかったのだと思う。そう考えると俺のほうからも連絡を取りづらかった。
そして、ここ三ヶ月は全くメールも電話もしていない。
もう気持ちが俺から離れていってしまったのかもしれない。でも、ただ単に忙しくて連絡する時間がないだけなのかもしれない──。
沙織の中で、俺は今どんな存在なんだろう。
水槽の中の金魚はすごくゆっくりと、それでも確かに泳いでいる。
*
────────携帯の着信音が鳴った。
画面に表示された名前を見て、心臓が飛び跳ねそうになった。沙織からだ。
「……もしもし」
「あ、もしもし恭平?」
久しぶりに聞く彼女の声は、以前と変わっていないように思える。
「うん、久しぶり」
「あのね…………今から、会える?」
「へ、今?」
「うん。駄目?」
断る理由なんて、あるはずがなかった。すぐさま返事をして、待ち合わせ場所を決めて、電話を切った。
向こうから電話をしてきてくれたということは、まだ俺の存在は沙織の中から消えてないものだと思っていいんだよな? そうだよな?
俺は急いで身支度をして、家を飛び出した。
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村雨は女なので、男の子目線は難しかったです((
不自然なところがあるかもしれませんorz
ちなみにこの二人は高校生くらいをイメージして書きましたv