コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.27 )
- 日時: 2014/07/22 20:00
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: NuyUCoME)
【 浴衣と天邪鬼 】
部活の帰り、俺は蒸し暑い空気を切るように自転車を飛ばしていた。下り坂をブレーキを踏むことなく一気に下って、駅前の公園の横を通り過ぎるとき、こっちに向かって歩いてくる見知った顔と目が合った。反射的に急停止する。自転車がボロい音を立てた。
「瀬名くんだ」
そう言って、幼馴染の相内璃映は俺に微笑む。相内は、浴衣姿だった。そういえば今日は地元の夏祭りだったことを思い出す。
紺の地に赤色の花模様。普段は下ろしている長い髪を今日は後ろで一つに束ねていて、白い首筋が見える。いつもより大人びているように思えた。────綺麗だ、と思った。
「なんだ、あいつとでえとかよ」
「……あいつ?」
「高野だよ高野」
「ああ! 雅樹のことね」
相内は照れ笑いをした。頬がほんのり赤らんでいる。
あいつ────高野雅樹は、相内の彼氏だ。そして俺は高野の腐れ縁。
あいつは高校一年のときに初めて相内と同じクラスになった。そして最初から彼女のことが気になっていたのだと思う。毎日のように相内の話をしてきた。だから、俺は冗談半分で告白を勧めた。相内は、あいつみたいに軽くてチャラチャラした奴は苦手なんじゃないかと思ったから、どうせふられると思って。
そうしたら、一週間も経たないうちにあいつは本当に告白した。相内は顔を真っ赤にしながらそれを受け入れたらしい。
俺は後悔した。余裕ぶってあんなことを言ったのが悪かったんだ。俺のほうが、あいつよりずっと前から想っていたのに。
*
「いや、デートっていうかね、雅樹がどうしても花火見たいっていうから……」
相内が浴衣の袖を握りしめた。心なしか早口になっている。
あいつが花火を見たいだと? 一昨年、男同士五人で祭りに行こうって話になったとき、真っ先にゲーセンのほうが良いとか言ってた、あいつが?
「そんなの口実に決まってるだろ」
「口実って?」
相内がきょとんとした顔で見つめてくるので、俺は慌てて目をそらす。
「本命はお前を誘い出すことだったんじゃねえの」
「…………そう、かなあ」
絶対そうに決まってる、と心の中で言い返す。
言葉を濁しながらも相内は嬉しそうな顔をしていた。分かりやすい。本当に、あいつのことが好きなんだ。そのことが実感として重くのしかかってくる。
────俺はたまらなくなった。ペダルに全体重をかけ、自転車を急発進させる。
「じゃーな。彼氏によろしく言っといて」
「え、あ、うん! じゃあね、瀬名くん」
背後で彼女の声が聞こえた。
いつもよりペダルが重く感じるのは、このうだるような暑さのせいだけではないだろう。
二十メートルほど進んだところで角を曲がるとき、相内の後ろ姿がちらりと見えた。艶やかな花柄、小さい背中。白いうなじ。
祭りを楽しむ二人の姿がありありと想像できてしまう。人ごみの中でこっそり手なんか繋いだりして、狭いスペースで密着して花火を見る…………
────消えろ消えろ。
いつまでもウジウジしてるみたいで格好悪い。相内のことなんて、もう何とも思ってねえよ。今日の祭りだって、勝手に楽しめば良い。せいぜい小さい花火を見て盛り上がっておけば良い。
そしてあいつに喰われてしまえ。
-----
そろそろ夏祭りシーズンですねー(・ω・)
浴衣はやっぱり良いですよね!(何が
あんな態度をとりつつも、これからしばらくは未練を捨てられないことでしょう…((