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- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.34 )
- 日時: 2014/09/20 16:09
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: NuyUCoME)
【 豆太と颯太 】1/2
「あれー!? 野澤じゃね? ひっさしぶりー! 元気にしてた?」
明るい茶髪に着崩した制服。彼は底抜けの明るさを感じさせる口調でそう言った。
「……………………あの、どちら様、ですか」
「あ! ひょっとして分かんねえかー。冴島だよ冴島颯太! 小中学校のとき同じだった──」
「!? まさか、豆太!?」
*
豆太というのはこのチャラ男、冴島颯太(さえじま そうた)の昔のあだ名である。
ずっとクラスの中でも背が低かったから、親しみを込めて皆から「豆太」と呼ばれていた。私もそう呼んでいた。私と豆太は同じクラスになることがよくあって、それなりに仲の良い男友達だった。可愛いというか、恋愛感情というか、少し気になっているときさえあったくらいだ。でも、高校が別々になってしまってからは一切音信普通になってしまっていた。
だけどまさか、こんな風になっているとは。
「座って良い?」
当時の面影を全くと言って良いほど残していない「元」豆太は、それほど混んでいない電車の中で、空いている私の隣の席を指差して言う。それにしても背が伸びたなあ。男の人の平均より少し大きいくらいかもしれない。
「ど、どうぞ」
喋り出しに舌を噛んでしまった。どうしようどうしよう。前と同じように話して良いのだろうか。
「どうもー」
彼はニコニコしながら座る。耳に掛かった長めの髪の間から、シルバーのピアスが見えた。一瞬、どきりとする。普段、私の周りにこんなものを付けている人なんてまずいないからだ。
*
扉が閉まり、電車が動き出した。
「野澤って何か雰囲気変わったよなー」
明るい髪色の豆太はしみじみと言う。いやいや、あんたの方が変わったから! と即座に心の中で突っ込みを入れたが、口には出さないでおいた。
「え、そ、そう?」
話していて落ち着かない。もはやこの人は私の知っている豆太じゃないと思った。
「なんつーかさー、真面目っぽくなった?」
「あー……、そうかも」
実際、そこそこ勉強の出来る人たちが集まる高校に進んだ私は、小中学校のときと比べて真面目な雰囲気の人たちと仲良くすることになり、二年生になってからは生徒会の書記をしたり、いわゆる優等生として学校生活を送っていた。
「俺とは正反対だわー」
これは、肯定してしまって大丈夫なのだろうか。でもかと言って否定も出来ない。とりあえず笑顔でやり過ごすことにする。
ていうか自分のこと、俺って言ってるんだ。前は僕、だったのに。
電車が次の駅に到着した。扉が開き、凄くスカート丈の短い女の子が乗り込んでくる。そしてすぐさま嬉しそうにこちらへ寄ってきた。
「あ、颯太! おっはよー!」
彼女は豆太と同じスクールバッグを持っていた。アイメイクのせいか、目がぱっちりとして見える。
「おはよー由加里ちゃん」
と豆太も笑顔で返す。
由加里ちゃんが、同じ車両に乗っていた派手な女の子たちの集団の元に行ってしまうと、私は豆太に訊いた。
「……もしや、彼女?」
「あはは、違う違う! ただのクラスメイト」
彼女でもない女の子と下の名前で呼び合ったりするのか、今の豆太は。