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Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.37 )
日時: 2014/09/26 20:15
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: NuyUCoME)

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「そういえば、いつもこの時間の電車に乗ってるの?」
 不意に疑問に思ったことを訊いてみる。高校に入学して約二年半、私は毎日この時間の電車に乗っているけれど、豆太に会ったのは初めてだった。まあ、単にお互い気付いていなかっただけかもしれないけれど。

「いや、いつもはもっと遅い時間のやつにのるんだけどさー、文化祭の準備が中々進まなくて、朝から集まってやろー、ってことになってんの」
「文化祭? 何するの?」
「お化け屋敷」
「へえー、楽しそう」

 そういえば小学校の修学旅行の最終夜に、先生たち企画の肝試しがあったことを思い出す。こんなの全然平気、と豆太は強がっていたけれど、傍から見ても怖がっているのは明らかだった。そして最後に呪縛霊に扮した教頭先生を見るなり腰を抜かしてしまったのだ。私には、それでもまだ怖くないと言い張る豆太が可笑しかった。今考えても吹き出しそうになるくらいだ。

「本番はお化け役もやるんだ」
「えっ、豆太が? 大丈夫なのー?」
「いやいや! 自分たちが作った仕掛けにビビるわけねえし!」
「修学旅行のとき、あんなに怖がってたのに」
「あー、あれはー……ただ教頭の白塗りにびっくりしただけだからー」
「うっそだあ」
 そう言って私は笑う。
 このとき豆太と同じ思い出を共有していることが確認できて、実は凄く嬉しかった。ちゃんと、あの時の豆太と今の豆太が繋がったから。

「ていうか良かったら来てよ、文化祭。今度の土曜にあるからさあ」
「あはは、どうしよっかな」
 豆太の通う高校は、ヤンキーとか柄の悪そうな人たちが多そうなイメージがある。そんな人たちのところに(一応)優等生キャラの私なんかが行って大丈夫なのかな、という思いは正直あった。でも豆太がいるなら──豆太にまた会えるなら、行きたいかも。

「来てくれたら焼きそばでも奢るけどー?」
「ま、豆太がそんなに来て欲しいって言うなら、行こうかな」
「はは、野澤ってばツンデレかよ」
 ふと頭の中で、真面目な今の友人たちの中で、誰がヤンキー高校の文化祭に一緒に行ってくれるだろうかという現実的な問題が巡り始めた。

「あのさ、豆太、」
「あのさあ野澤、」
「なに」
「もう豆太って呼ぶの止めない?」
「どうして?」
「ほらもう俺、豆太じゃないし」

 豆太──いや「元」豆太はそう言ってシルバーのピアスを触る。
「あ……そう、だね。もう背低くないしね」
「うん。ていうか、昔のあだ名で呼ばれるなんて恥ずかしくね?」
 なるほど、それもそうか。じゃあ────


「じゃあ…………冴島、くん」
…………言わなきゃよかった。何だか物凄い違和感。学校では、男子は全員苗字にくん付けで統一しているのに。

「それすげーよそよそしいんだけど! 普通に颯太でいいって」
 「元」豆太はがははは、と笑う。そんな男友達のことを下の名前で呼ぶなんて、私にとっては全然普通じゃないんですけど!

 私は気恥ずかしくてもどかしくて、慌てて話題を変えるとそれからしばらくその話を回避しながら会話を続けた。


 会話内容は、小中学校時代の思い出話。
 豆太がトイレのホースで遊んでびしょ濡れになったときのこと、調理実習のときに真っ黒焦げのハンバーグを作ったときのこと、中学の卒業式の後に(学校側から禁止されてはいたけれど)クラスの皆とファミレスで打ち上げをしたこと──。
 話しているうちに、今まで高校生活の忙しさに追われる中で頭の片隅で眠っていた記憶が一つ一つ小さな結晶になっていって、キラキラと輝き出す。とても楽しかった。そしてあの時確かに、私は豆太のことが好きだったのだと思った。





「あ、私、次で降りないと」
 車内のアナウンスを聞いてはっとする。話しているうちにあっという間に駅に着いてしまった。まだ話したいことが沢山あるのに。私はスクールバッグを担いで立ち上がる。
「じゃあね! 文化祭、多分行くから」

「瑠衣子、」

「へっ?」
 突然、下の名前で呼ばれた。思わず間抜けな声を出してしまう。
「これから瑠衣子って呼んで良い?」

 心臓が飛び跳ねる思いがした。ななな、何ですと? ていうか父親と弟以外の男の人に下の名前で呼ばれるなんて初めてなんだけど。何これ、心臓に悪い。落ち着け落ち着け。
 …………でもまあ、私も下の名前で呼ぶことになったのだから、向こうが私を下の名前で呼ぶのも自然といえば自然、なのかな。いや、自然なんだよ、きっと。
「…………い、いいよ」

「じゃあまたね、瑠衣子」
 そう言って右手を挙げる彼の笑顔が、以前の彼の面影とぴったり重なった。
 




 電車を降りて、いつもより早歩きで改札口を出る。
 ────────覚えてくれてたんだ、私の名前。ずっと苗字で呼んでたのに。

 また、何かが始まりそうな気がする。そう思うと何だか嬉しくなった。









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再会をテーマに書きました(・ω・)
そういえば前も電車内の話を書いたような……引き出し少ないですね;

ちなみに>>33が途中までしか投稿できていませんが、また今度書くつもりなのでっ