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- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.4 )
- 日時: 2014/04/08 19:51
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: A.2cGB4E)
【 キラキラ 】
「まもなく三番線に7:16発、各駅停車、柳町行きが六両編成で参ります。危険ですから黄色い線の内側までお下がり下さい──……」
扉が開き、サラリーマンや大学生に混じって電車に乗り込む。今日も相変わらずの満員電車だ。
出発のアナウンスが聞こえた。私はバランスを崩さないように、足に力を入れる。
高校に入学してから一ヶ月が経った。
新しいクラスでは気の合う友達が何人か出来た。それから、同じクラスになったヒカリちゃんに誘われて、男子バスケ部のマネージャーをやっている。
でも、片道一時間かけて電車通学するのはまだ慣れない。全然知らない大人たちに囲まれて過ごさないといけないから。それに早起きもしないといけないし、少し憂鬱。
携帯のバイブが鳴っていることに気付いてみ見てみると、ヒカリちゃんからメールが来ていた。
『二年の魚住先輩って超かっこよくない!? 昨日二人で話したとき、すごくドキドキしたー(≧∀≦)』
魚住先輩……ああ、あの人か。バスケ部で、背が高くて、ちょっと癖毛の人。
格好良いかどうかは正直よく分からないけど、いつも沢山の人と一緒にいて、明るいイメージ。ヒカリちゃんはああいう明るいタイプの人が好みなのかな。
『愛梨は好きな人とかいないの??』
えっ、私?
────その瞬間、電車が大きく揺れた。思わず、横にいたおじさんに寄りかかるような体勢になってしまう。
すぐにすみませんと謝って、携帯を制服のポケットにしまう。
好きな人、かあ。
中学時代はそういう話と無縁だった。高校生になったら自然とそういう経験も出来るんじゃないかと心のどこかで期待していたけれど、現実は想像とは違っていた。
中学のときと同じでクラスの男子と話すことは滅多にないし、バスケ部の人たちはガラが悪いというか、ちょっと恐そうな人が多い。
*
「次は西里、西里です。お出口は、右側です」
あ、次の駅で降りなきゃ。小刻みに揺れる身動きの取りづらい車内で、私は鞄の中の定期券を探す。
「みなさーん! この人痴漢ですよー!」
え、え、何、痴漢!? 車内がにわかにざわつく。私は思い切り背伸びをして、皆の視線の先を見る。
──────────佐伯くんが、大柄な男の人の腕を掴んでいた。
佐伯くん、佐伯翔平。
クラスは違うけど、同じ学年で男子バスケ部の部員。誰かに話しかけられても割りと素っ気ない感じで、口数は少ないし、近寄りがたい雰囲気を持っている人だなという印象だった。
でも本当は、すごく勇気のある人なんだ。全然知らなかった。
電車の扉が開いて、騒ぎを聞きつけた駅員さんがすぐにやってきた。大柄な男の人は大人しくどこかに連れていかれる。
周りの大人たちは相変わらずざわついていた。佐伯くんに拍手をする人もいた。けれど当の佐伯くんは表情一つ変えずに連れていかれる男の人を見ていた。
私の鼓動がどんどんどんどん速くなっていく。
あんなことが出来る佐伯くんのことを、素直に格好良いと思った。もしかして、他の人に対して素っ気ない態度を取っているのは、単に恥ずかしがりやだから?
急に、佐伯くんのことがものすごくキラキラした存在に見えてきた。彼に何かを伝えなくてはという衝動に駆られて、私は後を追いかける。
でも駅のプラットホームは大勢の人で混雑していて、なかなか前に進めない。そうしている間に、佐伯くんは視界の中からいなくなってしまいそうになる。それでも私は諦めず、駅の改札を出たところで追いついた。
「────佐伯くん!」
急に名前を呼ばれて、佐伯くんは驚いた表情で振り返った。
「えーっと、…………あんたは確か、マネージャーの……」
「あ、あのねっ、私さっき同じ電車に乗ってたんだけど…………佐伯くんすっごく格好良かったよ! 本当に!」
そこまで言うと、佐伯くんは少し照れ臭そうに笑ってから足早に去っていった。
私はふと、周りの人の視線を感じていることに気付く。我に返ると、恥ずかしさがこみ上げてきた。こんなに大きな声を出したのはいつ以来かなあ。
────とりあえず学校に着いたら、ヒカリちゃんにこのことを伝えないと。
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愛梨は少女漫画のヒロインにいそうなタイプを想像して書きました←
明るくて青春のお話を書きたかったのですv
村雨は暗いお話のほうが書きやすかったりしますが((