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Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.47 )
日時: 2014/11/04 21:28
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: G2fsKg0M)

【 泣いてもいいですか 】


 私と麻原恵吾は、、学校が終わると毎日一緒に家に帰る。といっても付き合っているわけではない。ただ単に、幼馴染だからである。

 今日の麻原は何だか嬉しそう。さっきからにやにやしちゃって。
「何か良いことあった?」
「へへ、実は……」

「…………俺、なんと今日、人生初の彼女が出来まして!」
「マジ──で?」
 にやけながら「おめでとう俺」とか言って自分に拍手する麻原。────心臓が握りつぶされる思いがした。何これ、どういうサプライズなわけ?

「片平も祝ってよ。俺の幸せを」
 動揺が顔に出そうになるのを必死で抑える。……もてない幼馴染に春が来たんだよ? ちゃんと喜んであげるのが、小学校のころから十年近く一緒に下校している私の役目、のはず。

「よかったね」
 私は笑顔を作った。そして彼のために手を叩いた。

「昼休みにその子に体育館裏に呼び出されてさー、今年同じクラスになってから俺のことずっと好きだったんだって」
 うちの学校には体育館裏に呼び出して告白すると成功する、という阿呆らしいジンクスがある。その子もそれに頼ったんだろう。
「やばいよなー! めっちゃドキドキしたよー!」
 麻原の声のトーンはいつもより三段階くらい高く、心なしか早口だった。……私も今違う意味でドキドキしてるよ、と彼に言ってやりたかった。まさか、私と同じ気持ちの女の子が他にいたなんて。でも好きだった期間の長さで言うと、私のほうが断然上なんだけどな。

「その相手って、誰なの?」
 さも興味有り気に訊いてみる。だってそれが当然な流れだと思うから。
「聞きたい?」
「う、うん」
 嘘。本当は聞きたくなんかないのに。

「四組の牧野亜里沙ちゃんでーす」
 私は適当に相槌を打つ。……聞いたことのない名前だった。まだよかった、知らない人で。もし友達とかだったらどうしようかと思った。

「亜里沙って名前が可愛いよなー。まあ勿論顔も性格も可愛いんだけどー」
 終始にやけながら麻原はぺらぺらと喋り続ける。きっと楽しくて仕方ないんだろうな。私にとっては拷問だけど。

「ていうかこのこと誰にも言うなよ! お前は幼馴染で特別だからなっ」
 そんな特別、要らないっつーの!
「そのにやけ顔じゃ、すぐ皆にばれそうだけど」
 私はそれとなく皮肉ったけど、麻原は終始笑顔のままだった。



 自分の家が見えてくる。たかが十五分くらいの道のりがこんなに長く感じたのは初めてだった。

「あ、そうだ。亜里沙ちゃんから『明日から一緒に帰りたい』って言われてるんだけど────」
 麻原は何だか言いにくそうだった。私はとどめを刺された気分だった。でも、折角可愛い彼女が出来たんだから、そりゃあ幼馴染なんて放っといてその子と一緒に帰りたいよね。
「私はいいよ」
 短い言葉なのに、胸が苦しかった。

「まじで!? ありがと片平、さすが幼馴染!」
「どーせイチャイチャしながら帰りたくてたまんないんでしょー」
 ────ああ、こんなに簡単に終わっちゃうものなんだね。

 じゃあなー、と手をぶんぶん振って、麻原は自分の家に戻っていく。いつスキップし出してもおかしくない、嬉しそうな様子。わっかりやすいなあ。
 ばいばい。私も笑顔で手を振った。「また明日」とは言えなかった。

 ……高校生になってまで一緒に帰る関係が続いたのは、麻原も私のことをちょっと良いなって思ってくれてるからなのかな、なんて思ってた。でも私は本当に「ただの」幼馴染なんだね。
 私はそんな彼の幼馴染として、ちゃんと笑えてたかな。不自然じゃなかったかな。



 麻原のノロケ拷問は終わった。でも胸の痛みは治まらない。むしろ、じわじわ増していってる感じ。暑くないのに、汗が出てくる。ああ、嫌だ嫌だ。
 私の方が麻原の好みも性格も癖も良く知ってるはずなのに、どうして急に現れた子が簡単にもっていっちゃうんだろう。

( 今だけそっと、泣いてもいいですか )






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ひたすら辛い話になってしまいましたorz
ショックを受けたときの悲しみはじわじわやってくるものなのかなあ、と思います。