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Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.53 )
日時: 2015/03/17 17:21
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)

【 ある日美少女に告白されたら 】1/3


「青柳くんのことが好き」
 目の前で頬を紅く染めながら、うつむき気味にそう言う美少女、人見唯華(ひとみ ゆいか)。そして青柳くんというのは……正真正銘僕の名前だ。

「だから、私と付き合って下さい」
 そうして彼女は深々と頭を下げた。長い黒髪が彼女の顔を覆う。あたりは沈黙に包まれた。当然と言えば当然だ。ここは放課後の空き教室。僕と彼女以外は誰もいないのである。

 とりあえず、何かを言わねば。こんなときって何を言えばいいんだ? えーと、えーと、これ以上彼女に頭を下げさせておくわけにはいかないし……!
「……こ、こんな僕でよかったら」

 彼女が顔を上げる。潤んだ大きな瞳で見つめられたので、僕はなお一層ドキリとした。ああ、十八年間真面目に生きてきてよかった!





 けたたましく目覚まし時計のコール音が響き渡る。見慣れた天井、見慣れた僕の狭い部屋が視界に入る。アラームを止めていつものように二度寝しようとした。がその時、昨日の出来事が脳裏にまざまざと蘇ってきた。突然憧れの美少女に告白されたのである。だから僕は現在、人見唯華の彼氏なのである────この僕が!

 確か告白の後、彼女と携帯電話の番号とメールアドレスを交換した、はずである。
 枕元にあった携帯電話を開くと、本当にそこには人見唯華の電話番号とメールアドレスが登録されていた。自分で自分の頬をつねってみる。ビンタしてみる。思い切りグーでパンチしてみる………………これは、現実だ。


 リビングへと向かうと、母さんが食卓へ味噌汁を運んでいるところだった。
「どうしたの拓真、頬が赤いわよ」
「え、いや、これはちょっと……ベッドから落ちちゃって」
「あらそう」
 息子に初めての春が来たことなど知る由もない母さんは、僕の多少無理のある説明にそれ以上突っ込んでくることはなく、いつもと変わらぬ平和な朝食タイムが訪れた。
 一方で昨日までとまるで状況の違う僕は、急いで飯をかきこみ一本早い電車で学校に向かう。すると下駄箱で、中学校時代からの腐れ縁である渋沢に出会った。
「よう渋沢! 今日も良い天気だなあはははは!」

「今日はウザさ三割増しだな青柳」
と、欠伸をしながら呑気に答える渋沢。こいつも僕に春が来たことを知らないのだ。
「ヘイ渋沢! こっちへカモン! 重大ニュースがある」
「なんじゃそりゃ」
 面倒臭そうな顔をした渋沢を、人気の少ない朝の男子トイレに連れ込み、僕は咳払いをした。
「聞いて驚くなかれ」
「そんなことより、後で英語の予習写させてよ」
 そんなことより!? 友人のよしみで僕に怒った重大ニュースを一番先に教えてあげようというのに、何だその言い草は! ……仕方ない、もう少し焦らすつもりだったが、今すぐ言ってやる。

「昨日、人見唯華に告白された」

 それまで眠そうにしていた渋沢の目が大きく見開かれる。それから十数秒間の沈黙。よし、驚いてる驚いてる、ひひひ。思わずにやけてしまう。僕はしばしの間優越感に浸った。

「青柳、お前…………」
「何だい? 質問あるならいくらでも受け付けるぜ友よ」

「絶対騙されてるぞ」
「へ?」
 気付くと、渋沢の表情は既に落ち着きを取り戻し、普段のつっけんどんな彼にもどっているように見えた。

「ま、負け惜しみも大概にし給え」
「だっておかしいだろ」

 そうして渋沢は口を開く。
「人見唯華といえば、この学校で一二を争う美形でありながら、いつも笑顔を絶やさずおっとりとした性格のために話しかけにくいオーラは感じさせない。いわば男女どちらからも好かれるマドンナ的存在だ。そんな彼女が、お前みたいなウザ野郎を好きになるとでも思うか? 少し周りを見回せば、もっとイケメンで性格も良い男子は沢山いるんだぞ……例えば俺みたいにな」
 だから目を覚ませ、と渋沢は最後に付け加え、僕の肩を叩いた。

 僕は背筋が凍る思いだった。確かに、彼の言うとおりだ。人見唯華が僕なんかを好きになるというのは現実的ではない。──────でも! そんなこと、信じられるか!!

 僕は全速力で渋沢の元から走り去った。
「ち、ちょっと待て! 英語の予習見せるって約束だったろ!」
 途中でそんなあいつの声が聞こえたような気がしたが、無視をした。


Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.54 )
日時: 2015/03/17 17:51
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)

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 昼休み、僕は屋上にいた。
 うちの学校の屋上は、カップルがいちゃいちゃらぶらぶ出来る格好のデートスポットとして知られている。昨日までの僕は、昼休みや放課後に屋上へと向かう幸せそうな彼らを見るたびに「早く別れてしまえ」と言わんばかりの黒い視線を投げかけていたものだった。しかし今日からの僕は、寧ろそういう敗者たちの視線を浴びる側なのだ!
「何か二人きりでお弁当食べるって、照れくさいね」
「そうだねー、あははははは」
 僕の隣を歩く人見唯華はやっぱり可愛い。可愛すぎて笑いが止まらなくなるくらいに。でも人一倍シャイな僕は、中々彼女の顔を直視することが出来なかった。

 屋上には既に先客が数組いた。僕と彼女は隅の一角を陣取ることに決める。男らしさイコール行動力をアピールするため先に腰を下ろすと、彼女は僕の真向かいに座った。おかげで彼女とがっつり目が合う状況になる。わお。てっきり横並びに座るものだと思い込んでいた僕は、面食らった。これまで廊下ですれ違うたびにチラ見することしか出来なかった僕が今、人見唯華を独り占めしているのだ。

「あ、あの……、人見さんは、どうして僕なんかに告白を……?」
 弁当箱を開けようとしていた彼女の手が止まり、ゆっくりと僕をみつめる。黒目でかい! 睫毛長い! 肌白い! つーか、このフォーメーションはやっぱり緊張するぞ……!

「そうだなあ、明るくて……一緒にいたら楽しそうだと思ったから」
 そう言って彼女はにっこりと笑った。出ました、悩殺スマイル! はい、完全ノックアウトされましたー!

「へえー、そうだったんだー」
 おっと、平静を装いつつもにやけが止まんねえ。普段は渋沢に「ウザい」の一言で片付けられがちの僕の性格も、見方を変えれば「明るくて楽しそう」になるのか!

 僕は上機嫌で弁当箱を開けた。
「わあ、青柳くんのお弁当美味しそうだね」
「え? そうかなあははははは」
 やべえ、いつもの冷凍食品のおかずが今までにないくらいに美味しく感じるよう。





 放課後、僕は彼女と一緒に学校を出た。学校では常に周囲の視線を気にしなければならない。が、一足学校を出てしまえば、僕たちは籠から放たれた鳥同然なのだ! ……もしかして、もしかする展開があるかもよ?

「私、UFOキャッチャーやってみたい」
 彼女がそう言うので、僕は二つ返事で了承した。どうやら、女子というものはUFOキャッチャーにそれほど関心のない人が多いらしく、彼女も今までやる機会がなかったのだそう。
「僕はいっつも渋沢につき合わされてやってるけどねー」
 UFOキャッチャーやりたいだなんて本当可愛いなあもう、と喉まで出かかったが慌てて止めた。

 僕は幸福だった。話題は他愛もないものだったし緊張で上手く受け答え出来ないときもあった。だけど、普段渋沢や他の男友達といるときとは全く違う楽しさを感じていた。彼女も楽しそうにしているように見えた。──────ひょっとして今、物凄く良い感じなんじゃ…………

「あ、あの……」
 行け! 青柳拓真、男を見せろ!

「今度の日曜……もし暇だったら、嫌だったら別にいいんだけど……僕と一緒に映画観に行きませんか」
 よし、よく言いきった自分! 言い終わると心の中でガッツポーズをとった。後は向こうの反応を待つのみだ。僕は恐る恐る彼女の顔色を窺った。

 彼女は下を向いたまま黙っている。その横顔は、困惑しているように見えた。 あれあれ? さすがに二人きりでの外出の誘いは早すぎたのか? ああ、ちょっと焦りすぎたか……。