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Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.73 )
日時: 2015/05/23 20:19
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)

【 部長と副部長 】


 部長は音楽が好きだった。
 こんがらがった毛糸みたいなもじゃもじゃ頭に赤いヘッドホンをして、今日も彼は音楽を聴く。もう少しで二週間に一度しかない文芸部のミーティングが始まるというのに。他の部員ももうほとんど集まっているというのに。
 私は試しに部長を横目で凝視してみた。が彼は全く気付いていない様子で、机に頬杖をつきながら心地よさそうにもじゃもじゃ頭を揺らしている。


 定刻から十分ほど経った後に六人いる部員が全員集まったので、皆で机を寄せ合ってミーティングを始める。部員への声掛けや統率は副部長である私の役目だ。
「────で、再来月の文化祭の展示なんですけど、うちの部はどうしますか」
 部長がヘッドホンを外したのをしっかりと確認してから私は口を開く。去年と同じでいーんじゃないですかー、と部員の一人が言った。他の部員も同意する。予想通りの反応だった。

「じゃあ今年も文芸誌の発行、ということで。詳しいことはまた再来週決めます」
 結局、いつも部を仕切っているのは私なのだ。

「はーい」
「了解っす」
「あいよ」
「おつかれー」
 部員たちはそう言い残すと、鞄を担いでさっさと部室から出て行った。全く、来るのは遅いくせに帰るときはやけに早いんだよな、こいつら。


 夕日が差し込む部室を見渡す。まだ残っているのは、ヘッドホンのコードのねじれを直している部長と私の二人だけだ。

「ふくぶちょー」
 不意にもじゃもじゃ頭がこっちを向く。
「何ですか」
「いつもありがと」
 部長は私の目を見てにこりと笑った。無邪気で嫌味のない真っ直ぐな笑顔だ。怠惰で適当で文芸部のくせに音楽ばかり聴いている部長だけど、私はこの笑顔が好きなのだと思う。でもそんなことを本人に伝えられるはずがない。目を逸らし、別にいつものことじゃないですか、と素っ気なく言う。

 私が副部長なんてかったるい役割を引き受けたのは、単に部長ともっと話せるかもしれない、という期待からである。実際、前より部長と話す機会は多くなったし、彼が私だけに向ける笑顔を沢山見ることができるようになった。
────でも、それだけだ。私はまだ部長のことをほとんど知らない。いつもどんな曲を聴いているのかさえ知らない。私はそんな些細なことを訊く勇気もないのだ。本当は早く「部長」と「副部長」の関係から抜け出したいのだけれど。






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部活内恋愛って良いですよねー+*
いつか運動部男子とマネージャーの話とかも書いてみたいです(・ω・)