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Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.79 )
日時: 2015/09/03 23:48
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)

【 鳥籠の愛 】


 ベージュを基調とした1LDKの小奇麗なアパート、その一角にある白いベッドの上で俺は彼女に押し倒されていた。彼女は俺の上に馬乗りになってシーツに両手をつく。

「そっちから襲ってくるなんて珍しいじゃん」
「……たまにはこういうのも良いかと思って」

 彼女の名前は、璃乃。俺より2歳年下の20歳。長さの揃った前髪でストレートロングの黒髪に、白い肌が映えている。今日はブルーのアイシャドウにオレンジのルージュを付けていた。
 俺は璃乃が次にどう出るかを楽しみに待った。しかし彼女は一向に行動を起こさない。俺を部屋に誘って会話もそこそこに押し倒してからのことは、きっとノープランだったのだろう。そう思うと、笑いがこみ上げてきた。
「な、なんで笑うんですか!?」

 俺が高校3年のときの部活に、新入部員として彼女が入部してきて以来の付き合いである。彼女は大人びている。というか、そう見えるように努力している、とでも言ったら良いのだろうか。時としてそれは空回りする。まあそこが可愛いのだけれど。
 今だって、彼女は甘い。おかげで俺の両腕は自由なままだ。

「これで優位に立てたとでも思ってんの?」
 璃乃の瞳が揺れ、両手でシーツを強く握りしめたのが分かった。俺はその隙を見て、彼女の後頭部を掴んで一気に自分の元へと引き寄せた。彼女が小さく悲鳴を上げる。

「俺を襲おうだなんて、十年早いんだよ」
 彼女の艶やかな黒髪を撫でながら、俺はにやりとする。少ししてから腕の力を弱め、彼女を隣に寝転がらせた。身体の向きを横にすると、勿論服は着たままだが──俺たちはベッドの上で向かい合う形になる。案の定、彼女はチークの付いていない頬をピンクに染めていた。

「だってえ……先輩が……」
 璃乃は俺のことを「先輩」と呼ぶ。高校卒業の時点で、先輩と後輩の関係はとっくに消滅しているはずなのだが。習慣というのは一度始めると、中々止めることができなくなるのかもしれない。

「だって、何?」
「先輩が、私のことどう思ってるのか、知りたいから」
 口ではどういうことだよ、ととぼけてみせたが、心当たりがないわけではなかった。実質的に先輩と後輩の関係でなくなってから早4年。今でも付き合いが続いているというのは、単に仲が良いからだけではない。それ以上の感情を抱いているからなのだが、あいにく俺はそういう感情を言葉にするのが苦手である。愛を語るなんてもってのほかだ。無性に恥ずかしく、身体中がむず痒くなるような気がするのだ。我ながら餓鬼のようだと思う。でも、行動で示すほうがよっぽど楽だ。

「私たちって、今どういう関係なんですかね?」
 璃乃の瞳は、俺の答えを期待している。
「それを訊くために俺を襲ったのか」
「だって先輩、いつも訊こうとしたら逃げちゃうじゃないですか」
 たまには痛いところをついてくるな。

「それは……」
「今日は逃がしません」
 璃乃は俺の袖口を掴んだ。主導権を握っているのはどちらだろうか。

 こんな中途半端な関係を続けることに、もう限界が来ていることは自覚していた。そして自分の気持ちをきちんと言葉にする必要があるということも。あくまでも俺が主導権を握らなければならない。


 俺は覚悟を決め、照れを捨てて、彼女の耳元で最高級の愛の言葉を囁いた。





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キス描写までいかないけど、何だかドキドキするようなお話を書こうと思ったのですが…
完全に自分の趣向爆発で申し訳ないです;