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Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.8 )
日時: 2014/04/08 19:56
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: A.2cGB4E)

【 星明かりが眩しいから 】


 コンビニで雑誌を買って家に帰る途中、公園のベンチに人影が見えた。
 後姿から推察するに、男らしいということは分かった。けど、一体何者なんだろう。もう夜の八時過ぎなんだけど。
 危ない人だったらまずいな、と思って公園から遠ざかろうとしたら────相手が振り返った。

「あ」
 私は思わず声を上げる。

「あれー? 吉川じゃん」
 向こうも気付いて声を掛けてくる。その声色は吹けば飛ぶくらいに軽々しく、すぐに夜の闇に吸い込まれていった。

 この男の名前は、御木本和也(みきもと かずや)。
 一ヶ月くらい前に東京から転校してきた。そして私の隣の席になった。

 大都会東京から小さな田舎町にやってきた転校生のことをクラスの皆が放っておくはずはなく、彼はすぐに注目の的になった。なのに、そこからクラスの誰かと親しい関係に発展することはなかった。
 転校してきてから二週間を過ぎると教科書やノートをまともに持ってこなくなり、その度に私が貸す羽目になった。御木本は最初「わざわざごめんねー」とか笑って言っていた。でも彼は、次の日もその次の日も授業の用意を持ってこなかった。
 そして次第に遅刻と欠席を繰り返すようになった。そんな御木本の周りには、いつしか誰もいなくなっていた。


「年頃の女の子がこんな時間にウロウロするなんて、感心しないなあ」
「夜中に一人で公園のベンチで座ってるような変人に言われたくないんだけど」

「俺は星を見ているだけだ」
「は、星?」
「吉川も見てみろよ! 凄く感動するから!」
 御木本は目を輝かせながら言う。こんなロマンチックなキャラだったっけ。
 手招きをされたので、私は御木本の隣に腰掛けて空を見上げた。


──────漆黒の闇に無数に輝く星。初夏の生暖かい空気に包まれて、そのどれもが優美に瞬いている。


「……確かに綺麗だね」
 私は正直に感想を言った。

「だろー?」
「でも感動はしない」
「なっ!? この光景見て感動できないなんて、人生の六十パーセントくらい損してるぞ!」
「これが普通だからね」
「マジかよこの贅沢者めー」

 そうかなあ、と言って左隣にいる御木本を見る。
 彼は端正な顔立ちをしている、とつくづく思う。星明かり以外に照らす物のないその横顔は、いつにもまして色白に見えた。

「学校来ない日って、何やってるの?」
 会話が途切れたので、私は前から気になっていたことを質問してみる。

「んー……、虫捕りとか、魚釣りとか」
「小学生かよ」
「立派な高校生ですけど」
「……そんなことしてて良いの」
「まあ、俺の青春ですから」
 御木本は屈託なく笑う。

「でもこんなド田舎に来たこと、後悔してるでしょ」
「べっつにー」
「学校で浮いてるのに?」
「群れることだけが楽しいとは限らない」

 そう言って彼は私の顔を直視する。強がっているようにも格好付けようとしているようにも見えなかった。御木本が何を考えているのかはよく分からないけど、とりあえず彼は彼で楽しくやっているのだと思った。

「あんたって変わってるよね」
「吉川も変わってるよ」
「へ、私?」
 まさか御木本にそんなことを言われるとは。不意を突かれた私は、動揺を隠すために上を向いた。

「だって俺に対する吉川の態度って、転校してきたばっかりのときも今も全然変わらないじゃん」
「そうかな」
 はっきり言って、自覚はない。

「ほかの人は俺から離れていったけど、吉川は違うじゃん」
「そうかな」
「俺は吉川のそういうところ、好きだよ」

 御木本は真顔でそう呟いたかと思うと、私の腕を掴んで一気に抱き寄せた。
 途端に顔と顔の距離が近くなる。だけど、御木本はいたって平然としているように見えた。やっぱりこの人は変人だ。────いや、変態か?


でも今すごく、御木本が眩しい。




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タイトルの「ほしふるまち」と絡めたお話。
御木本は……あれです。何を考えているのか分からない設定ということで、何でも有りな人物です((