コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 色彩の星を____* ( No.4 )
- 日時: 2014/03/22 14:05
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
父が死んだと聞かされた。
勿論剣の稽古は中止となり、帝国騎士団本部に行くことになった。
カトレアはふうっと模擬刀を収めて、空を見上げた。あの父が、死んでしまうなんて。
親不孝者である自分はその報告を聞いたとき、嬉しくも悲しくも無かった。
ただあるのは血縁関係者が、家族が死んだというのに悲しめないこの複雑な感情のみだ。
簡単な身支度を済ませ、カトレアは執事に連れられる様にして帝国騎士団本部へ赴いた。
本部内はただただ静かで、静寂しきっていた。
真ん中に眠る父の顔は真っ白で、雪と間違われても可笑しくは無いだろう。
母はひしっきりに泣いていた。一緒に居た執事も涙を零していた。ただ一人、自分だけが悲しみもしなかった。
両親とはあまり仲が良くなく、何時も喧嘩ばかりしていた。理由は簡単、自分が騎士になろうとしないからだ。
自分は遺跡を研究したい、そういい続けた。でも親の威力というものがあり、自分にも勇気が無かったので、家でも出来ず今のままをずるずると引っ張っていた。
冷たくなった父の頬に触れながら、静かに目を閉じた。
ふと誰かが背中を叩くので振り返ってみた。其処には少し悲しそうな顔をした幼馴染、セイカ・クロートーがいた。
俯いていてもその琥珀色の髪は綺麗で、悲しげな緋色の目でこちらを見ていた。
「…残念だったな、親父さん」
「そう…残念というか、これが騎士の本分なのさ、誇りある死だと思うのさ」
「誇りある、死か…」と繰り返すようにセイカは呟いた。
彼、セイカは自分の幼馴染である。と言っても生まれた頃から一緒ではないし、会うのも時々だ。
孤児としてやってきた彼は、周りに馴染めないと言う事も無く皆から好かれていた。
貴族の一人娘である自分を対等に見てくれた最初の人でもある。
最初出会った時は開放されていた我が家の花園に迷い込んで、偶々剣術の稽古をしていた自分が見つけた。
ぐずぐず泣いていたのだが、自分や稽古を付けてくれた執事を見るなり表情が変わって「格好良い」と言ってくれた。
その後、彼は何度か花園に迷い込んでは稽古を見て、自分も剣術をやると言い出し、木の棒を取り出して真似事をしていた。
稽古を嫌がる自分を連れ出してくれたりもした。見つかったとき、自分の両親に怒られていたけど。
「そういえばカトレア、未だに稽古はやってるのか?」
「うん、一応。でも嫌なのは変わらないのさ」
「じゃ、じゃあさ!またネリアンの森へ行かないか?あそこで珍しい花を見つけたんだ!」
「珍しい…花?」
「そう!虹色に見えて…あっ」
セイカが興奮気味で話すため、声がだんだんと大きくなっていた事に気付かなかったらしい。
ギロリと睨む視線が痛い。ごめん、と手を合わせ目で訴えるが、自分は自業自得、と呟くだけだった。
「とりあえず、此処から抜けよう。親父さんの前で脱走の話とか駄目だったな」
言うなり思い切り腕を引っ張られる。うわっ、と声を上げて体勢を崩す。それでも転ばなかったのは手に持つ傘が地面を突いてくれたからだろう。
そのとき、藪から棒に思い出したことがある。
「お前はまだ子供だから入るな、」と言われた部屋のことを。
父が駄目と言っていたが。その父がいなくなった今、覗いても良いんじゃないのか。
そう思うとどっと好奇心が湧いて来た。あの部屋の鍵は、父の私室にあるはず。家の者が殆どいない今なら、きっと。
好奇心と興味で埋め尽くされた自分は、自分でも驚くような程の馬鹿力でセイカの手を振りほどいた。
そう遠くは無い家へと走り出す。遠くからセイカの叫びが聞こえるが気にしない。
自分は今、新しい道を辿れる。そう思うと足が止まらない。走り出した衝動は、もう止まる事は無い。