コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 色彩の星を____* ( No.5 )
- 日時: 2014/03/22 16:21
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
「あった…これなのさ!」
見つけた事を嬉しく思い、その鍵を天井に向かって上げてみる。勿論何が起こるはずも無く、けれど自分は感動と喜びで打ち震えていた。
セイカから別れた後、すぐさま家に戻った。勿論家の鍵は掛かっていたが、何かの為に常に鍵を持ち歩いていたのが功を奏した。
扉を開け、誰もいないことを確認すると父の私室に侵入した。
父は言っていた。「家の鍵は閉めても、私室は閉めない。もし何かが入ってもたいしたものは無い、そして家の者が何かを盗むような真似はしないと信じている」と。
残念だけどそれが仇となり、今赤子の手を捻るより容易く侵入できてしまった。
奥にある机を慎重に探り、ご丁寧に名札の付けられた鍵を見つける。
これで、あの部屋に入れる。
そう思うと居ても立っても居られなく、すぐ駆け出してしまった。
いざ扉の前となると緊張で体が強張る。その緊張と感動と、図りきれない好奇心が自分を突き動かす。
カチャリ、と鳴り古びた音を立てながら扉を開いた。
中は真っ暗で下に続く階段があるだけだった。ランプなんて今は持ってないし、探している時間も惜しく、自分は両端にある壁だけを頼りに細い階段を下りていった。
「うぅ〜ん、埃っぽいのさ〜」
項垂れながら階段を下りていくと、広い部屋に出た。
広いといっても六畳半ぐらいしかなく、さらに岩を刳り貫いたような棚がある。広いとは言い難く寧ろ狭いと例えられる部屋であった。
少し息がし辛い事から此処は地下であることが分かる。
「ん…何だろうな、これ」
埃だらけの棚から何かを見つけ手にとってみた。しかし、部屋の中が暗く、丁度近くにあったランプにマッチを擦って火をつけた。
とはいっても少し明るくなるのみで、古びたそれを見るのはそう簡単な事ではなかった。
「あっこれ、本!本なのさ!」
少しの明かりを付けた結果、手に取ったものが本だということが分かった。
棚のほうにランプを近づけてみると、同じように色んな本が沢山あった。
だが、これは本とは言えないほど表紙がボロボロで、黄ばんでいた。それほどの厚さも無くペラッペラであった。
まさか、と思いその手に取った本を開いてみる。黄ばんで茶色くなった文字がうっすらと見える。
"わたしたちは かみのちからをかり
そのちからを ときはなつ
あのさいやくを しりぞける
そんなちからを ぼくらはてにいれた"
「神の…力、」
ぽつりと呟く。そして思ったことは大体確信へと変わっていった。
"われらえむりた ちからをつどい
こうれいじゅつをつかう
まものをぼうそうさせた・・・・・・"
「…あれ、これ掠れて読めないのさ」
落胆の言葉を零したが、心は裏腹にわくわくしていた。これは、父が趣味で集めていた古代エムリタの古文だ。自分が求めていたものだ。
そう思うと、胸から感動がじわりと広がる。
ついつい次に、次にと手を伸ばす。もう家の者は帰ってきて、自分が居ないということで騒いでいるのだろう。
しかし、そんな喧騒から隔離されたこの場所では、誰の声も時間も無い。ただ其処にあるのは、そこはかとない興味だけだ。
次に次にと読んでいる内に、とうとう最後の一冊になってしまった。それを少し残念に思いながらも開いた。
「うむぅ・・・これ、殆ど掠れて読めないのさ・・・」
この中で一番古い古文なのか、殆どの文字が消えかかっていて読むというより見るものとなっていた。
仕方が無くその本を閉じようとしたら、何かが足元に落ちた。
それを拾い上げてじっくりと観察してみる。土のような色のひび割れた指輪。丁度宝石の部分が無くなっている様だ。
自分の中指にはまりそうなくらいの大きさだな、と思いながらもう片方の手で持っていた本に目をやる。
すると、先程まで何も読めなかった本に文字が浮かび始めた。これは古代エムリタが掛けた魔法かな、と思いその字面を読んでみた。
「われ、なんじ・・・と、けい、やくす、るとね・・・がう?
いまこ、こにし・・・がみた、な、す・・・のちから、かりんとす・・・
なんじ、われにつく・・・すこと、われ、なんじにささげ、ること
ここに、かわしたり、生死の天秤・・・!」
気付くのが遅かった。これは、
"我、汝と契約することを願う
今此処に"死神タナス"の力を借りんとす
汝、我に尽くすこと、我、汝に捧げる事
此処に交わしたり、生死の天秤"
降霊術師が主霊と交わすときの、契約の合図だ!
そう思うのも遅く、ボロボロの指輪から光が溢れ出した。
それは、ランプだけで照らす地下室には眩し過ぎて、思わず目を閉じた。
何かに飲み込まれる、そんな感じが身体を駆け巡った。
そして光が失った時、その地下室には文字の浮かんでいない、古びた本のみが残っていた。