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Re: 色彩の星を____* ( No.7 )
日時: 2014/03/23 11:17
名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)

遺跡の中は思っていたよりも古臭くなかった。ただ現代に存在するには神秘的過ぎて、夢の中に居るような感覚に陥る。
暗いかと思われた遺跡内も、岩にこびり付いた発光苔が明かりとなっていた。時々苔の中から光る結晶を見つけ、蛍などが飛んでいたら幻想的なんだろうな、と頭の隅で考えていた。
岩と岩の切れ目から降り注ぐ日光の光が、遺跡内部を照らす。蔦が絡み合ってたれている。
まるで御伽噺の中みたいだった。
一応女子であるカトレアもこの光景に喉を鳴らす。普段そういったことに興味を示さないセイカでも、見とれていた。

「綺麗なのさ・・・」
「近所にこんなところがあったなんてな・・・」

感嘆の息を漏らしながら言う。
彼は現在親戚に預けられ、その親戚の家がネリアンの森の近くだと言う。
ネリアンの森には凶暴な魔物が沢山住んでいて、それから守る結界を張られているとは言え、何時結界が壊れるかはわからない。
もし、結界が壊れたとしたら真っ先に狙われるのは親戚の家であろう。
そんな事態を起こさないためにも、彼は時々この森へ来て魔物を狩っているらしい。
丁度さっきあった時も魔物を狩っていたんだろう。現在は鞘にしまってはいるが、出会った時は二つの剣を両手に携えていた。
一方自分は飛ばされた身なので丸腰である。よくよく考えてみれば、魔物が大量に居る森の中の洞窟に普通魔物は居ると考える。
だからセイカは止めてくれたし、ついてきてもくれた。
まったく、ぶっきらぼうで不器用な幼馴染ができちゃったもんだ、と横目で彼を見る。
彼は自分が見ているとも知らずに、岩から生えている結晶を見つめ「どのぐらいで売れるか・・・」とぶつぶつ呟いていた。

「早くしないと置いていくのさ」
「えっ、ちょっと待てよ、早い!」
「違うのさ、セイカが遅いのさ」

ちょっと強気で言ってみたらセイカは黙りこくって、手に取っていた結晶をガリ、と取った。
彼にそんな握力があったなんてと思いながら、自分は足を進める。間も無くセイカも小走りで隣にやってきた。

「そういえばカトレア、なんで此処に着たんだ?」
「・・・降霊術の契約を交わしたのさ」
「・・・は?降霊術?禁忌って言われている?」

冗談にしてはきついぜ、とけらけら笑われた。事実なんだけどなあと横目で相手をみれば、笑顔からどんどん真顔に変わって行った。

「・・・うそだろ」
「ううん。本当なのさ」

自分が冗談を言う性格じゃないということは、長年の付き合いでもうわかっていたらしい。
愕然とした顔で此方を見て、なんとなくごめん、と言ったら更に呆れたような顔になった。

「何があってそうなったのかは知らないけど、どうせ親父さんの死に関係あるんだろ」
「うん、前に話した秘密の地下室に入れたのさ、それで、」

そういって今までの経緯を話した。
全て話し終わった後、彼の表情は複雑な感情を持った男子中学生みたいな顔をしていたが、やがて静かに唇を開いた。

「・・・降霊術って代償が必要なんだろ、何を奪われるのか知ってんのか」
「・・・命、とかだと思うのさ、」

彼は目を大きく開いた。愕然としている。
まあ仕方が無い、普通の人は何だか命を一番大切と思っているからだ。
それに彼は、まだ短い一生のうちに多くの喪失と死を見続けてきたのだ。過剰に反応するのは仕方が無い。

「お前・・・っ!どうして軽々しくそんなこと言うんだよっ!」
「別にこれは自分の推測なのさ、本当は何が奪われるのかわからないのさ」
「でも・・・っ!」
「あっ、・・・あれ、」

淡々と言葉を返しながら歩いていたら遺跡内の最億部についたようだ。
遺跡の最億部には神殿と呼ばれる、神を祀る祠があると聞いたことがある。そしてそこで、神と降霊術者で契約を交わすとも。
開けた場所にただぽつんと佇んでいる古びた祠。しかし、上が開いているようで日光の光が変な形をして降り注いでいる。
緑色の光る昆虫が祠を徘徊していた。何処からとも無く水音がする。何故か、心が疼いた。
先程まで怒鳴っていたセイカが途端に声を無くした。見惚れているのだろう。確かにこれは綺麗だ。
その時、地を這うような、でも優しさを感じる声がした。

『君が契約の合図を出したのかい?』

その声は酷く懐かしく、遠い遠い昔に聞いたことがある声だった。