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Re: 色彩の星を____* ( No.8 )
日時: 2014/03/25 12:51
名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)


「キミは・・・誰だい?」

宙に声が響く。声は音となって遺跡内を震わせる。
懐かしいような声はクスクス、と笑いながら答えた。

『君が契約しようとしていたものだよ、そう、僕は死神タナス。生と死を司るもの』

死神、タナス。と隣でセイカが唾を飲んだ。何処からとも無く聞こえてくる声はこの死神のものだろう。

『さあカトレア・ヴェン・オーディン。早速だけど契約を交わそう。其処にある祠の中を開けてくれ』
「おい、ちょっと待てよ!!」

タナスの言われた通りに祠の中を開けようとした瞬間、隣に居たセイカが両手を広げて立ちふさがっていた。
その表情は驚き、悲しみ、驚愕、その他諸々の感情が入り混じった顔をしていた。
どうやら、本当に自分が契約すると思って居なかったのだろう。

「カトレア、お前契約する気か!?」
「うん、そのつもりさ」
「考え直せよ!主霊と契約した後の事、親父さんが居なくなった今、奥さんを支えられるのはお前だけだろ!!そんな中で契約なんかしたら奥さん、どれだけ悲しむかわかったもんじゃないぞ!!」
「…」

それでも自分は思う。自分は騎士になんてなりたくなかった。そのことで両親と喧嘩もよくした。
自分は、僕は、遺跡を調べたかった。古代エムリタが残したその秘密を。それを解き明かすためには、まず契約しなくちゃいけないんだ。
自分は立ちはだかったセイカを思いっきり睨む。セイカは一瞬驚いたようだったが、すぐに睨み返す。
死神は何も言わない。かといってその姿を見せるということでもない。静寂の攻防が続いた。
瞬間、強い突風が吹いた。上からじゃなく正面から。でも正面には穴らしき穴は無い、祠から吹いていた。
その反動でセイカは前方に転び、祠の扉は開いた。自分は何とか耐えたが、少しでも気を抜かせばセイカと同じく転がっていた。
目を塞いでいた腕を解くと、祠の中が見えた。祠の中には淡く光るブラックオパールがあった。
そのブラックオパールは、そこはかとない何かを感じれた。怖い、そう思ってしまった。

『さあこれを、握ってくれ』

優しい這うような声色が囁いた。自分は引き寄せられるように祠に近づいた。這い蹲っているセイカは中々立ち上がろうとせず、何かをぶつぶつ言っていた。
自分はそんなセイカの異常な反応にも気付かず、祠の前に立った。
手を伸ばし、淡く光るブラックオパールを手にしたとき、まぶしい光が視界を遮った。
眩しくて、思わず目を閉じた。ゆくっりと目を開けると、其処にはボロボロの灰色のコートを着ている青年が居た。宙を浮いている時点で、まず間違いなく人間じゃない。

「キミは・・・」
『そう、僕が死神タナス。会えて嬉しいよ・・・カトレア。』

ゆっくりと柔く微笑んだ。赤茶の髪に穏やかな赤色の目。瞳と同じ優しい色した赤いマフラーが靡いた。
ようやく起き上がったセイカは此方を見て、ただただ呆然と眺めているしか無かった。
こんなことを見る機会なんて、一生の内に一二回も無い、寧ろ無いのが普通の現象である。
優しく微笑むその姿を見て、自分も呆然するしか無かった。死神が、こんなに優しそうだなんてとちょっとずれたことを考えながら。

『指輪に、それを嵌めて』
「指輪って・・・これなのさ?」

いつの間にかポケットに入っていた古びた指輪を取り出す。うん、ゆっくり頷くので手に入れたブラックオパールと嵌めた。
丁度ぴったりに嵌り、瞬間地面から巨大な魔方陣が展開された。
魔方陣の色は禍々しく、そういうところから死神らしさで滲み出るんだなあと感心しながら眺めた。

「・・・おいカトレア、契約、したのかよ・・・」
『そうさ、今さっき契約は成立されたんだよ』
「・・・だそうな」
「・・・はあ、」

セイカは思いっ切り溜息を吐き、諦めた様な顔で続けた。

「カトレア、もう契約したなら取り外せ、とは言わない。
 でもな、覚えておいてくれ。
 お前が契約したことで、悲しむやつがいるってこと・・・」

悲しそうな表情に変わっていった。恐らく悲しむ人って言うのは母や死んだ父、家の者、そしてセイカ自身の事だろう。
そこまで深くも同情は出来ないけど、じゃあさ、と一か八かの賭けに出てみる。

「セイカも付いてくれば良いのさ」
「・・・はあ?」

たっぷり五秒の静寂が流れた。
こんな提案をした理由は至極簡単だ。

「自分はこれから遺跡巡りの旅に出かけるのさ、セイカが付いてくれば怖いことは減るし、それにセイカも悲しまずに済むのさ」
「・・・お前、何いってんのかわかってるのか?」
「当然さ!」
『・・・ぷっ、あっはははははは!!』

ずっと黙っていたタナスがいきなり笑い出した。見ると頭を抱え大爆笑。喧嘩に発展しそうだった雰囲気も、ちょっと和んだ・・・気がする。
頬に涙を溜めて未だヒック、笑いを堪えた状態でタナスは答えた。

『・・・いやっ、ごめん、ね・・・だって君達、夫婦みたっ・・・ふふっ』
「だ、」

ちょっとこれはマジで怒りたい。

「「誰が夫婦だって!?」」

そういった時、タナスの笑いが加速した。さっきまでピリピリしていたセイカも、ちょっと呆れたような何時もの表情に変わっている。

「とりあえず出るのさ、外に」
「・・・おう」
『そっ、そうだね・・・ふふっ』
「まだ笑うかてめえ」
『ごめんよ・・・ふふははははっ!』

ちょっと馬鹿らしいそんなやり取りも、凄く幸せに思えた。