コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 色彩の星を____* ( No.9 )
- 日時: 2014/03/29 10:25
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
遺跡の外へ出ると相変わらずの新鮮な空気が待っていた。来たときよりも日は落ちていて、良い子は帰る時間となっていた。
遺跡内に居る時間はそんなに長かったのか、と思う反面もうちょっと居たかった、というのが本音なのである。
予想以上に体力を使ったのか、或いは死神が近くに居る所為なのか、セイカはちょっと疲れたような表情をしていた。
自分は興味のあることだったらとことん嵌るタイプらしいので、その興味が失せるまで耐えられる体力はある。
何故か付いてきた死神は、ニコニコしながら自分の後ろを歩く。この世界が珍しいかのようにきょろきょろと辺りを見回している。
横目でチラリとタナスを見たが、どう見ても神には見えない。ちょっと変わった風貌をしたヒューマそのものだ。
ただ今現在、ちょっと誤解されそうな姿勢というか格好と言うか・・・まあ変な姿勢をして辺りを見回した。
『へぇ〜この世界には緑がいっぱいなのですね〜』
「おう、・・・でさお前、」
『何だい、セイカくん』
「何で俺によっかかってるんだよ!!!お前重い!!!」
『えーっ、だって僕、久々に神殿内から出たから体力が衰えて歩くのも億劫なんですよ〜許してください〜』
「それだったらカトレアによっかかれば良いだろ!!何で俺なんだよ!!」
『だって主によっかかるなんて恐れ多いし、主、女の子だからね・・・セクハラで逮捕されたくない!』
「こいつ意外とむっつりだな・・・それにカトレアはそんなに胸はない!ほら見ろ!あれを・・・」
そう叫んでセイカは自分のほうを指した。ほうほうこれは、僕への挑戦状かなと思う。
自分の犯した失態に気付いたのかセイカはやべっ、と漏らす。しかし男に二言は無いと言う言葉がある、取り消すなんて言ったって聞いて遣らないのさ。
「・・・タナス、初の実践なのさ、準備は良いな?」
『大丈夫ですよ〜主、』
「さあ、標的はセイカ・クロートーなのさ!」
『じゃあ、遠慮なく狩らせて頂くよ!』
「えっ、ちょっ、まっ、う、うわあぁぁぁぁ!!!」
セイカの悲痛な叫びが森に響いた。
自分はそんなの目もくれず、降霊術とはこんなもので良いのかと一人頷いていた。
「まったく・・・」
少しボロボロになった頭を掻きながらセイカはそう一人呟いた。
乙女の成敗もといお遊びをして戯れていた二人は、日が暮れるまで遊んでいた。自分はそれを眺めているだけでも楽しかったので、二人のやりとりをのほほんと見守っていた。
現在二人…自分とセイカのみでネリアンの森を歩いている。目的地は自分の家だ。
タナスはというと、最近は便利なものでこの指輪のブラックオパールの中で眠っているらしい。
降霊術で使役される神々は普段こういった本体と呼ばれる宝石の中で眠りに就き、戦いに備えているらしい。
タナス自身も「久々に外へ出で、思いっ切り遊んだから疲れたよ」と苦笑いを零していた。
父が遺した古文によると、この世界が創られたのは4000年前のことらしい。
つまり、タナスは4000年もずっとあの祠で眠り続け、今日解放されたということらしい。
ネリアンの森の構造は複雑そうで割と簡単だ。それにこの森のことを熟知しているセイカも居るから、尚更迷うことはない。
沢山の木々を抜け、出てきたのは街を一望出来きる岬だった。
無人の展望台に誰が付けたかわからないベンチ。不慮の事故で人が落っこちないように立てつけられた柵。
勿論誰も居ないわけで、静寂と冷たい空気に包まれていた。
少し爽やかな風を体全体で受け止めて、自分は大きく息を吸った。
前を歩いていたセイカが突然と立ち止まり、僕の方へと振り返った。ほらまた、その真剣な目。
「カトレア、お前、もう此処へは帰らないんだな?」
「…どうしてそう思うのさ」
「やっと解放された身だ。もっと色々な遺跡を調べてみたいんだろ」
「…うん、…でも一回家には帰るのさ、…明日早く、此処を出るのさ」
「…そっか」
彼は残念そうに俯いた。何故そんな顔をするのだろう、それを見ていると此方まで苦しくなる。
何かの迷いを断ち切ったかのように彼は徐に顔をあげた。そして僕の腕を引っ張り、僕の肩に彼は顔を埋めた。
「…ごめん、本当はいけないんだろうけど、今だけ…今だけこうさせてくれ」
「…!」
きっと頬が熱い。体が硬直して手も動かせられないけど、きっと今までになく紅潮してる気がする。
暫くして彼は漸く顔をあげた。凄く残念そうで、悲しそうな顔をしていた。
無理に取り繕った笑顔が痛い。出もしないのに、涙が出そうになった。
「…セイカはついて行ってくれないのさ?」
「俺がついていっても、邪魔なだけだよ」
「…僕は、セイカに来て欲しい…本心なんだけどな…」
呟いた言葉は風に攫われ相手には聞こえなかったようだ。とても悲しいと思うし、苦しいとも思え、ちょっと気恥ずかしい。
セイカは心配そうにこちらを見た。すると右手につけていた指輪が振動し始めた。
思わずそれを突き出してみると、ブラックオパールからにゅるりとタナスが出てきた。
『やっほ〜』
「タナス!なんで出てきたのさ!命令してないのさ!」
『神様だって自分の意思で動きたい時があるんだよ…さて、セイカくん、』
「…!?俺っ!?」
いきなり出てきた奴にいきなり話題を振られて戸惑った。表情に困惑の色が見られる。
タナスはそれも気にせず、出会って初の真剣な表情になり、セイカを見た。
その表情は、敵方にいたとしたらと考えると恐ろしいくらいだった。死を刈り取るもの、タナス。
そう考えるだけで背筋がぞっとした。
『セイカくん、君には来て欲しいんだ。主のためでもあるし、それに…』
「…それに?」
タナスは言い留まった。何か言いにくいことでもあるのか。
「自分からもお願いするのさ、お願いセイカ、来て欲しいのさ」
「…」
セイカは再度俯いた。冷たい風がざあっと吹いた。
暫くしてセイカは漸く口を開いた。蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「明日、決めさせてくれ…今、そんな余裕はない」
「…!待って欲しいのさ、セイカっ!」
呟くと同時に彼は森の中を駆け抜けた。日が暮れ、元々森の中が薄暗いというのもあり、すぐに彼の姿は見えなくなった。
自分は引きとめようとしたが、頑固者の彼が素直に聞くとは思えなかった、でも声は掛けたからまあ希望はあった…はず。
隣に佇んでいるタナスはきょとんとした顔で、去った後を見つめていた。
「…タナス、さっき何を言おうとしたのさ」
『主にも彼にも、まだ伝えられない昔話、だよ』
すぐにいつもの調子になって微笑んだ。その顔は懐かしむような不思議な顔だった。
「…とりあえず家に帰ろうかな」
『じゃあ僕が送っていくよ』
「…えっ」
『じゃあ、捕まっててね!』
「えっ…ええぇぇぇぇっっ!?」
何気なく呟いた一言が禍を招いた。タナスは僕を持ち上げて、岬から飛び降りた。
平然とした顔でタナスは笑っていたが、自分にはどうも怖い。下から当たる風が異様に冷たく、それもまた怖さを倍増させるに難しくなかった。
ふと下を見下ろし思った。この街とおさらば、か。
十何年間という短い期間だったけど、楽しかったなあ。
冷たい風を浴び明るい街に飛び込んで、また明日、色んな意味で自分の始まりを迎えられると思うと、胸が高鳴った。