コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 色彩の星を____* ( No.12 )
- 日時: 2014/03/30 13:01
- 名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)
空は高く澄んでいて雲一つない快晴だ。しかし街は少し霧がかって所謂朝靄が漂っていた。
少女カトレアは少しの荷物を持ち、外へ出た。これなら身を隠すのに良いかも、なんてことを考えながら。
昨日の夜はどうやって屋敷から出ようか、最初に何処に行こうか、そしてセイカは着いてきてくれるのだろうか、と悶々と悩んでおり、殆ど眠れなかった。
そのせいでちょっと気怠いし、目の下にも隈ができていると思う。
まず屋敷から出ること、これはクリア。今日の天気が幸いした。
次に行く場所はまだ決まっていない。でも港町に行けば何か情報が掴めるかも知れないと思い、とりあえず近くの港町コーラルの町に行こうかと思っている。
最後、セイカがついてきてくれるか。
カトレア自身は付いてきてほしいのが本心だ。何より男性一人いるだけで旅の効率が良くなる…と思うからだ。
ああ見えても剣術はできる方なので、道中魔物に襲われても落命する危険性は、一人で旅するよか断然低い。
そういった意味もあるのだが、最大の理由は良くわからないこの感情だ。
こう、相手のことを考えるともやもやして、それでいていざ目の前にすると心臓の鼓動が早くなる。おかしな感情が突き動かしていた。
まあいいや、と大きく深呼吸し、身を隠すのに適し、そしてコーラルの町への近道であるネリアンの森に入った。
森の中は大量の霧で埋め尽くされ、前らしい前が見えない。
こんなに霧が出る時期なんてもう少し後のはずなんだけどなあ、と小首をかしげながら一歩を踏み出す。
すると急に指輪が光り、タナスが出てきた。昨日契約したばかりで、いきなり出ることにはまだ慣れておらず、無表情無感情だと良く言われたカトレアでも流石に驚く。
『ここってこんなに霧が深いのかい?』
「ううん、普段はもっと晴れているのさ」
『そうかい…っ!カトレアっ!』
急に叫びだしタナスはカトレアを突き飛ばした。カトレアは近くにあった木にぶつかりいてて、と声を漏らす。
薄く目を開いてみれば、タナスの奥にウルフの群れがいた。幸い4、3匹ぐらいだったので、頑張れば一人でも清掃できる。
が、今カトレアは降霊術師となった。となれば戦闘スタイルも変わる。
ゆっくりとカトレアは立ち上がり、お気に入りのピンクの傘を強く地面に叩きつけた。すると地面から黒紫の魔法陣が展開される。
それに呼応するように、タナスが巨大な鎖鎌を出現させる。それを掴むと姿勢を低くし、ウルフたちに向き合った。
「術者の名において命ずる!目の前の魔物を一匹残らず残滅するのさ!行け、死神タナスっ!」
『仰せのままにっ!』
言い出すなりタナスは駆け出した。鎖鎌を大きく振りウルフたちの腹を切り裂く。
そこから飛び出た血をカトレアはじっと見ていた。ウルフたちは突然の仲間の死に一瞬怯んだが、すぐ果敢に攻撃を仕掛けてきた。
ウルフたちの鋭い牙はタナスの腕を狙ってきた。しかしタナスはものともせず、槍状に変化させた鎖でウルフを切り裂いた。
圧倒的な力を振るうタナスをじっと見ていた。降霊術を使用するのは初めてだが、何故か体が勝手に動く。
降霊術を使えるように契約したせいなのかもしれないが、こうもっと違う、ずっと昔にやっていたような…。
『カトレア、危ないっ!』
えっ、と声を漏らした。ウルフたちを倒し終わった直後、カトレアが凭れ掛かっていた木の裏に、ウルフの群れが潜んでいたのだ。
タナスが狩ったウルフは4、3匹だったが、その内の一匹が援軍を呼んでいたようだ。
咄嗟に立ち上がりウルフたちに向き合うが、鋭い牙はカトレアの心の蔵まで来ていた。
もう駄目かもな、と思い目を瞑った。
だが、いつまでも痛みは来ず、何かを引き裂くような音がした。
恐る恐る目を開くと、そこには見慣れた幼馴染が、二本の剣を振るっていた。
「…セイカっ!」
「まったく、あぶなっかしいったらありゃしねぇ」
ドサリ、とウルフの死体が地面に落ちた。カトレアは下がれ、とセイカが耳打ちしカトレアは素直に従った。
『僕も戦うよ、』
前に躍り出たセイカと背中を合わせるようにタナスは来た。セイカはそんな相手にも目を暮れず周りを見渡した。
どうやらウルフの群れどころではなく、大群に囲まれていた。あちらこちらの茂みから鋭い眼光が見える。
「とりあえずお前はカトレアを優先しろ、俺が殆どぶっ叩いてやる」
『じゃあお言葉に甘えてそうさせて頂くよ、セイカくん!』
同時に二人は駆け出した。セイカの繰り出す双剣の連撃と、タナスが繰り出す鎖鎌の一掃。どちらを見ても惚れ惚れしてしまう。
しかし、降霊術を使用している際はその場所から動けない。動いたら術式が解かれ、鎖鎌は無くなってしまう。
なのでカトレアは二人の快進撃を眺めるしか無いのだ。それが堪らなく悔しかった。
そう思って地面に突きつけていた傘を持ち上げ、胸の前に掲げた。それは本来騎士の気を付け、の姿勢なのだが、カトレアはこれが慣れていた。
大きく息を吐くと浮かんでいた魔法陣が更に色を濃くした。魔力を多く含んでいるという合図だ。
徐に顔を上げ、傘を前方に突きつける。魔法陣は瞬にして光り、輝きを放った。
「万象の力!我らに撃の力を!フォルツア・レーゲン!」
戦っている二人に赤い魔法陣のような印が付いた。降霊術は神を召喚し戦う職業である、と言われている。
たが、昨日地下室で読んだ古文にはもう一つ、降霊術者ができることがあった。
それは補助魔法と呼ばれる魔法で、人の体に眠っている潜在能力を一時的に呼び覚ますといったものらしい。
彼らに掛けたのは"撃の力"。つまり力だ。
先程からバッサリ切っているウルフたちの傷跡も、カトレアが補助魔法をかけてから深くなっている。
「よっし、じゃあ一気に決めるぜ!」
一旦後ろに後退したセイカがにやっと笑い、戦闘態勢を解いた。その代わり剣を握る手に力を入れた。
赤色の魔法陣が頭上に展開される。彼はヒューマである為魔術は使えないのだが、ヒューマ特有の還元が使える。
還元とは、宙に漂う魔力を取り込み、一時的に肉体を強化することだ。
彼の場合、腕、足腰、そして双剣に魔力を取り込ませ、一段と早く、そして一段と力強くする戦闘態勢をとる。
「来い、聖なる力!我が糧となれ!」
魔法陣が割れ、赤いオーラが彼を包んだ。一瞬にしてオーラが無くなると、見た目は余り変わらないのだが持っている剣が太く、巨大になっている。
タメを入れて走り出すと、先ほどの何十倍も速い速度で駆け出した。後ろで戦っているタナスも、すこーいと能天気な声で評価する。
目にも止まらない連撃で、キリがないウルフの群れを切り倒していく。
たが、ウルフの群れは減らず、寧ろ増えているようにも感じる。
三人が息を飲むと、ガサリ、と異常な音がした。その音がした茂みを見ると、今までのウルフよりも何倍もでかい、巨大な何かがいた。
「あいつが親玉か…」
『でも、あれを倒せば多分この群れは引いてくれると思うよ』
「自分もそう思うのさ。でも逆に言えば、あれを倒さない限り、僕たちは此処で足止めを食らうばかりなのさ」
「そっか…じゃあ、」
じゃり、と地面の砂がなった。二人はもう一度戦闘態勢を取り、カトレアは傘を構える。
それが合図のように、親玉は真っ直ぐに突進してきた。汚らしい唾液が付いた牙を向かせて。