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Re: 色彩の星を____* ( No.13 )
日時: 2014/03/31 12:00
名前: 唄華 (ID: A1.ZfW1L)


「みんな、頑張るのさ!プロテッジェレ・マジーア!」

親玉が襲いかかったと同時に傘を構え、補助魔法を繰り出す。青色の魔法陣は割れ、武器を構え突撃する二人に紋章が付く。
セイカはそれを実感したのか後ろを振り返りウインクをした。ありがとうの意味なのだろう。
全く戦闘中ぐらいは戦いに集中して欲しいと思う。
呆れため息を吐いたが、後ろからガルル…という獣の唸り声が聞こえた。カトレアは振り返りそれを見やる。
親玉が出現したということが追加されただけで、ウルフの大群は消えるということはない。
むき出しの敵意と刃を光らせ様子見をしている。カトレアは唾を飲んだが、傘を構え魔法陣を展開させた。
彼女はエムリタであり、エムリタは生来魔術が使える。
エムリタが使える基本的に魔術は二つ、東の大陸と西の大陸で別れる。彼女は東の大陸生まれの為東洋術が使える。
東洋術は火、地、闇を具現化する。カトレアは口元に余裕を浮かべ、詠唱を唱えた。

「地の咆哮、唸るのさ!テッラ・ルジートっ!」

魔法陣が割ると同時にウルフたちのいた地面が盛り上がり、地割れを起こした。
割れた地面たちは宙に浮き、ウルフたちに攻撃を加えた。やがてそれが収まった頃、大量のウルフが仰向けになって死んでいた。
しかし、後ろからも唸りが聞こえ振り向いたが、ウルフたちは襲いかかっていた。
今度は何とか傘で防御しようと思ったが、傘に重みは来ず、目の前には従えた死神が鎖鎌を振るっていた。

『大丈夫かい、カトレア』

ドサリ、とウルフが転がった。平気なのさ、と答えると、タナスは戦場にいるにも関わらず穏やかな笑みを浮かべた。

「親玉の方は大丈夫なのさ?」
『まあ平気だよ、思っていたよりもセイカくん強くてね…僕はいらなそうだ』

そういって苦笑いしながら親玉を指差すと、奮戦しているセイカの姿が見られた。
親玉が大きく口を開け引き裂こうとしたが、セイカは右に転がり、態勢を立て直す。
ゆっくり頭を持ち上げセイカを探していたが、もう彼は親玉の懐に潜っていた。

「これでも食らって帰りなっ!」

無茶な体制で両方の剣を振るうと、腹から血が多量に出てきた。腹を捌いたすぐに彼は離脱したため返り血は浴びなかったが、気分の良いものではない。
奇妙な叫びを上げ、親玉は転がった。周りのウルフたちもこれには驚いたようで、動揺を見せる。
が、これほどの傷でもまだ立ち上がれるようで、ゆらゆら立ち上がると鋭い爪でセイカを狙った。

「セイカ、危ないのさっ!」

声を張り上げ叫んだが、先ほどのウルフ討伐に結構な体力を使ったのか反応が遅れ、背中を抉られた。

「…っぁっ…!」
「セイカっっ!」
『こりゃ、僕も助けに行ったほうがいいかもね』

緊迫した雰囲気に合わないのんびりとした口調でタナスは赴いた。鎖鎌をガチャン、と鳴らしながら肩に掛け、親玉と向き合う。
セイカはこちらによろよろと歩き、カトレアの前で足を崩した。
カトレアは軽い手荷物の中から神聖術弾をとりだした。
神聖術弾とは、神聖術…いわば回復術ができるように手軽に持ち運べる薬の一種だ。
丸い爆弾のような形をしており、中には人体を回復できるように封じ込められた魔力がたくさん詰まっている。
これの上部についている栓を抜けば、大量の神聖術魔力が溢れ、人の人体を癒すという仕組みになっている。
因みにこれを開発したのは、感謝すべきか忌むべきか、父が所属していた帝国騎士団だった。
傷は浅かれど、出血の量が意外にも多く、青白くなっていくセイカの顔を見つめ神聖術弾の栓を抜いた。
白い魔力が宙を漂い、セイカの傷をみるみる内に塞いでいった。
だが、そこまでできたものではなくて、出血量までは元には戻せない。例え傷を塞いだからといって、血が元に戻るわけでは無いのだ。

「大丈夫なのさ、セイカ」
「…あぁ、なんとか、な。」

むくりと起き上がれば、彼は親玉の方へと向き返る。まだ、戦うきなのだ。

「ちょっ…まだ安静にしてなくちゃっ…!」
「いや、此処で戦わなくちゃ、強くなれないっ…!」
『…お言葉だけど、そんな状態の君はいらないかな』

唐突に割り込んできた死神の声に驚き、顔をあげる。見ると親玉はまだ立ち上がっていた。
先程よりもボロボロだが、セイカが残した傷より深いものはない。まるで、少し傷をつけて遊んでいたかのよう。
対してタナスは余裕の笑顔を見せ、無傷だった。
あいつ、まだ余裕があるのさ、と思ったカトレアは、すくっと立ち上がり傘を構えた。
黒紫の魔法陣が展開される。降霊術を仕掛けるのだ。
カトレアは大きく息を吸い、声を張り上げ命令した。

「術者の名において命ずる!素早く、その親玉を退けよ!」

その声は森全体を震わせるほど、凛とし、且つ力強かった。
タナスはにっこりと笑みを浮かべ、鎖鎌を下ろした。

『…仰せのままに』

静かに呟き、鎖鎌を持ち上げた。だが、いつもと雰囲気がちがく、鎖が槍状になり宙を舞った。
それに呼応するかのように地面から風が来て、土や石が風に乗って踊る。
黒い炎を纏い始めた鎖鎌を見つめ、二人は唖然としていた。親玉やウルフたちもそれに驚いているのか動かない。
ただ一人、不敵な笑みを浮かべたタナスは高く跳躍した。そして鎖を振るい、親玉を縛った。
鎌を高く持ち上げた。肌にピリピリとした覇気が感じられる。これが、死神…!

『死の粛清を喰らえ、デス・ファルチェ!』

急降下し、親玉に向けて鎌を振り落とす。瞬間耳を劈くような爆発音と爆風が襲った。
思わず腕で両目を塞いだ。爆風が止んだところで薄く目を開けば、いつものように笑っているタナスと、後ろに黒い何かがいた。

『終わったよ、カトレア』
「あ…あぁ、お疲れ…なのさ、」

穏やかな声で言われるので、まだ動揺が隠しきれない声で労りの言葉を投げかけた。
セイカは一連の流れをずっと見ていたようで、驚愕と呆然が入り混じった顔でタナスを見つめていた。

『さあ、邪魔者はいなくなったし、行こうよ?』

ハッとする。そうだ、此処での戦いは足止めだったことを忘れていた。ゆっくりと元の進行方向へ赴く。
だが、座りっぱなしのセイカがそれを止めた。

「待てよ」
「…セイカ?」
「俺も、連れて行ってくれ。…お願いだ。」

彼は目を伏せて呟いた。カトレアはキョトンとし彼を見ていたが、すぐ進行方向へ向き直り足を進めた。

「まっ…!」
「ほら、早くするのさセイカ。置いていっちゃうのさ」
『ほらほらセイカくん、主は気まぐれだからね〜早くしないと追いつけないよ?』

いつの間にか霧は晴れていた。鮮やかな緑色が森を彩っている。
セイカは呆然として二人の背中を見つめたが、くすっ、と笑い二人の後を追いかけた。

広大な世界と、過去を知る旅が始まった。


   〜 第一章 契約 end 〜