コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 2 ( No.2 )
- 日時: 2014/03/23 22:32
- 名前: やなぎ鼡 ◆QaxVaYDlIE (ID: qNIh9ax1)
「またねー」
塾を終え友達と別れ、帰路に就く。友達と長話をしていたからだろう。もう午後十一時を回っている。辺りは暗く、月明かりだけが明るい。そして冬なので寒い。
早く家に帰ろう。そう思い自転車に乗りいつもと同じ道を走る。
山吹公園の前を過ぎようとすると、私は急ブレーキを掛けた。何故かというと、山吹公園の中で一人ブランコに乗っている男性を見掛けたから。しかしそれだけでは急ブレーキは掛けない。その男性の恰好に原因がある。
その男性、首にマフラーを巻いているだけ。あとは全身真っ裸だったのだ。
私は飛ぶ様に自転車から降り、その男性の元へ急いで駆け寄った。
「ちょっちょっとお兄さん! 何裸でブランコ乗って——」
はっ、そうだ、変質者、露出狂かもしれない。私は言うのを止め、男性から離れた。そして少し遠い所からまた声を掛ける。
「お、お兄さん。こんなところで裸だと……つ、捕まりますよ……?」
男性はブランコに乗って下を向いていたが、そう声を掛けると顔を上げ私の方を向いた。
あ、若い。二十代くらいだろうか。それに結構なイケメンの部類だ。変質者の男性がイケメンだった事に驚き見惚(みと)れていると、男性は目を思いっ切り見開いて勢い良く立ち上がり、そしてガバッと私を抱き締めた。
「はっ? えっいやっちょちょっと……っ!!」
行き成りに事で一瞬頭がついていけてなかったが、理解すると物凄く焦った。やっぱり変質者だったか。男性の体を押して引き離そうとするも、やはり男女の差なのだろうか全くビクともしない。
これはまずい。大声を上げようとしたその時、男性が私を抱き締めながらボソリと呟いた。
「……やっと逢えた」
……えっ? やっと逢えた? 私とこの男性とは今日初めて会ったし、名前も知らない。前に会っただろうかと記憶を巡らせるが、全く覚えが無い。古風だけど新手のナンパか?
「あ、あの……人違いでは……?」
「人違いな訳あるもんか。お前はあの時の人間だっ」
これを見てみろ、と私から一旦離れ、男性は自分の首に巻いているマフラーを外し私に突き出した。
マフラーは黒く汚れていて所々破けている。それはそれは年季の入ったボロボロのマフラーだった。
……あれ? これ、どっかで見た事がある……。
「あっ!」
「思い出したか!?」
そう、男性が手に持っているマフラーは、私が五年前に捨て犬にあげたものだった。
あの日の翌日、約束通り公園に行くと段ボール箱が無かった。公園の隅々まで探したが一切見つかる事は無かった。もう他の誰かに拾われたのだろうと、今まで忘れていたのだ。
いや、でも何故そのマフラーがこの男性の手にあるのだろうか。
「もしかして、あの犬の飼い主さんですか?」
そう男性に問い掛けると、男性は眉を顰(ひそ)める。
「飼い主? 違ぇ。俺はあの時お前に助けられた狼だ」
……はい? あぁ、あの動物は犬じゃなくて狼だったんだあ。だから私の事人間って言ってるんだあ。……じゃなくて! 今何と仰いましたか? 狼? いやいやそんな訳無い。そんな事有り得ないって。あの時助けたのが狼で、その狼が今人間の姿になって私の目の前に居る? そんな非科学的な事ある訳が——。
「あるんだよ」
男性が言う。どうやら心の声が漏れていたみたいだ。
「あの日、お前がマフラーを置いて去ってった後、俺はマフラーに包(くる)まって月を見上げたんだ。そしたら月が光って、俺は目を瞑ってしまった。光が止み目を開けると……俺は人間の姿になってたんだ」
い、意味が解からないよ……! 有り得ない事だらけで私の頭はもうパンク寸前。
すると男性がクュンッ! とくしゃみをした。そういえばずっと裸マフラー状態だった男性。私は自分が羽織っていたコートを男性に掛けてあげた。
「……やっぱお前は優しいな」
優しい声色で、優しい眼差しで私を見る。その目は五年前に見たあの動物と同じ目をしていた。
「…………私の家に来る……?」
この男性の話を信じてみよう。私はそう思った。それにこのままでは男性が風邪を引いてしまう。すると私の言葉を聞いた男性は目を輝かせ、また私を強く抱き締めた。
「本当かっ!? 良いのかっ?」
「ちょっ、い、痛い……」
大喜びする男性を落ち着かせ、男性が着ているコートの前をちゃんと締め、なるべく出来るだけ人目につかないよう、私達二人はこそこそと自宅へと帰って行った。
そんなよく分からない男性を拾ったのは高一の冬。