コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.2 )
日時: 2014/04/05 15:38
名前: 捨駒 (ID: slzqu/cu)

清く蒼い江戸の空には白い雲が似合う。

「杏子さん、今日もありがとうございました。」

「さよなら!」

小さい少女とその母親に笑顔で手を降り返すと後ろから物が倒れる音が聞こえた。いつもの事だが、今日は呻き声までプラスされている。

「またか……はァ……」

足早に中に入るとホウキを片手で持ちもう片方の手で純一の頭を掴み、持ち上げている神李がいた。部屋の中は団子の包みと古そうな巻物や置物が散乱している。

「やめろっ、話せば分かるから……」
「やめません。分かりません。張っ倒しますよ。」

神李は懐から呪符を取り出すと念を唱え始める。声を出そうとしても出ない位の威圧感が部屋を覆うが神李はやめない。

「分かった!分かった!邪魔だから怒ってんだろ!? 」

喚く純一を無視し念を唱え終わった神李は札を額に貼った。

「滅……つーか死ね。」



「なんで初っぱなからこれなんですか!」

杏子は純一の額に包帯を巻き終わると神李を睨み付ける。

「大体!神李君は笑わないからいけないんですよ!」
「俺が笑ったらガキが泣くんですよ。分かりますか?」

反省の素振りも見せない神李に少し腹が立つが仕方ない事だ。彼が笑うといえば、人をバカにするか嫌いな奴の葬式の時位。
はっきり言うと死んでもいい奴に笑いかける位なのだ。

「そんなのは出鱈目だって、いったらいいじゃ無いですか!」
「出鱈目では無いですよ。ほら、ここに来る際に……」

『初めまして、賀喜神李です。ニコッ』

「ほら。」

「いや、あれそー言う意味だったの?!」
「そうです。一目見た時から、締めとっか……と考えてたんですよ。」

当たり前の事を言う様な口調で神李は純一に言う。そこが彼の怖い所の一つでもあるのだ。
実はというと、神李は天才的なカリスマ陰陽師でよく純一の手伝いをしているとの事だ。陰陽道は杏子も学んでいるが同い年の神李とは比べ物にならない位弱い。

「締めとっかってな……お前、辞めさせるぞ!?」
「いいですよ。也太さんの所へ行きますので。」
「兄貴のとこだけはやめとけっ!!なっ!?」

慌てる純一を面白がる神李はやはりSの気質があるようだ。
杏子の溜め息はまたまた災難を呼ぶものとなったのだ。

「よー!!来たぜー!純ー!」

赤毛にパーマをかけたような髪に眼鏡をかけた若い男が戸を蹴り破って中に入ってきた。舌打ちをした神李が気になるが、ここはあえてツッコミをいれないでおこう。

「純、俺いい仕事をGETしたぜ!お前らにやって欲しくてさー! 」

軽い物言いで男は地図を純一に渡すと丸がついている所を指差した。

「兄貴……俺らは便利屋じゃねーんだ……万屋なんだよ……」
「万屋も便利屋も変わらねーって前にお前言ってたろー?」

豪快に笑う男は名を飴宮也太といい純一の実の兄。幕府や新撰組から目をつけられている程危ない人間だが、根っから悪い訳では無いので指名手配とはなっていない。

「しかも、そこの娘さんがめっちゃ可愛いんだよ!」
「マジでか!その話乗った!」

兄弟似た者同士だな……
染々思う杏子は神李の方へ目を向けた。

「チッ、また面倒なの引き受けやがって……殺すぞ……」

「キレてる……」

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.3 )
日時: 2014/10/18 16:52
名前: 捨駒 (ID: 8l51JBm.)

「ひえー、あっついー!」

外に出てまだ間もないのに直ぐにバテる純一。
彼は引きこもりだけあって暑さに滅法弱い。依頼を受け仕事に行くか、夜中に仕事に行くか、それ以上外へは出ない様にしているらしい。なんせ忍なのだからだ。

「杏子ー、冷やかい茶とか飲んできていいか?」
「おいおい、時間ねーぞ。」

杏子は純一を殴る也太に一つ言いたい事があった。

「誰のせいで前に進めないかわかってんですか!?」

杏子達の前に黒ずくめの着物を身に付けた新撰組御一考達が也太を連れていこうとしているからだ。ダンダラ模様の羽織を腰に巻いた、着崩した格好の金髪の男が話しかけてくる。ヤクザの下っ端の様な僧帽で彼は也太に顔を近づけた。

「おーコラ。誰かと思えば也太の旦那じゃ無いッスか。」
「新撰組の……桜田君だったかな?久し振りだなー。」

赤い毛玉の様な髪をかきながら笑う也太に、眉間にシワをよせた金髪の男が也太の胸ぐらを掴んだ。周囲はヤレヤレと首を横に振り店の中へ消えていく。

「誰が桜田じゃボケェェ!!桜井じゃ、この毛玉!!いい加減名前覚えんかァァ!!チキショー!」

キレる桜井に後ろから慣れた手つきで腹部を殴る男。同じく、黒ずくめだったが彼とは違い、きっちりとした身なりだった。

「はいはい、屯所に戻りますよ。」

フォローをしたのか馬鹿にしているのか分からない口振りで黒髪の男が一礼した。影が薄くてそこに居たのか今まで気付かなかった。

「すみません。うちの桜田が。」
「え?桜井さんじゃ…」

「あ、俺は中島と申します。同期なんですけどね。喧嘩っ早いもんで……それでは。」

にこりともせずに中島は帰っていった。シワのついた襟元を直すと也太は何事もなかった様に前へ歩き出す。






ツッコミ所満載な道中だったが、遂に也太の言うお前らにやって欲しい仕事場所についた。蜘蛛の巣や灰を被った看板は江戸時代初期から受け継がれた趣を感じられる。

「んで?可愛い娘は?」

ふてぶてしく粒やいた純一に慌てるなと言わんばかりに杏子がチョップをかます。

「也太さん、この店って確か、アレですよね?甘味処ですよね?」
「そう、杏子ちゃん正解!さっすがあんこって名前だけあるねィ!」

褒められる事は嬉しい事だが、杏子は知っていた。この店が少し厄介だと言うことを。

「……あっ!いらっしゃい!」

杏子と同い年の娘が出迎えて来るのだが、足が透けているのだ。
神李は息を吐くと娘の額に札を押し当てる。

「全く……店主は何処ですか?」
「んあ?あァ!苺花さんッスか?!奥でなんかしてますぜ!」

札に気付いていないのか、にんまりと笑みを返し答えると奥に向かって叫ぶ。

「苺花サーンッ!若い男のお客さんと杏子さんッスよー!」

娘のデカイ声が店中響き渡りその後からか細い女の叫び声が聞こえた。

「うるさいっ!帰れと伝えろ!」

店主とは思えない口の聞き方に神李が舌打ちをするが也太がどうして苺花が引きこもりなのかを説明した。

「彼女はねー、昔、寺子屋にお父さんの春画を持っていったんだよー。だからな、ついたあだ名が変態だ。それから町を歩く度、皆が自分の悪口を言っている様に思えてきて……」
「こうなりましたー♪」

キャハハと甲高い声で笑う娘に神李は札を二枚押し付けて恐喝の様に脅した。

「んじゃ、俺らで解決しますんで。取り合えず、この娘と毛玉、殺っちゃっていいですか?」
「構わねェよ。可愛い娘もいなかったし。」

頷く神李から逃げる様に娘は消える。そして残った也太が必死に神李に説明をする。

「だから!その引きこもりを出させる為にお前らを呼んだんだよ!なっ?!頼むから。可愛い娘も紹介するし!」

手を合わせ涙目になっている也太の頭を踏みつけ神李は少し鼻で笑った。

「いいですよ。そこまで言うなら。ただし、報酬は弾みますからね。」
「あ、ありがとうなっ!」

踏まれた頭を直して立ち去る也太を追いかける様に純一と神李は帰っていった。

「あー、明日休みたいな……」

痛くなる頭を抱えて杏子も二人の影法師を追いかけ走っていった。






翌日、杏子は苺花の家へ行っていた。

昨日の謝罪も兼ね、キッチリと話を聞こうというなんともちゃっかりとした考えであった。

「苺花ちゃーん!」

一回、二回と呼び掛けてみたものの、全てシカトで終わっている。彼女の好きな大福を玄関に置き、帰ろうとしたとき、後ろから気配を感じた。

何かこの世のものでは無い気配だ。

素早く後ろに回転蹴りをすると音もなく後ろの気配が倒れこむ。気配は徐々に物体化し、やがて子供の形に成っていった。札を懐から取り出すと二枚投げ付け、九字を切った。

「いたっ、ちょ!一回待って!」

子供の物体は怪しく笑う半分に裂けた狐の面を顔に、能面を頭に付けて底面の歯が極端に高い下駄を履いていた。声は女の様だ。

「貴方、真っ昼間から妖怪なんて……死にたいんですか?!」
「妖怪と違う!俺は、式神!分かるか?!し、き、が、み!」

少々頭に来る言い方だが、後ろに見慣れた札をつけている。

「俺は神李様の命により、桜の簪を着けた女を見張れと言われてつけてたんです!」

あの冷血な神李が自分を見張れ……杏子は少し嬉しかったが、首を横に振ると投げつけた札を戻す。惑わされてはいけない。

「べっ、別に、私はつけられる程馬鹿じゃ無いし?」

強がる杏子に頭の能面はニヤリと笑う。

「んじゃ、天野屋限定の桜大福。要らないんですね?」

天野屋限定の桜大福とは、春にしか手に入らない幻の桜餡をふんだんに使った白い大福で、口に入れるとほんのりと桜の香りが広がる杏子の大好物だ。
意地悪そうな声音で言われるとどうしても癪に障る。

「欲しいっ!!」

突如割り込んで来た声に目を向けると長い黒髪の少女が立っていた。ハッと顔を真っ赤に染めると勢い良く引き戸を閉め、中に戻っていった。

「………あれって……」
「……うん……。」





「それで、苺花さんは出てきたと……」

不機嫌そうに神李は大福を頬張ると女と杏子を睨み付ける。

「全く、面弧、杏子さん、貴女方はどうして捕まえられ無いんですか。」

面弧と呼ばれた女は頭を垂れる。能面の表情も落ち込んでいる様だった。
もう一つの大福を口に入れるとまた口を開く。

「いいですか?まずこの麻縄を彼女の首に巻き付けるんです。殺してしまった場合、俺が秘孔をついて治します。」
「北斗の拳のトキじゃ無い限り、無理ですよ。」
「かと言って、俺はアミバじゃありません。殺しはしませんよ。」

時系列がおかしくなったが、どうしたらいいものかと考えるが、結局、情報収集に頼る事になった。純一の万屋は万事屋でもあり、情報収集もプロ並だ。

「んあ?俺?やだよ?」

忍とは思えない返事に、神李の指がバキバキと鳴る。

「俺は、夜に活躍するんだよ。だから、新撰組のアホ共に頼め。」




Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.5 )
日時: 2014/10/21 19:37
名前: 捨駒 (ID: 8l51JBm.)

江戸の空と表記したが、ここは昔の政治の中心地、京都。
そこだけは忘れないでいただきたい。
死に物狂いで攘夷浪士を斬っている訳では無く、主に、過激派攘夷浪士の捕縛を要する組織なのだ。

だが、己の身を守る為には刀も振るわなくてはならない。
今日も、切り込み隊、一番隊隊長・沖田隊長は木刀を握り熱心に振っていた。

「ふんっ、ふっ……ふっん……ぶぁっくしょい!」

日差しが温かい為か、最近はくしゃみが止まらない。桜が満開なこの季節、外に出たいのだが、目も痒く大変だ。

「仕方がない、休憩だな……」

目を擦るとここ数日間風呂に入っていない事に気が付く。

「やっべ、フケだらけだ。土方さんに怒られる」



新撰組の屯所の門には見張りがいる。どれも厳つい顔をしている人ばかりだ。

「すみません、退いてください。土方さんに用があるんですけど。」
「あァん?入れる訳ねーだろ?」

神李も軽くあしらわれ、杏子は途方に暮れていた。

土方さんは新撰組の副長であり、何か情報を知っているかも知れない。と、神李の予想で土方に聞き込みに来たのだ。

「……刀は使いたく無いんですけどね……」

ため息をつく神李が取り出したものは、純一の愛刀・屍鬼。鉄臭い臭いがして、結構使い込まれている様だ。

「やんのか?!あん!?」

警察とは思えない程血気盛んな右の男が刀に手を当てた時だ。次の瞬間、男はふらりと後ろに倒れたのだ。そして、倒れた男の後ろから広角を少し上げたあの黒髪の男、中島が立っていた。

「コラコラ、駄目ですよ。危うく一般の方に刀を抜かせる所だったじゃ無いですかァ。」

汚いものを見る様にもう一人の男を睨むと神李に微笑みかける。神李もニヤッと笑い、刀を鞘に収め腰にさす。

「これは、これは。賀喜様ではありませんか。」
「何方かと思えば、中島さん。貴方がお出迎えとは。」

(ま、まずい……)

両者は口元は笑っているものの、目で殺意が露になっていた。どちらがいつ首を斬ってもおかしくない状況に杏子は冷や汗をかく。

どうやらこの中島。神李と同じく、周りの人物を全て自分の下としか見ないおかしな人間らしい。そういう者程同類の人間に会うと喧嘩をする。これを同族嫌悪の一種だと杏子は察した。

「ささ、中にお入り下さい。僕の知り合いと言う事にしておきますので。」
「親切に、すみませんね。」

屯所に入るなり、直ぐに副長室の前へ連れていかれる。高級そうな墨の香りがしていた。ゴミ溜めの様な仕事場とは違って整備された美しい部屋の空気は格別に違う。

突き当たりの廊下からとたとたと小走りの音が聞こえ、冷ややかだった中島の表情は元に戻り少しばかりか微笑んだ。

「沖田隊長、御苦労様です。」
「中島もね!土方さんには内緒に!」

風呂場に駆け込んで行く沖田に頭を下げる中島に神李は皮肉混じりの言葉をぶつける。

「随分と猫を被るんですね。」
「人間、その様なものですよ。」

溜め息を吐いた彼の表情はまたもやあの冷酷な顔に戻っている。こいつ、やはり猫かぶりだとつくづく思った。

いつ噴火するかも分からない両者に耐えられなくなった頃、土方は現れた。

「ん?中島、何してんだ?」
「あ、副長。僕の知り合いが少し話があると申しておられるのですが……」

「話…ね…?」と顎を触りながら杏子と神李をジロジロと見つめると障子を開ける。こくりと頷くと中島は奥へ消えていった。

「どうぞ。」

短くその言葉だけ言うと綺麗な座布団の上へ座らせる。これから何が起きるのかと、杏子は身を強張らせる。

引き締まった土方の顔に少し笑みが浮かぶ。

「ようこそ、おいでくださいました。貴殿方、近頃有名な万屋・陰陽堂の方ですよね?お会いできて光栄です。」

きゅっと目を細くし、目元にシワが浮かぶと先程までの威圧感は無くなり、何処にでも居そうな男性に変わっていた。ほっと一息吐くと杏子の鼓動の早鐘は治まる。

「ところで、話…とは?一体?」

土方に聞かれ、苺花の事を話した。引きこもりの事、どうして外に出なくなったか、情報収集をしている事、全て言い終わると土方の方眉がピクリと動く。

「…て、事なんです。」
「成る程……その甘味処は、確か、天野屋と張り合える程の……」

やはりここら辺りの治安を守っているだけあって近辺の情報に詳しい。ただでさえ引っ越してくる者が多いこの都だ。長年住んでいる杏子も分からなくなる事もしばしあった。

一通り話終わると男が二人入ってきた。

「お茶持ってきました。」
「次いでに茶菓子も置いておきますね。」

綺麗な彫刻の施された机に茶と茶菓子を並べた。茶菓子は天野屋最新のお菓子であり、その美しさが杏子の目を魅了した。
俯いたまま硬直する、いかにもひ弱そうな男。その背中を白髪の男が強く叩く。

「浅野っ、いつまで俯いてんだよ。」
「…山崎……ごめん。」

少し顔を上げ、上目使いで一礼する浅野に山崎は項垂れる。
ガクッと肩を下げた時、浅野はまた短く謝った。

「それでは。俺達はこれで。」
「…すみませんでした……」

そっと閉められた障子戸の向こうからぶつぶつと二人の話し声が聞こえた。聞こえなくなってから、湯飲みに口を近付ける。

「…残念ながら、私達は切っ掛けとなる情報は分かりません。」

ばつの悪そうな顔で土方は立ち上がると部屋を出たが、そのまま帰ってこなかった。取り残された杏子と神李が帰ろうとした時後ろから低い声がきこえた。

「彼女は、決して部屋から出られない理由があるのかもな……」

後ろを振り返ると栗毛の男が薄笑いで出された茶菓子を頬張っていた。

「アイツは、裏できちんとやってくれてるだろうよ。……ま、テメーで探すんだな……」

「……誰ですか?」※芹沢さんです。


Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.7 )
日時: 2014/10/21 20:19
名前: 捨駒 (ID: 8l51JBm.)

繁華街の元となったといっても過言ではない遊郭の吉原。そことはまた違う遊郭で飲めや歌えの男と女に唾を吐いては見回った。
手持ち少ない金で遊ぼうなんざサラサラ考えてはいないが流石にその様に見られてはいるようだ。

どの女も人も同等に扱わないと、見ないようにしないとこの仕事は務まらないものだが、一人だけ違うように美しく光って見える女はいる。飼われている犬の様に匂いで人は判断しないがその女だけは匂いだけでも分かる気がする程溺愛していた。

結婚したいとか、肌を重ねたいとかその様な疚しい感情ではなく愛情を持っていた。手を大きく振り、大人びた顔からは考えられないような顔をくしゃくしゃにした無邪気な笑みを自分に向けている。

「純一!!」
「アホ!ここでは純な?」

また笑う花魁は人気も無く、呼び込みをする小柄の女だ。たまたま仕事中に助けた女でありその美しい容姿に誰もが心を奪われるだろう。だが、彼女は欲のない性格で気に入ったものにしか媚を売らない。そのためかあまり人気は出ないという。

「で?今日は?」
「…最近、妙な噂が出回っててね…クスリだから、気をつけてな。」

クスクス笑いつつも純一に手を振った。

「…忍びに心なんて持たせんじゃねえ…」

そう聞こえない様に言って、暗い空へ跳ねていった。

やはり忍として瓦屋根を音を立てずに走ることは必要な事である。口元を黒い布で隠し、辺りの建物を見回す。今日は杏子がいない為、自由に仕事が出来た。

風俗、売春関係の路地を駆け抜けて、もう一度屋根に上る。その動作を繰り返し、一際高い建物を見上げる。ここが今日の仕事場だ。

(あそこが……豚(獲物)の場所か……)

懐から、愛刀・兎爪を取り出すともう一つの刀屍鬼が無いことに気が付く。短く舌打ちをすると腰のくないを数える。

(ざっと九つ。さては、神李に盗まれたか。)

この前の遠出の時、徳川将軍暗殺の仕事を頼まれ江戸まで着くと武器をなにも持っていなかった事があった。結局は配下見つかり、口を隠していた布で首を絞めて殺し、逃げる様に帰ってきたのだ。つまり、任務失敗。

(あん時は死ぬかと思ったぜ……)

さて、と呟き走り出すと黒い雲に隠れていた月が顔を出した。少し明るくなった周囲を見ると向こうの屋根に女が居るのが見える。もしや、忍かも知れない。昔から、女の忍などいるはずが無かったのに何故、今……

仕事を邪魔されたくないという本能が働いたのだろうか。純一は女の元へ方向を変え、低姿勢のまま走り抜ける。

「かーのじょ?何してる?」

後ろに兎爪を構えて自分でも嫌になるくらい軽い口調で聞く。女は純一にも動じず逃げていった。まずいと思った純一はくないを取り出して足元へ投げつける。

「………………」
「無視だなんて、つれないな。」

近くで見ると杏子と神李と変わらない位の歳の女だった。殺すのが惜しくなるくらい綺麗な顔をしている。だが、太ももの所に卍の反対のマーク。つまり、風魔一族の紋を持っているのだ。

(何故……あの一族は初期の頃に滅びたはず……)

「……貴様……」

女がいきなり口を開く。驚いた純一は刀を落としてしまう。

「やはり、何か持っていたか。」

小声だがハッキリとこちらに聞こえる声、まさしく風魔の血筋をひく者だ。

北条五代記によると、北条家に支えた五代目風魔小太郎の声は城内の何処に居ても響いたという事らしい。

「何、命は貰わぬ。忍は見つかったら即、死ぬ等、随分と昔の考えだ。」

彼女の猫目が月に照らされ白く光る。邪魔するなと言わんばかりに睨んでいるのが純一には分かった。

「滅亡したんじゃなかったのか?小太郎さん。」
「小太郎じゃない。架乱。架乱だ。」

女は架乱(カロン)と言う。
だからと言って女でも容赦なく殺さなくてはいけない。本能が働いたのだろうか。何故か女の首に刀を近付けていた。

「……何だ?私は貰わないと言ったのだが……」
「ご、ごめん……ついな……ハハハ……」

不思議そうな顔でその場に架乱はしゃがみこむ。純一は刀をしまうと汗でとれてしまった布をまた口に戻した。

「俺は……純……それじゃ……」
「うむ。私はもう少ししてから行くので……じゃ。」

月の下での出会いはこれからの出来事を大きく変えるものとなったのだった。






あれから芹沢のアドバイスで神李と杏子は部屋の構図を徹底的に調べた。どうやら土方達も協力してくれている様だ。

「只今戻りました……あれ?純一さん、今日は寝不足ですか?」
「ん……あ……うん。」

目の下に出来たクマを純一は触ると溜め息を吐く。一体何があったのか分からない杏子は神李と共に部屋の中に入っていく。

「あ、純一さん。昨日、屍鬼お借りしましたので返しますね。」
「そこ置いといて……」

呟く様に答えるとそのまま目を瞑り寝息をたてて寝てしまった。神李は筆で額に肉と買いて満足そうに笑った。

「筋肉バスター放たれそうですね。」

起こさないように小さく言う杏子。だが、頭の中は苺花と純一のクマの事でいっぱいだった。

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.8 )
日時: 2014/04/24 13:30
名前: 捨駒 (ID: AwUzQTp7)

純一が眠っている間、部屋の片付けをしていた。

白い布巾を頭に巻いて、割烹着を着た神李はてきぱきと作業を進めていった。

陰陽堂は一つの仕事だけをする訳ではなく、多くの仕事を掛け持ちする事もあった。

今回は、その話。

「杏子さん……これ……」

真っ新の巻物が神李の手には握られている。『杏子』と上手とはかけ離れた字で記されていた。

「……この前の宿題ですよね。」
「え、あ、あー、ん?」

わざとしらを切る杏子に神李は眉を少し上げる。

最近、京都を妖怪がうろちょろとしていると聞いた為、毎日の様に巻物に妖怪を封印していったのだが、杏子は何もしていたかったのだ。

「ふざけないでください。僕は寝るまも惜しんで調教しているのに……」
「調教してんのっ?!」

「とにかく。今日の夜、俺ん家に集合です。」



泣く子も黙る最強ヤクザ……おっと、陰陽師集団。『賀喜組本家』その若頭が神李であった。

賀喜組本家とは、通称であり、本当は賀喜一派衆である。だが、神李を慕うものたちは物凄い形相のためヤクザと呼ばれているのだ。

ちなみに、神李は後継者であり十五代目らしい。若頭とも呼ばれている。

「……お、来た来た。」
「ゴメン、ゴメン……」

夏の夜を思わせる暗い色の浴衣を軽く着流した神李。胸元から見えるサラシと白い肌が提灯に照らされて光っている。

「全く、三分遅れましたよ。」

むすっと顔をそらすと後ろから前見たのとは違う式神が顔を出した。

「……でぇと……ですかィ?」

異国の言葉を話す式神を強く蹴る神李の頬は少し赤くなっている。

片方しか無い眼鏡の横には金の飾りがついており、銀色の右目が少し金に見えた。

「テレなくてもいいじゃありやせんか。式神をもっと大切にしてくだせェ。」
「お前は俺が好き好んで式神にした訳じゃ無い。本当はもっと龍の様なでかいのにしたかったんだ。」
「龍って、チョイスあれですね。」

いつも敬語の神李がタメ口なのを聞いて杏子はとても新鮮に思った。

「……杏子さん……行きますよ……」
「っあ、はいっ!」

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.9 )
日時: 2014/04/26 13:25
名前: 捨駒 (ID: PyqyMePO)

「いやー、夜はいいですねィー。」
「本当ですねー、先輩ー。」

神李の頭上を見下ろしながら飛ぶ二人。

「……神李君……何?この羽……」
「ん?あァ、コイツら……と言うよりこのダメガネこと死殺と面狐は烏天狗ですよ。」

「ちょっ、ダメガネってなんですかー。先輩は立派な烏天狗の頭!」
「照れるじゃねーか……」

バサバサと頭上を舞う漆黒の羽が上から落ちてくる様子を神李は鬱陶しそうに眺める。

五分程歩いた所で、やはり苛ついていたのか羽を掴むと下に引きずり下ろす。呻き声をあげる死殺の札を剥がして巻物をちらつかせた。

「ウゼーんだよ……下歩け。下!」

目に涙が浮かんでいる死殺に叩きつける様に貼ると巻物を懐に閉まった。一瞬だけだが、神李の顔が恐く思えた。

「……チッ……杏子さん、」
「はっ、はい!」
「どうしたんですか?冷や汗なんかかいて……あ、こっちですよ。」

冷静な口調の神李をまじまじと見つめながら角を曲がる。石畳を見た後にふとまばたきをするとぎょっと目を見張った。

「え……嘘……」

どんちゃん騒ぎを興す妖の群れがあちらこちらに見える。小さいモノから大きなモノ。中には大型の鬼までいるのだ。

艶やかな女性は色とりどりの着物に身を包み、煙管をふかす。だが、後ろで白い尾が見え隠れ。女を嬉しそうに眺める面狐は、普通の女の子に見えた。

「おっ、面狐ォ〜、何見とれてんだ〜?」
「見とれて……ません……」

茶々をいれられ俯いてしまった面狐を不思議そうに死殺は見る。

「はー、正直に言いねィ……」

強引に手を掴むと、女妖の群れへと面狐をつれて消えていった。

取り残された神李と杏子はただ呆然と二人の背を見るばかり。目だけ動かし神李の方を見ると札とびっしり書かれた巻物を取り出してニタリと笑っていた。

「アイツら全員……この中に納められると思うと……」
「思うと……?」

聞き返す杏子に神李は

「胸が騒ぎます……」

とだけ言うと鬼の群れへ杏子を連れていった。



手を引かれて割り込んでいく面狐は女の着物に押し潰されそうになる。面狐を肩の上に担ぎ上げ黒い羽を広げて屋根の上に飛び乗った。

「あ、しーちゃん!しーちゃん!こっち!」

しーちゃんと呼ばれた死殺はにこりと笑みを女に返すと屋根のしたにある出窓の方へ移った。

「もー、今日は来る言うから、うち待っとったんやよー。」
「ハハハ……どした?面狐?」

能面がキッと目をつり上げた般若に変わっている事に気がついた。下の面狐の顔も少しだけ怒っている。

「しーちゃん、子供?」
「違う!俺は……子供じゃ無くて……」

上目使いで女を睨みつけた面狐の頭をそっと撫でると女は硬いお菓子をを手渡した。

「いらっしゃい。よー来てくれたな、おおきに。」
「おっ、良かったね!面狐!」

赤や黄色、緑の淡い菓子どうやら砂糖菓子の様で口に入れると甘さが広がる。

「……これ、何て言う?」
「ん?金平糖やよ。良かったら……持ってく?」

目を細めて笑う女の手を掴むと

「仕方がないから貰ってく……」




参照、百越えありがとうございます(。´Д⊂)

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.10 )
日時: 2014/04/30 15:47
名前: 捨駒 (ID: LpTTulAV)

手を掴んだ後、女の手に何か違和感があることに気が付く。

「……手がデカイ……」

咄嗟に口から溢れた言葉に女は小さく微笑んだ。

「そりゃ、僕、男やからね。フフフ♪」

女……いや、男。男の着物の隙間から見えるあの異物はやはり本物。そう考えると頭がおかしくなりそうになった。

「コイツは、俺を守ってくれたんだぜ。」
「本当、僕が狐とちゃうかったら、今頃しーちゃんいーへんで。」

艶美に笑う男。あの男の事を女と思った自分の目をえぐりたい気分だ。

狐とは言っても、優しそうに見える男は煙管を口に当てると少しだけためらう。

「……なんやろ……」
「ん?どうした?」

指を指す方向に目を向けると猫目で細身の女がこちらを睨んでいた。悔しそうに舌打ちをすると闇の中へと消えていく。不思議な女だった。

「……あれ……この前も来とった……」
「お前を狙ってか?!」
「ちゃうちゃう、下のおっさんを狙って……まさか、最近流行りの妖怪狩りな……」

最近妖怪達が京都をうろうろしていると、お伝えしたはずだ。その妖怪達を理不尽に殺していく。それが妖怪狩りである。

ちなみに、杏子達が行っている封印はその後は式神として使う、もしくは巻物に納める。簡単に説明をすると殺しはしないという事だ。

「なんかあったら言えよ……死んだら困るからな……」
「おおきに。でも、しーちゃんも気ィつけるんやで」

煙管をもう一度口に当て、紫色の煙を吐いた。


「いやー、楽しかったですねー。杏子さん。」
「う、うん、だね!」

引きつった笑みの杏子を神李は幸せそうに眺めていた。悪騒ぎを興していた鬼を神李は自慢の術で縛り上げ、巻物に封印していった。
杏子が見た中で一番に近い程、輝いていた気がする。

こうして、またまた朝が来たのだった。



参照百越記念、〇〇さんを出そう!!

と、いう企画を一人で考えておりました。Ψ(‾∇‾)Ψ

その、〇〇さんとは……なんと!大河ドラマにもなった、あの有名な……

坂本龍馬さんですッッ!!

どうでもいい話をここでしてしまい、すみませんでした……

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.11 )
日時: 2014/05/24 15:33
名前: 捨駒 (ID: y9FxUFsG)

ある日の夕暮れ、彼は適当に町を行ったり来たり。眼鏡のレンズは赤く染まっていた。

「ふん〜♪ふんふ〜♪」

少し酒が入っているのか上機嫌で鼻唄を歌っている。足取りはふらふら、どこへ行くのやら……。

「ふ〜♪……おっ?人が……おっ?」

斉木〇雄の災難の燃〇力かという程おっ?と呟き、近寄って見ると、そこには自分と瓜二つの青年が倒れていた。

服はボロボロで、胸元には黒いモノ。ここらじゃ見かけない拳銃を持っているのだ。

気味が悪くなり、その場を去ろうとするが何かに足を強く捕まれた。

「……てめ……どこに逃げる気じゃ……」
「悪かった!悪かった!ごめん!謝る!」

跡がついた足を擦りながら謝る也太を青年は腕を組んで睨み付ける。

「悪かった……ガチで……はい。」
「わしがまだ優しかったから良かったものの、怒ってたらこのピストルが火を吹いたぜよォ……まったく……」

自分に説教をされている様で、不思議な感じがしてたまらない。腕を組んで唸り始める青年の次の言葉を待っていた。

やがて、

「そうだ、わしとお前、入れ替わって詫びをしてくればよか。」
「……はい?」

口を開いた途端、意味の分からない事をいい始めた。聞き返すと目を見開きムッと顔をしかめる。

「はい?って、何間抜けた面をしちょー。」
「いやいやいや、詫び?俺、なんもしてねーぞ?」

天然パーマの頭を軽くかきむしり世に言う壁ドンを也太にした。そして拳銃を額に突きつけると小声で言った。

「……怪我人を、放っておいた罪じゃボケェェ!!!」

そのまま、何かを貫く銃声と共に意識が遠退き、青年は也太の服を脱がしその場を去った。


「……さん………っん……旦那さんっ!……」

朦朧とする意識の中、目を開けると顔の近くに幼い子供が目をくりくりとしていた。なぜか、肌寒く股の所がスースーとする。

「なんで服着てないの?」
「……んん?服……はっ?服?!」

幼い子供い言うとおり、無造作に脱ぎ捨てられた服が横に転がっているだけである。

「いや、これは、違うからな!俺、そんな趣味、ねーから!」

焦って服を着る也太をよそに、子供はくすりと笑った。

「旦那さん、お家無いの?」
「ん?あ……お家はあるけど……酔っ払ってて、何処か分からないんだよ。」

痛む頭を押さえると、足に包帯が巻かれている。

「あっ、旦那さん、足から血が出てたんだよ!」
「そ、そうか……ありがとうな……少年……」
「僕、少年じゃ無くて、天流って言うんだ!」

名を、冷寒天流(レイカンアマル)といった。歳は大体七つ位だろうか?大人しく、少し不思議な雰囲気の少年ではあったが、まだ顔は幼い。
神李や、実の弟純一とは全く異なる天流に也太は珍しく思うのだった。

「ね!旦那さん!うち、来ない!?」
「お、おう!」

ニコニコ笑う天流の事を断れ無く、いや、家が分からず、今日だけと心に決めて也太は後をついていくのだった。

(にしても……あの男……どこへ……)

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.12 )
日時: 2014/05/17 18:55
名前: 捨駒 (ID: fmI8cRcV)

天流に連れられて、大分と山奥に来てしまった。

ひょいひょいと上がっていく足元を、息を切らしながらも也太は後を追っていく。死にそうになったところで、天流は振り向いた。

「ここだよっ!」

指を指した方向に、微かに燃える炎が見える。

「……あっ!おやっさーん!」

おやっさんと呼ばれる男は焚き火を焚いていた。也太に気づいたのか、こちらに笑みを返した。

天流によく似た水色の目はきゅっと引き締まり、おとなしそうに見える。細身の体は今にも折れそうだ。

「天流、どこいってたんだ。……すみません。わざわざ……」
「いや、俺こそ、天流君に助けてもらって。情けない……」

「ねっ!おやっさん、旦那さん、家に泊めてもいいよね?!よし!決定!」
「こらこら。」

立ち上がり、彼の長髪が風に揺れて辺りが少し光った。

「……では、行きましょうか。」

彼の口が緩んだ事を確認すると、小屋のなかへ消えていった。




「チッ、たっく、遅いですね。」
「……んあァ、どこかで、死んでんじゃねーのか。」

貧乏ゆすりの止まらない二人を見詰める杏子の気持ちも知らず、日はどんどん沈んでいった。よそ行きの格好をした三人の目の前には『新装開店』と書かれた看板が。

「……あっ!兄貴!おい!何無視してんだよ!」
「へっ?」

赤毛天パの男は、目を丸くした。

勘のいい方はお気づきかも知れないが、男は也太に扮した青年。眼鏡をしていないことが唯一の見分け方の様に思える。

「あれ?也太さん、眼鏡は……」
「眼鏡何て、わしゃ……俺、してなか、い。」
「?そうですか。」

変な話し方の偽也太(以下青年)に杏子は不思議に思うが、眼鏡の事については、だて眼鏡であったのだろうと解釈をしておいた。

「さて、俺達に奢ってくれるんですよね。嘘でしたら殺しますよ。」
「俺なんか、朝からなんも食ってねーんだぜー!」

自慢気に笑う純一の頭に神李の手は直撃した。

「はしたないですよ。俺らの社長……いや、課長である貴方が、それでは杏子さんが可愛そうです。」
「そうですぜ。お嬢と若の部長なんだ。ちゃんとしてもらわねェと!」
「何気にお前ら失礼だな!」

いきなり参戦を果たした死殺の後ろにやはり見えるのは面狐。そして、見慣れない者が一人。

「わあー、うち……僕、楽しみや。久し振りにここ来たわー。」
「……死殺、なんだ……これは?」

「これやなんて失礼やで。……あ、面狐ちゃんにも言うのはじめてやな。僕は、鎖羅。花魁やってます。」
「……死殺、あれか、僕っ娘か?そんな趣味か?」
「ちげー!頭は俺をどんな風に見てんだ?!」
「変態。ロリコン。ダメガネ。」
「……なんか、死にたくなってきた。」

一人、流れに取り残された青年に、杏子はやはり不思議そうに見るのだった。

「さ、行きますよ。」

Re: 【歴史系】陰陽師兼忍者【ギャグ】 ( No.13 )
日時: 2014/05/24 10:42
名前: 捨駒 (ID: TKLsfDAG)

コメントも無いまま、参照を200いただきました!
ありがとうございます!
オリキャラ募集とか、しませんが末永く、陰忍をよろしくお願いいたします!



中に入り、早々に目につけた席、そこに座ると丁度視界に入る団体がこちらにメンチを切っている。

焼き鳥に熱燗に、おっさん臭い料理を運んでくる店の女もそそくさと奥へと消えていく。

「……貴方達ですか、」
「おいおい、兄ちゃん、喧嘩なら違うやつに売った方がいいぜェ?」
「あん?コルァ、若と先輩なめてっと、マジ冥土送りだコラ!」

「いえいえ、僕達はそんなつもりは無いんです。」
「何見てんだコラァ!?」
「なんなら、ここで取り調べでもしましょうか?」

新撰組と神李一派。そこに+万屋+得たいの知れない妖怪。

杏子の不運はまたまた訪れた。青年の方へ顔を向けると、方眉を上げて不機嫌そうに両者を睨むばかり。

他に座っていた店の客たちは顔を青くすると、料理を残して帰っていく。

「……あ、あの……お客さま……」
「あん?!」
「ヒィッ!?なんでもございませぬっ!!」

これで、店主も止められなくなってしまう。

空気を読んで鎖羅は座敷へ座る。

「まぁ、まぁ、ええやない。いろんな人が集まったんや。楽しく飲もう。」
「それがいいと思います!ね?!純一さん!」
「お、おォ!おう!」

必死に皆を宥めると睨み合いながらも座敷にもう一度腰を下ろした。神李と中島は一礼すると客を呼びに、外へと出ていった。

「……京で商いか……難しいかもしれんのォ……」

呟く青年には誰も気づかず、楽しくドンチャン騒ぎを興すばかり。店の客達も戻り、中は活気で溢れた。

「こっ、神李君!酒、飲んだら……」

「いいんです。俺は大人ですから。」
「妖怪の世界では、13才が成人なんだぜ!」
「今日は、面狐もとことん付き合います!」

「絵面的に駄目ですっ!!!」



死殺のもつ、懐中時計は11時を針で示していた。

「……今日は帰るぜ……」

酒に酔った純一の声で青年は飛び起きる。
そういえば、奢るとかなんとか、言っていた事に気がついた。

「早く金……兄貴?」

扉に手をかける青年を純一は睨む。

「兄貴……いや……お前……」

万が一の事に備えて、懐に手を潜らせた。黒い愛用のリボルバーに手を当てる。

「……魔法少女だっはんらな……」

ろれつのまわらない声を出すと直ぐに中島の膝に顔を埋めた。ふぅと溜め息をはき、後ろを振り向く。

再び扉をひくと、外には紫色の髪の少年が。

「何してるんれすか。こんな夜中に……」
「いや、こっちの台詞。」

赤い頬と涼しい顔立ちが月に照らされている。こうして見れば、ただの少年なんだがなと青年は思った。

「俺は……鎖羅と杏子さんを家に送ってららけれすけろ……あ、お金、さっさとはらっえ下さいね。」

送ってきた……と神李は言うが、下に埋められている人の体はなんだと聞きたい。

青年はリボルバーを引っこ抜くと神李に向けて、脅しをかけた。一銭も持っていない等とバレたら殺される。

「おい……死亡フラグってしってるか……」
「……わーお。こいつァ驚いた。俺が死亡フラグ立ってるって言いたい……と。」

神李の顔にいつもの余裕の笑みが浮かんだ。青年は銃弾を頭目掛けて撃った。殺ったと思って体勢を整える。

が、次の瞬間、首筋に何かの感触が残った。

「貴方が踏んでます。也太さん……いえ、土佐の方……」
「いたたたたっ!!」

「俺は人をいじめるのが好きです。一銭も持っていない人の事を気づかないとでも思ったんですか。どうやってお金を払うのかが見たかったんですよ……ね?」

滅多に見せない笑いを濃くすると首を締め上げる。拳銃を取り上げるとその拳銃を額にくっつけた。

「ここで死ぬか、働くか。……はてさて……どちらがいいでしょうかね……朝、店主さんにバレたら……怖い怖い……」

「このっ、鬼がっ!!」

「鬼よりも怖く……そうしないと、人と妖は勝てません。」