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Re: 短・中編集(参照2900突破感謝!) ( No.117 )
日時: 2017/03/26 09:02
名前: 夕陽 (ID: cyfiBIbN)

cherish a dream(夢を胸に抱く)

 今日で最後になる制服に袖を通した。
 来年からは大学生になるのだ。
 きっと私が制服を着るのは一生で最後になる。
 少し鏡を見た後、私は頭を振ってその考えを打ち消す。
 感傷にひたるのはまだ早い。

「いってきます」
「いってらっしゃい。お母さんも後で行くからね〜」

 陽気なお母さんの声に押されて私は家を出た。

     *     *     *

「おはよう、依里ちゃん」
「おはよう、絆」

 教室に入るとまだ集合時間より15分ほど早いにもかかわらず、3分の2以上の人がいた。
 その中の一人、絆が私に話しかけてきた。

「依里ちゃんは県外の大学だったよね? 1人暮らしでしょ」
「うん。絆は実家に残るんだっけ?」
「そうだよ。流石に1人暮らしは辛いし……」

 私たちのクラスは6:4の割合で県内のほうが多い。
 私も始めは県内にしようと思ったのだが、推薦で入れる所があったのでそっちを受け無事合格した。
 同じ県に進む人はあと3人しかいない。
 なので高校時代の友達とは会おうと思わないと会えないだろう。

「そういえば、いつあっちに行っちゃうの?」
「とりあえず3月いっぱいまではここにいると思うよ。4月になったら向こうに行くけど」
「じゃあさ、皆で集まろうよ! 玲衣ちゃんも心ちゃんも県外行っちゃうって言ってたから。最後に集まりたいなって」

 玲衣と心と絆と私は同じ中学の同級生だ。
 いつも4人でいた、というほどではないが中学時代一番長く過ごしたとは思う。
 私たちはすぐ近くの高校に進学したが、2人は自転車で30分の県内では5本の指に入るような難関校に所属している。

「いいと思う。いつにする?」

 私は賛成して日取りを決めた。
 寂しかった気持ちが少し消えた。

     *     *     *

 卒業式が終わり、最後のHRも終わった。
 お別れの言葉を掛け合って、別れを惜しんでいた人もいれば、大学でもよろしくねと笑っている人もいる。
 県内の大学組は、同じ大学の人が結構多い。
 私も仲良かった人に声をかけたりかけられたりしていた。

     *     *     *

「今日、一緒に帰ろ?」

 絆が私のそばに駆け寄ってきて言った。
 彼女の大きな目は潤んでいて今にも泣きだしそうだった。
 それだけ別れが寂しかったのか。
 絆は県内の進学で同じ学校の出身者も多いはずだが、友達はほとんど県外進学なので私とほぼ状況は変わらないかもしれない。

「うん」

 私は頷いて並んで駐輪場に歩いた。

「そういえば、後輩からはいいの?」

 私は帰宅部だが、絆はホームメイキング部に所属していたはず。
 中学校の卒業式では後輩から色紙をもらった記憶がある。
 高校の卒業式でも同じようなことがあるはずだ。

「うん。今度お別れパーティーがあるから今日は何もないんだ」

 絆は少し嬉しそうに言った。
 昔から絆はパーティーが好きだったっけ。

「じゃあ帰るか」

 なんとなく自転車に乗る気分でもなくて、私たちは自転車を押して歩いた。
 歩いても30分かかるかかからないかだ。
 なんとなく、沈黙が続く。

「……私将来ね、小学校の先生になりたいの」

 絆が口を開いた。
 知ってる。
 中学の時から言っていてそのために努力していることも。
 私と違って明確な道筋を立てて、進んでいることも。

「だから、がんばって勉強もしたしこれからも頑張るつもり」

 私は曖昧に頷く。
 いきなり何でこんなことを言うのだろう。

「でもね、私途中で何度か諦めそうになったの。でもその度に依里ちゃんが頑張っているのを見て私も頑張ろうって思えた」

 意外だった。
 いつもにこにこして愚痴を絶対出さない絆が挫折しそうになっていたなんて。
 確かに私はただひたすらに勉強してきたが、それは夢が決まってないからだった。
 とりあえず勉強しておけば入れる大学の選択肢が多くなるから。
 将来の夢がないことは絆も知っていたはずだが、そんな風に私を見ているなんて知らなかった。

「ありがとう」

 意識せず漏れた私の言葉。
 その言葉に絆はキョトンとする。
 お礼を言われる意味が分からない、と顔に書いてあった。

「私は、絆のおかげで夢が見つかったから」

 将来の夢がないとこぼした私に絆はオープンキャンパスやバイトなど様々なことに私を誘ってくれた。
 本人は興味など全くないところまで引っ張ってくれた。
 そのおかげで私は高校2年生の時獣医になるという夢を持つことができたのだ。

「そうなの?」
「うん」
「よかった。私も依里ちゃんの役に立てて」

 絆は嬉しそうに笑った。

「私はいつも依里ちゃんに勉強教えてもらっていてもらってばかりだと思っていた」
「むしろ私のほうが絆の時間拘束して申し訳なかったよ」

 私達は顔を見合わせて笑った。
 お互いの心配は杞憂だった。

「これからもよろしくね、絆」
「引っ越してもたまには連絡してね?」
「もちろん」

 いつの間にか別れる交差点まで来ていた。
 ここからは別々の道を進む。
 最後に手を振って私たちは別れた。

     *     *     *
あとがき
なんとか新学期前に更新できて良かったです。

卒業式シーズンにはやや遅いですが今回は卒業がテーマです。

次回の更新は夏休みくらいになるかもしれません……。