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Re: 短・中編集 ( No.12 )
日時: 2014/04/15 22:59
名前: 夕陽 (ID: aUfirgH8)

ラブコメ

「待った?」
 駅の近くの喫茶店でこちらに近づいてくる人影が一つ。
 その人は、黒髪をポニーテールにしており服も全体的に黒い。十字架の銀色のネックレスが異彩をはなっている。
 全体的に“かっこいい”という印象が強い彼女は鈴。俺の彼女だ。
「少し待った」
 わざと素っ気なく言う。
「ごめんごめん」
 両手を合わせて拝む彼女に
「嘘。俺もさっき来たばかり」
 と真実を明かした。
「なんだ。謝って損した」
 笑いながら言っているということはそんなに怒っていない。
 どうでもいいが、俺たちは前までは普通の友達だった。
 でも、ちょっとしたきっかけで今に至っているんだ。人間関係って不思議だよな。

「で、今日はどこ行くんだっけ?」
 俺は知っているけどあえて聞いてみる。
「私も忘れちゃった」
 鈴もわざとだろう。目が笑っているから。
「とりあえず、行くか」
「うん」
 俺たちはデートの場所、映画館を目指した。

 突然だが、今日のデートに俺は一つの目標を持っている。
 それは、「キスをする事」だ。
 いきなりで驚くかもしれないが、聞いてほしい。
 俺たちは前も言ったとおり普通の友達だった。だからかまだ友達の延長戦という空気が抜けていない。
 結果、3ヶ月付き合っているのに手をつなぐことさえできていないのである。
 これはやばいと俺は思った。
 だから今日のデートで上手くタイミングが訪れるといいが……。
「どうかした? ボーっとしているけど」
 あまりに考え込んでいたせいか鈴に声をかけられてしまった。あぶないあぶない。これじゃあ、デートが失敗してしまう。
「大丈夫だ。ちょっと考え事しててな」
「考え事?」
 鈴はあごに人差し指を当て思案している。何を考えているのか気になっているのだろうか?
「ちょっとキスしたいなって」
 この言葉に鈴の顔は真っ赤に染まる。
 やばっ、本音を言っちゃった。
 ひかれたらどうしよう?
 恐る恐る顔色をうかがうと
「でもまだ3ヶ月しか付き合ってないし」
 真っ赤にしたまま言った。こんな彼女の表情はレアなのでまじまじと見てしまう。
「と、とにかくダメ!」
 そうして振り返らずに歩いていってしまった。
 俺はその揺れるポニーテールを追いかけるように後に続いた。

 映画を見終わって食事をした後、ウィンドーショッピングをしてもう帰ろうという話になった。
「じゃあ、送ってくよ」
 彼女の家はもう知っているので送る事にする。彼女ははじめは断っていたが「この時間に一人で帰ると危ないから」と説得し、オッケーをもらった。

 これが最後の挑戦だ。
 失敗したら次まで待たなきゃいけない。でも、その次はいつ来るか分からない。
 俺は一つ深呼吸をした。

「どうしたの? 早く行くよ?」
 鈴はこちらを振り返り首をかしげる。ポニーテールがその動きに合わせて左に動く。
「ごめん、行くか」
 俺たちは鈴の家まで寄り添って歩いた。

「送ってくれてありがとう」
 礼儀正しくお辞儀をして家の中に入ろうとする彼女を
「ちょっと待って!」
 と止める。
「何?」
 止まってくれた彼女に近づく。
「キスしたい」
 真剣な瞳で言う。
「でも、そういうことは私たちにはまだ早いと思うから」
 やっぱり、ダメなのか……。
 俺はがっくりと肩を落とす。
「だけど、ほっぺたならいいよ」
 その言葉に俺の胸は弾んだ。ほっぺだけど、キスはキスだ。
 一瞬、ほっぺに温かい感触がして離れていった。
 みると真っ赤になった鈴が
「きょ、今日はこれでおしまい。またね!」
 と家に入ってしまった。
 俺はとても楽しい気分で一日が終わった。
 ミッション達成できてよかったよ。