コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 短・中編集 ( No.4 )
日時: 2014/04/09 22:08
名前: 夕陽 (ID: ofW4Vptq)

演技をしている女の子と男の子

「真由美、ここ教えて!」
 帰りの会が終わり、帰ろうとした時私はクラスメイトに声をかけられた。特に仲良くもないが、嫌ってるわけでもない。
「うん、いいよ。どこが分からないの?」
 私はにっこり笑って話を促す。
「さすが委員長。頼りになる〜」
 クラスメイトの女子は教科書を開いてここと指差した。
「これはね、——」
 私が解説するとその女子はなるほど〜と納得し、
「ありがとう」
 といってその場を去った。
 教室にはもう人がいなくなっている。
 そりゃそうだ。三年生の一月、よほど余裕のあるものでなければ家に帰って少しでも勉強している。
 人が全くいないのを確認し、私はさっきまでかぶっていたにっこり笑いを仮面をはずすかのように取り消す。
「あーあ、愛想笑いなんて疲れちゃう」
 でも、私が愛想笑いをやめられない理由がある。
「だって、嫌われたくないんだもん」
 すねたような口調になってしまうが気にしない。どうせ誰もいないから。その時、私の耳に足音が聞こえてきた。私はいつも通りの愛想笑いに戻る。
「あれ? 委員長もいたんだ?」
 教室に入ってきたのは男子だ。確か結構人気者だったはず。名前は……
「あ、山本君か。山本君はどうしたの?」
 そう、この名前で合っているはずだ。
「僕は忘れ物をとりにきたんだ。勉強が出来ないからね」
 どうやら教科書を忘れたようだ。山本君は自分の席から教科書を取り出し、私に向かって笑顔で手を振る
「委員長、また明日!」
「うん、またね」
 足音が聞こえなくなってから私は
「もう帰るか」
 さっきと全くテンションが逆になった。ここまで来ると、もう自分の演技力に感心する。

「ただいまー」
 私の声が玄関で哀しく響く。小学生の時に聞こえた「お帰り」の声は今は聞こえない。
 別に両親が死んだわけではないし、離婚したわけでもない。
 ただ単に仕事が忙しくなっただけだ。
 それはそれで稼ぐ量が多くなるから喜ばしい事なんだけど。
「今日は何食べよう?」
 お金は置いてあるが、余ったお金はお小遣いにそのまま入るので出来れば出費は避けたい。幸い、材料は使ってもいいと言われているし。
「これなら、オムライス作るか」
 私は必要な材料を取り出し、調理に取り掛かった。

「まあまあの出来かな」
 食器を洗い乾燥機にかける。
 オムライスはそこそこの出来だった。
「……勉強するか」
 特にすることがないので私は勉強を始める。特に娯楽に関するものがないこの家では暇つぶしに勉強はもってこいだ。
 ちなみにいつもこんな感じだから委員長という役職につけてたりする。真面目で、誰にでも優しい委員長として。
「でも、この事ばれたら致命傷だな〜」
 他人事のように呟く。だって、これが演技と知って快く思うものは一人もいないだろうから。
 私はしばらく勉強してから布団に入った。

 朝、目覚まし時計より前に感覚で目覚めてしまった私はいつもより早く朝食を摂った。……嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

「委員長、おはよう!」
「おはよう」
 挨拶をしてくるクラスメイト達に私も笑顔で挨拶を返す。
 いつも通り自分の席に座り支度をしていると、誰かが声をかけてきた。
「委員長、ここ教えてくれない?」
 宿題だろうか。正直めんどくさいが、そんな本心とは裏腹に
「うん、いいよ。どこが分からないの?」
 と笑顔で言ってしまう。
「あのね、ここ」
 どうやら、聞きに来たのは山本君のようだ。
「これは、——」
 昨日の宿題を私なりに分かりやすく教える。
「なんだ、そういうことか」
 山本君は納得して自分の席に着く。その時、先生が教室の中に入ってきた。

「ねえ、教えてほしい問題があるんだ」
 昨日と同じようにクラスメイトから声がかけられた。
「何? 山本君」
 ただ、昨日と違うのは教える相手が山本君になったことだろう。
「あと、他にも分からない問題あるから図書室に来てほしいんだけど」
 だめ? と上目遣いに聞いてくる山本君。周りの目もあるし、断るわけにはいかない。
「うん、いいよ」
「やったー! じゃあ、たくさん教えてもらえるね」
 そういって目をきらきらさせる山本君。そんな無邪気な目がいつもなら嫌いなはずなのに山本君に対しては特にそんな感情を抱かない。……だからといって好きではないが。
 図書室につくと山本君は一気に質問し始めた。
 私はそれぞれに詳しく説明するたび山本君がお礼を言ってくれるので罪悪感がいっぱいになる。
——これは本当の私じゃないのに。
 そして、下校時刻になった時、山本君は私に聞いた。
「何でそんな仮面かぶってるの?」
 その言葉で、私の仮面は砕かれたような気がした。