コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 短・中編集(参照500突破感謝!) ( No.83 )
- 日時: 2014/11/08 00:09
- 名前: 夕陽 (ID: jP/CIWxs)
三題噺「扇風機」「コスモス」「土砂降り」ジャンル「ラブストーリー」
「ずっと前から好きでした」
生徒が少なくなったからか使われなくなった教室。
そこで私は、人生で始めての告白をした。
* * *
「どうしよう。傘、家に忘れてきちゃった……」
私は空を見上げて呟く。
その空は午前中の天気とは一転して黒い雲に覆われていた。
今日の朝は暑すぎるくらいだった。
扇風機がクラスごとおいてあるがそれでは足りないくらい。
職員室にエアコンがあるのに何でクラスにはないのだろうと友達と言い合ったのは8時間くらい前のことだ。
セミの声もうるさいくらい聞こえていたが今ではそんな気配すら見せない。
天気予報では降水確率0だって言っていたのに……。
あいにく折り畳み傘も忘れてしまっている。
走って帰ってもいいけど、こんな土砂降りのなかでは10秒と立たずにびしょぬれだろう。
「あれ? 谷口さんどうしたの?」
私が迷っている時後ろから声がした。
振り返ってみると同じクラスの男子が立っていた。
「あ、中野君。まあちょっといろいろあって……」
苦笑い気味に誤魔化す。
一応学級委員長なので妙なプライドが邪魔をして傘を忘れたと言うことを言い出せない。
「もしかして傘忘れた? なら俺の貸すけど」
しかし、彼にはわかったらしく自分の手に持っている傘を私に差し出す。
「そうだけど……。でも中野君濡れちゃうでしょ?」
「大丈夫。俺、折り畳み傘も持っているから」
そう言って鞄から折り畳み傘を取り出してにこっと笑う。
「じゃあありがたく借りるね」
そんな彼の笑顔に押されて傘を受け取ってしまった。
「うん、気をつけて帰ってね。さよなら」
私が傘を受け取ったのを確認すると彼は折り畳み傘をさして雨の中歩いていった。
その背中をずっと追っている自分に気付き私は慌てて傘を開く。
急いで帰らないと塾に遅刻してしまう。
* * *
「昨日はありがとう」
放課後私は借りた傘を中野君に返した。
「いえいえ。谷口さん、困っているようだったからおせっかいかもしれないけど声かけちゃった」
そう言って控えめに笑う中野君に少しドキッとしてしまう。
今までそんなこと言われたことないから。
「中野君は、優しいね」
私の口から自然に出てきたのはそんな言葉。
困っている人に優しくするのは誰にでもできることではないと思う。
でもそんなことを当たり前に出来る彼がすごいと思う。
「谷口さんの方が優しいよ。だって——」
「だって?」
「ううん、なんでもない」
何か言いかけていたようだが途中で口を閉ざしてしまう。
少し気になるが言いたくなさそうなのでそれ以上の詮索はやめる。
「じゃあ傘返してくれてありがとう」
そう言って教室から出て行く彼を私は目で追っていた。
* * *
最近、私は変だ。
なぜか知らないが中野君を目で追ってしまう。
なぜだろう?
「それは、風花が中野君のこと好きだからだよ!」
「ちょっと理沙、声大きい!」
そのことを親友である理沙に相談したらこのような返事が返ってきた。
幸い周りに人がいなかったからよかったもののいたら私はこれから中野君と顔を合わせづらくなってしまう。
「ごめんごめん……。でもそういうことじゃないの?」
じっと目を覗き込んでくる理沙に私は目をそらしてしまう。
——私が、中野君のこと好き……?
自問自答してみる。
確かに優しいところは好きだ。
あと顔もそれなりによい。
普段はそこまで目立たないけど困っている人を見ると放っておけない人。
私の彼に対する評価はそんな感じだ。
どちらかと言うと好きなのかも知れない。
そういうと理沙は
「そっか」
と困り笑いをした。
* * *
なかがき
ちょっと長くなりそうなのでいったんきります。
「コスモス」は次回出します。
- Re: 短・中編集(参照600突破感謝!) ( No.84 )
- 日時: 2014/11/16 00:16
- 名前: 夕陽 (ID: jP/CIWxs)
三題噺「扇風機」「コスモス」「土砂降り」ジャンル「ラブストーリー」2
時がたってコスモスがその花を咲かせる頃。
しかし、そう悩んでもいられなくなった。
なぜなら
「え? 引越し!?」
私はもう一度お母さんに問いただす。
「そうよ〜。2ヶ月前から言っていたんだけど風花に言うの忘れてたわ」
そういってアハハと笑うわが母。
こういうお母さんだから私がしっかり者になったんだと最近思う。
「それじゃ、準備しておいてね。引越しは一週間後だから。あ、もう学校にはいってあるからね〜」
学校にいう時に私に言ってくれればよかったのに……。
しかし過ぎたことはしょうがない。
でも、引越しの前に中野君関連のもやもやを解消したい。
私は強く思った。
* * *
その日から私は必死に考えた。
どうすればいいのかを。
結論は
「よし、告白しよう。どうせ引っ越すから想いは伝えたい!」
だった。
告白といっても付き合ってほしいというものではなく、好きだったということだけ伝えるシンプルなもの。
実際私は付き合いたいとか思わない。
でも、好きなんだ。
その次の日、そして引越しの前の日に私は彼を呼び出した。
* * *
「ずっと前から好きでした」
放課後、少し待ってて。
朝の会の前にその言葉を彼に言ってから8時間後、私は彼に向き合いそういった。
しかし顔は私がそらしていてどんな顔か分からないけど。
私は彼の表情を見ずに言葉を紡ぐ。
「傘を貸してくれたあの時から好きでした。引っ越すから最後に聞いてほしかっただけだけど。いきなり、ごめんね」
今、私は恥ずかしくて彼の方を見れない。
しかし窓側にいるかれが影で動いているのを感じた。
そう思ったら彼が私の顔を覗き込んでいた。
「それくらいたいしたことないよ。委員長はいつもがんばっているんだから」
優しく微笑む彼に、でも一言も「好き」と言わない彼に私はやっぱり、と感じる。
——やっぱり、私のこと彼が好きなわけないよね。
「聞いてくれてありがとう」
そうなると感じていたはずなのに上手く笑えない。
がんばってぎこちない笑みを作るが、すぐに雫が目の端から伝う。
「じゃあね」
顔を背けて走り出す。
もう行くことのない教室を振り返らずに家に向かった。
* * *
1年後、私は高校に無事入学した。
新しい制服はなんだかとっても新鮮だ。
「いってきます」
まだつぼみが多い桜が続く道を歩く。
高校に行くにはこのバスに乗るんだよな……。
春休み中何度も練習した道を通ってこれから私が通う高校に着いた。
* * *
「おはよう!」
見知らぬ子に声をかけられる。
「あ、おはよう」
私も笑顔で返す。
こういうのは最初が肝心だ。
少ししたあとにホームルームがはじまる。
今日は自己紹介をするらしい。
私は真ん中よりちょっと遅いくらい。
「谷口風花です。よろしくおねがいします」
無難な自己紹介を終えて皆から拍手をもらう。
席に着いて一息つく。
すると、どこかで聞いたことのある声がした。
「中野風雅です。よろしくおねがいします」
私達は1年ぶりに再会した。
* * :
あとがき
とりあえず終了です!
ちなみに追記。
中野君はいちども風花のことを嫌いといってません。
また、中野君は一度風花に助けてもらったことがあります。
風花はそのことを覚えていません。
だから何? って感じるかもしれませんが……。
もっと書こうかと思いましたが長くなるのでやめました。
今回本文1300字くらいあるので。
もしかしたら気まぐれに書くかもしれませんが。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!