コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 短・中編集(参照1100突破感謝!) ( No.97 )
- 日時: 2015/05/31 09:56
- 名前: 夕陽 (ID: WOWRJwNN)
想いを届ける店
「想いを届ける店?」
私はその言葉を聞いたとき、首をかしげた。
お店といえばいろいろあるが、想いを届ける店など聞いたことがない。
「うん。媒体は何でもいいんだって。手紙でもメールでも。想いだけでも。それを特定の場所に送るとどこでも、どの時間でも届けてくれるんだって!」
美里は身を乗り出して語る。
確かにそれが本当だったらすごい。
でもそんな話本当にあるのだろうか?
訝しげに彼女を見ると、
「だからこの前一回やってみたの! メールで宮下君に告白したの!」
「で、結果は?」
「私の携帯に返信がきてね、友達からならいいって!」
それで美里のテンションが今日は異様に高いのか。
まあいつも高いけど。
「沙紀もやってみなよ! 好きな人とかいないの?」
「いない」
けれど、本当に『いつでも、どこでも』届くなら、届けたい人がいる。
ずっと後悔していたあのことに対する想いをあの人に伝えたい。
「もしよければ、どうやってやるのか教えてくれないかな?」
「別にいいよ!」
* * *
とりあえず、これでいいか。
私は手紙と切手を用意してふう、と息を出す。
今から始めるのは過去に手紙を送ること。
本当に出来るか半信半疑だけれどやってみる価値はある。
「書き出しは“この想いがあなたに届きますように”だったよね……」
「想い」じゃないとダメって美里が言っていた。
「思い」じゃダメだって。
「あとは、自分が好きなように書けばいいんだよね」
とりあえず、懺悔の言葉だけでも書こう。
あまり未来の内容が多すぎると届かない可能性もあるらしいから、出来る限りぼやかさないと……。
「最後に宛名は……“5年前の斉藤静香様”」
住所は書かず、名前だけでいいらしい。
私はそれをポストに投函した。
* * *
「静香ー、あなた宛の手紙よ」
突然お母さんに呼ばれたのは、丁度泣いていた時だった。
鏡を見るとおばあちゃん譲りの青い瞳が真っ赤になっていた。
私はそれを見ると情けなさに泣きそうになる。
簡単に言うと私はいじめられていた。
理由はこの青い瞳だろう。
クラスどころか学年、いや学校にさえいないこの真っ青な瞳……。
この瞳が嫌いだったが、一人だけ褒めてくれた子もいた。
その子はもう親の事情で転校してしまったけど。
「置いといてー」
とりあえずそれだけ返事をする。
涙声にならないように気をつけて言ったつもりだが、少し震えていた。
化け物、怪物、妖怪……。
とにかくひどいことを言われ、私はどんどん消極的になっていった。
でも、ある時こう言われた。
「静香ちゃんの瞳、空みたいでキレイだね!」
それは、負の感情など一切ない、純粋な黒い瞳だった。
「だったら、代わってくれるの?」
そのときの私は荒んでいた。
だから意地悪な質問を投げかけた。
どうせ、それは出来ないって言うくせに。
「うん! 代わりたい!」
中学生とは思えないくらい子供っぽい、純粋な言葉。
私は、その言葉に確かに救われた。
そこから時が過ぎ、中学2年生の夏。
突然その子が転向することを知ってしまった。
「ごめんね」
そう言う彼女に私は、
「大丈夫」
と笑って見せた。
* * *
「過去のこと思い出しても何も起こらないのに……。そういえば手紙誰からだろう?」
私はお母さんの言葉を思い出し、リビングに行った。
瞳の色が青に戻っているのを確認してから。
「5年前の斉藤静香様」
封筒にはそう書いてあった。
差出人は書いてない。
一体なんだろう?
怪しげな手紙に戸惑いを隠せないでいると……。
「え? 何で?」
私の意思に関係なく手を動かして便箋をあける。
その便箋を全部読んだ時、私は先ほどとは違う涙が流れた。
差出人は恐らく私の瞳をキレイといってくれた、沙紀ちゃんだった。
内容は、転校した後いじめがひどくなっていたことに対する謝罪だった。
別に沙紀ちゃんは悪くないのに……。
その日から私は、悲しいことがあっても泣かないでこの手紙を読み返す。
そのせいで中学卒業時にはぼろぼろになってしまったけど。
「沙紀ちゃん、ありがとう」
もし、どこかで彼女に会えたらこの言葉を言おう。
勇気をくれた彼女に。
* * *
あとがき
感動物書きたかったんです←
更新が不定期すぎて読者様に見放されている気がしないでもないですが、時々こうやって忘れた頃にやってくると思います。
もしよければ見てくれると嬉しいです。