コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ラナンキュラスと少女 ( No.22 )
- 日時: 2014/05/10 23:34
- 名前: はにわ ◆wrfkg3Dbu. (ID: AwgGnLCM)
「どうぞ」
相変わらずの笑顔で差し出された甘味に、目を輝かせる。
それは、少女の澄んだ心を映したよう。とても、綺麗に見える。
———その瞳の持ち主、目の前のリリーを眺めて、思った。
「クレドも」
俺の前にもリリーと同じようにケーキが置かれる。
と、フェリスが声を上げた。
「ああ、お皿忘れてた……」
仕方ないよ、と彼女を苦笑いでなだめて、代わりになるものはないかと探した。
食器棚、台所、本棚————改めて部屋を見て、少し感心する。
木で作られたそれらは、この少女が設置したように思えなかった。やはり、俺達がここに訪れるずっと前には、他にも人がいたのかな?
考えを止めたころ、ようやくキッチンペーパーを見つける。
本来の使い方とは大分それるけど、ないよりはマシかな?
食べ物で人の家を汚すのは気が引けるし……。
見つけたそれをケーキの下に引いて、簡易ランチョンマットといったところだろうか。
「悪いね」
フェリスは顔を上げて笑い、付属のフォークでケーキを食べ始める。
リリーも、フェリスのほうをちら、と見て真似をするように、口に運び始めた。
「おいしい、けど……これなんだっけ?」
もぐもぐとケーキを小さな口に頬張りながら誰にとでもなく呟く。
もしかして、ケーキを知らないのかな?こんな小さい子なのに?
疑問が浮かんだから、少女に考えを促してみた。
「えっと、お母さんとか、近所の人とかに貰った事ない?」
俺の疑問にリリーは首を傾げる。フェリスにまかせとけばよかったかな……でも当の本人、知ってか知らずか、それはもう花が舞う様な笑顔で、ケーキを食べ続けて、いる————
いや、気づいてるでしょ、お前。口元についたクリームもそのまま、
タチの悪い悪戯っ子の子供のような、笑みを浮かべている。
琥珀色の目で、「まぁ頑張ってみろよ」というような視線が投げかけられているし……
「あ、」
「あの人……わたし、のたいせつな、たいせつだった人に」
———もらった、かも
たどたどしくだが、思い出した記憶を懸命に伝えようとしてくれている。俺に。
「へぇ、その人どんな人だったの?」
リリーはケーキを食べるのさえ止めて、考えを張り巡らしているようだった。
「……ごめんなさい。どうしてかおもいだせない」
「いや、そんな、あやまんなくて大丈夫だから………」
「リリー、ちゃん」
どうしよう、余計な事を考えさせてしまったかな…?
隠していた秘密が、ばれた時のこどものように、俯く。
「こらークレド〜」
さっきまで視線を送ってきていた奴から声が掛かる。
「リリーの事困らせないのー。ね、こんな奴のいうことなんか気にしないでいいぞ、リリー?」
いつのまにかケーキも食べ終わったようで、リリーの後ろに回り、
チョコレート色のスカートをしゃがんで抱え込み、少女に耳打ちをしていた。
リリーも焦った表情をしながら、こくこく、とその小さな頭を振る。
———よかった!
助かった、と安堵の表情を浮かべる。
無神経な発言もしているが、もやもやしていた雰囲気をその明るい声で断ち切ってくれた。感謝しておくかな。
「あれ、まだ食べ終わっていないのか、リリー」
「ううん、これはね」
少女は先ほど縦に振った頭を、今度は横に振る。
そして、心なしか嬉しそうな、声で、
————このうさぎのにんぎょうにあげるの!!