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Re: ラナンキュラスと少女 ( No.35 )
日時: 2014/05/25 19:30
名前: はにわ ◆wrfkg3Dbu. (ID: AwgGnLCM)



息を切らし、見上げると、二人がいた。
どうしてか、わからないけれど、その顔は妙に強張っている。

やがて、フェリスが先に口を開いた。

「どうしたの、リリー」
「こいつのせいで怖い夢でもみたのか?」

と、クレドを指差しながら言う。でも表情はそのままだった。
違う、夢は見たけれど——違う。
否定しようとして、必死に首を振る。
「クレドのせいじゃない。でも……夢を見た気がする」

「どんな夢だったの、リリーちゃん」
目線を私に合わせようとして、その場にしゃがみ込んでくれた。

それに、答えるようにして、内容を連ねる。

——夢か、私の記憶か。それは今や形をなさない。
でも鮮明に、不思議と覚えていたから。

「……へぇ、変わった夢だね、でも悪い夢じゃなくてよかった」
一通りなんとか話終わった後、クレドは相槌を打つ様に答えた。
私は自分の喉に思わず手を当てる。こんなに流暢に喋れただなんて。

「その女の人は、君を——」
言いかけて、ううん、と首を振る。

「やっぱり、君の事が」


——大好きだったんだね。


私は、こくん、と首を振る。否定する気になれない——というより、否定したくなかったのかも。あの人の愛情を。

フェリスはそんな私を呆気にとられた表情で見ていた。
私がちゃんと喋っていることに、驚いたのかもしれない。
私だって、驚いたわ。

「そして、君の名前は、花が由来していてね——あぁ、その女の人は、博識だったんだろうな」

何故か顔を綻ばせている——どうしたのかしら、クレド。
いいつつ、クレドは抱えていた本を、ぱら、とめくる。


——美しい人格。


——名誉。

言葉が、連ねられる。私に放られたそれは、私の感情を刺激した。


「そして」


——あなたは、魅力に満ちている。




「ね?すごく、嬉しいだろ?」


私は自らの頬に、触れる。生暖かいものが流れていた。

「君が、物を食べなくても大丈夫な事も、君の出身地も、親も」
「永遠に、生きられる理由も」

「分からないけど、ね、俺は思うんだよ」

何度もそれを拭う——でも涙が、止まらない。
フェリスに、ハンカチを手渡された。
そして、彼女の顔も、鏡映しのように、私と同じ顔をしていた。


——リリーちゃん、君すっごい幸せ者!


クレドはそういって、笑った。けど——つられて泣きそうになってない?貴方。

三人で、泣いてて、なんだか可笑しいわ。嬉しいのにね。私は。
——こんなに嬉しいのにね!!


やっと、フェリスが喋った。
「さっきの——町へ行くって約束、どうしよっか?」

私は少し考え込む。ううん、どうしようかな。
——楽しみは、先延ばしにするべきかしら?


「私が、やっと思い出した事を」
「忘れなくなるまで、待っててもらっていいかしら」

その答えに、フェリスは頬を緩ませた。いいよ、って事かな?
そして、クレドは先ほどの本を私に手渡した。

ずしりと、重い。男の人って、随分力持ちなのね。
「それ、開いてるとこメモに使っていいよ。君の思い出のね」

クレドはそういって——立ち上がり、私に手を振る。
——またね。

私は感情を抑えて、背中を向ける二人に問う——


——またくるよ!

そう、フェリスが言った。