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Re: ラナンキュラスと少女 ( No.36 )
日時: 2014/05/25 19:56
名前: はにわ ◆wrfkg3Dbu. (ID: AwgGnLCM)



リリーの姿は、あの家の姿は、もう木々に隠れて見えなくなった。
私は、前を向き——次に横を睨んだ。


「お前、さっきの理由わかんないっての嘘だろ」

「あ、ばれてたの?なーんだ」
問いかけた奴は、可笑しくてたまらない、というように笑いを堪えている。

「実は見通しはついてたよ、あの夢の中の女の人が、リリーを研究する人の頼みであそこに来たって事!」

「だってこんなとこに長い間老いることなくいる不思議な少女——調べないわけにいかないでしょ!!」

私は呆れて、ため息をつく。
「変な言い方すんな。人攫いじゃねえんだぞ」

「ごめんごめん——でもねぇ」
ふと真顔に戻る。

「やっぱそれでも、あの子は愛されてたと思うんだよ」

——永遠に枯れる事のない花だ。

うんうん、と自分にさぞ満足したご様子で相槌をうつ。このやろうまた髪の毛引っ張ってやろうか。

「セリフがいちいち臭いぞ、クレド」
がし、と歩いているそいつの足を蹴る——これだけで済んで良かったと思え!

「痛!ちょフェリス……痛!」
でも連発しておく。


「ま、あの子に関する論文は提出しないことにするよ」
何となく私と距離をとりつつ——平気で言った。


「おおい、私はお前に頼まれていったんだぞ——」

——まぁ、あの子の事は秘密にしといてもいいか。
そんな考えが、頭を過ぎる。

「でも、私は優しいからな、リリーのためにも取り下げを許す!」
そして満面の笑みをそいつに向ける。




……それはそれで気持ち悪いよ、フェリス。

なんだよ、もう一発いくか?

……リリーに言いつけるよ。暴力ふるってくるーって。

子供を楯にすんな!この適当考古学者!!



そんな馬鹿みたいなやりとりをする。

リリーに、見られてたらどうしようか……ま、ありえないけど。
おそらく、大人のような笑みを浮かべるのだろう。


柄にもないことを考えてみた。

——彼女は、崖に咲いた花であり、

  地上に足の着いた可憐な女の子でもあるのだ。

「フェリス、今日は情緒不安定だね、今度は黙り込んじゃって」
皮肉をたれられるが、そんな事は気にしない。


——もう一度だけ、歩いてきた道を振り返る。
  そして、笑みを浮かべた。






そこに咲かない筈の、ラナンキュラス。

それが、手を振っているような幻覚を見た。




fin