コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。【9/6更新】 ( No.121 )
- 日時: 2014/09/15 20:25
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第9章 恋心と女子高生
「今日は火を扱う実験だから気を付けるのよ」
科学教師がそう声をかける。皆は「はーい」とやる気のない声で返事をする。私も机に向かい、液体が入ったビーカーを手に取る。……しかし、何故か身体がだるい。
「水帆、何か顔色悪くない?」
「——大丈夫」
隣にいた葉波が私の顔を覗き込みながら声をかけてくる。大丈夫とは言ったものの、身体が思うように動かない。
「高槻、具合悪そうだし保健室行ってきたら?」
同じ班にいた赤石君も心配そうに声をかけてくれる。しかし、この実験を終えてからにしたい。心配をかけるのも悪いし、笑顔を作って赤石君を見上げる。
「この時間はだいじょう、ぶ……」
そう言い終わらないうちに視界が揺れる。自分が前のめりに倒れていると気付いた時にはもう身体は私のモノじゃなくなった。
「わああ?! せ、先生! 水帆が!」
「た、高槻! 大丈夫じゃないだろ!」
何か返事をしようとするけれど、声が上手く出ない。その瞬間、身体が宙に浮かぶ。ぼんやりした視界の隅に見えたのは赤石君の真っ黒な髪の毛。私を背中に乗せてくれているのだろう。
「……ごめん、ね」
「はいはい。もう黙ってろ」
その言葉に甘えて、私は眼を瞑る。もう何も見えなかった。
起きた時、私は真っ白なベッドの上にいた。
「……保健室?」
「あ、高槻さん起きた?」
保健室の先生が私に向けて笑顔を見せる。
「今は昼休みよ。貴方貧血で倒れたの。赤石君がここまで運んでくれたのよ」
そう言われて、後で赤石君にお礼を言いに行こう、と思った。本当に感謝する。
「じゃ、橋本先生に起きたって伝えてくるわね」
「はい、お願いします」
私はまだだるさが残る身体を半分起こし、溜息をつく。貧血なんて初めてで、変な違和感がある。
その時、遠くから足跡が聞こえる。かなり速い。何をそんなに急いでいるのだろうと思いながら保健室の扉の先を見た。そこで足跡が止まり、扉が勢いよく開く。
「水帆!」
「……薫?」
私の顔を見た薫が強張っていた顔を崩し、安心したように笑った。
「倒れたって聞いて……平気か?!」
「平気、だけど……そんなに走ってこなくてもいいのに」
「走るだろ! 水帆が倒れるなんて初めてで焦ったし」
私が倒れた、と聞いてここまで走ってきてくれたのだろう。ただ、私のためだけに、この人が。その原動力は——恋なのだろうか。
「ありがとう」
「お礼はいいからまだ寝てろ!」
私の両肩を掴み、優しくベッドに寝かせる。そして、薫はベッドの隣にある椅子に座り、私に背中を向ける。
貴重な昼休みを自分で使わず、私のために使ってくれるんだ。
それが、こんなにも嬉しくて心地よい。胸が締め付けられるように高鳴る。
この気持ちが恋なのだと悟るのには時間がかからなかった。
第9章 完