コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。【9/15更新】 ( No.126 )
- 日時: 2014/09/21 15:54
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第10章 散る想いと女子高生
薫のことが好き、という気持ちに気付いて三日。しかし、まだ薫に気持ちを告げることは出来ない。その前に、やらないといけないことがある。
「水帆、一緒に帰ろう?」
「ごめん、葉波。日直日誌まだ書き終わってないの」
「あー今日日直だったっけ。了解、じゃあ先に帰ってるね」
「うん」
葉波に悪いと思いながら先に帰ってもらう。本来なら日直日誌なんてさっさと書いて提出する。だけど、今日は特別。どうしても二人だけで話したかった。
「高槻、書き終わったか?」
葉波が教室を出てから数分後、橋本先生が教室に入ってくる。どうしても、どうしても会いたかった。会って、話をしたかった。
「今終わるところです。……でも、暇なので雑談でもしませんか?」
「雑談? いいけどテーマがないだろ……あ、そういえばあの幼馴染君とはどうなった?」
まさか、先生の方からその話を振られるとは思わなかった。先生から話を切り出してくれて、安堵したのも事実。自分から言うことはきっと出来なかっただろうから。
「……いつも通り、ですよ。先生こそないんですか?」
「俺? 俺はいいんだ。その子、好きな奴いそうだし」
「——そうなんですか?」
気付かれているのだろうか。私の気持ちに。
しかし、この様子だと酔って私に絡みまくったことは覚えていないのだろう。覚えていないことに少々腹は立つが、むしろその方が良かったのかもしれない、とも思う。
「多分いると思う。でも、俺は十分。彼女が笑って、時々話せたらそれで——」
先生が微笑みを浮かべながら私を見つめる。
そんな優しい目をして私を見ないで。そんな風にされたら、どうすれば正解なのか分からなくなる。
「ごめんな、高槻にこんな話をして」
「いえ。そんな……そんな風に愛されてる彼女は幸せ者ですね」
そういうと、先生は本当に嬉しそうに「ありがとう」と言った。
お礼なんて言わないで。知らない振りをする私は最低な人間なのに。ごめんなさい、先生。
「南さん」
「え? 何で下の名前で呼ぶんだよ」
先生が戸惑い、目を見開いてこちらを見る。
「気まぐれです。それに、今は放課後だし“先生”とか“生徒”とか関係ないかなって」
「関係あるだろ、校舎内なんだから」
先生が呆れたように笑う。それを見るだけで胸が痛い。でも、この人は私とは比べ物にならないくらい痛い想いをしているのだろう。
「南、さん。橋本南さん?」
「……水帆?」
先生がまた優しい笑みを浮かべながらか細い声で私の名を呼ぶ。控えめに、遠慮がちに。
名前を呼ぶこと、呼ばれることが罪滅ぼしになるなんて思っていない。ただ、一瞬でも違う時間を過ごせたら、どんなにいいだろうと思ったのだ。
「はい、南さん」
「うん……水帆」
今度ははっきりと、力強く。名前を呼ぶ度に、呼ばれる度に胸が痛む。だけど、それすらも感じないくらい特別な時間。
「……日誌書き終わりました」
「……はい、お疲れ様。気を付けて帰れよ」
私は席を立ち、扉から一歩踏み出してから振り返る。
「さようなら、橋本先生」
「さようなら、高槻」
出来ることなら、貴方と違う形で出逢いたかった。
第10章 完