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Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。【本編完結】 ( No.141 )
日時: 2014/10/04 11:27
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 番外編①「金魚すくい」

 僕を掬った主人は、彼女に僕を与えました。
 まるで、僕を彼女の監視役にでもするように。
 彼女は僕に「ミナミ」と名付けてくれました。それが何を意味するのかは分からないけれど、とても温かくて胸が躍る心地よい感じがしました。

 彼女は何に迷っているのか、自分の部屋でも時折思いつめたような顔をするのです。そして、小さな小さな声で呟くのです。「センセイ」「カオル」と。

 その声はとても切なくて、妙に甘ったるい声をしていました。どうしてでしょうか。僕はその声を聞く度に悲しくなるのです。

 しかし、最近彼女は笑っています。
 そして、僕に話しかけるのです。「カオル」という人についてを。それが誰だか分からないけれど、彼女の大切な人なのだろうと思いました。
 時折、彼女は悲しげな顔をして、僕を見つめて「センセイ」と呟くのです。どうして僕を見つめてそんな悲しい顔をするのでしょうか。
 僕は、ただの金魚なのに。

 先日、彼女は一人の男を部屋に連れてきました。その人は僕の主人ではありませんでした。彼女は男を「カオル」と呼んでいました。それで気付いてしまったのです。僕を見つめて悲しげな顔する理由に。

 監視役という役目はどうやらもう必要ないようです。
 主人の想いが果てたなら、僕も共に終演を告げましょう。そして、願うのです。
 主人の想いが安らかに溶けていきますように。