コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。【10/10更新】 ( No.151 )
- 日時: 2014/10/12 17:15
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
番外編③「恋人関係」
今日、私——高槻水帆は恋人である宮澤薫の家に来ていた。恒例の勉強会である。
教科書とノートを広げ、薫に数学を叩きこむ。薫は困った表情を浮かべながら問題と睨み合っている。その間、私は自分の問題集を解くのだ。
「……水帆」
「何? 分からないところでもあった?」
そう聞きながら問題集から顔を上げて、薫を見る。薫は緊張した面持ちで、気まずそうに私の顔を見ないまま言葉を続けた。
「俺達って付き合ってるんだよね?」
「……うん」
「じゃあ、もっと恋人らしいことしようよ」
「何で?」
「だってこれじゃ、幼馴染の時と何ら変わりないじゃん」
薫が言いにくそうに、俯いたまま言った。そう言われてみれば、私たちの距離や空気は恋人関係になる前から変化はない。しかし“恋人らしい”というのはどういう状態を指すのだろう。
「恋人らしいことって、たとえば何?」
「えっ、うーん」
そう問うと、薫は悩み始めた。そんな薫を見て、また悪戯心が湧いてきてしまう。
「——葉波から借りた少女漫画とかだと彼氏が押し倒してたりしてたけど」
「お、おし……?! いや、それは俺にはちょっと無理難題……」
「じゃあ、何?」
「……うーっ!」
薫は返答に困ったのか唸り声を上げて頭を抱えた。そんな薫を内心笑いながら私はもう一度問題集に目を落とした。
「ほら、手が止まってる」
そう言ってから、薫が動く物音が聞こえた。何をする気だと顔を上げた方向には薫は見つからず。驚いていると身体の後ろに重みを感じた。後ろに回っていたのだと気付いた瞬間、私の視界が真っ暗になった。
「何……薫?!」
見えない目に向かって自分の手を伸ばす。すると、冷たい少し角ばった何かを掴んだ。薫の手が私の目を塞いでいるのだと気付くのには時間がかからなかった。
「黙って。生意気な彼女に少しお仕置きするだけだから」
その言葉が言い終わらないうちに、首筋に痛みと熱を感じた。吸いつかれたのだと視界が真っ暗でも分かった。
「い、やっ……」
身体すべてを優しく撫でられたような感覚に襲われ、自然と拒否を求める声が出る。
「何が嫌なの?」
薫は楽しげな声で言った。私が返答できない状態にしたのは薫であって、返答できないことにも気付きながらそう聞くのだからタチが悪い。
「ほら……」
そう言いながら背中をゆっくりと撫でられる。薫の指が一本背中をなぞるだけなのに、すべてを支配されたように身動きができない。服越しなのに、素肌に薫の熱を感じているみたいだ。
「やめて……お願い」
「何でやめてほしいの? それに、やめてほしいのなら水帆の腕でやめさせてみなよ。動けるはずだけど」
確かに私の腕は自由だ。しかし、すべてを薫に支配されているような感覚の今、私に自由なんて存在しない。この腕だって無意味なものなのだ。それに薫はきっと気付いている。それでも薫は私を解放してはくれない。
「意地悪しないで……薫」
自分のプライドとの戦いの結果、私は敗北のセリフを吐いた。それを聞くと、薫は私の目から手を放した。
どっと疲労感が募る。肩で息をすると、薫がこちらを見ながら言った。
「これくらいでそんな顔真っ赤にしてたら、今後身がもたないよ」
「……バカ」
少しずつ、上下関係が変化してきているのではないかと感じた勉強会の休憩時間のことだった。