コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。 ( No.39 )
- 日時: 2014/06/25 22:17
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「あれ、水帆、結構時間かかって……」
教室に戻ると葉波が声をかけてきた。そんな言葉は無視して、私は葉波の顔を見つめる。何かの言葉を発する気も、今までのことを説明する気力もおきなかった。
そんな私を葉波は数秒間見つめてから、そっと私の手を取り、強く握りしめた。
「どうかした?」
「……裏切られた気分」
「そっか」
ただ、それだけ。それだけの言葉を交わし、葉波は手を離す。それなのにこんなに安心できる。それが葉波のいいところだと、今更ながら気付く。
チャイムが鳴った。私達は無言で席に戻る。後でお礼を言おう、と思いながら。
面倒臭い世界史の授業をやり終えて、私は一息つく。
先生に裏切られた。別にそんなの心にも留めないような出来事。それなのに、こんなにも心はざわついている。苛々して、先生に会って文句を言いたい気にもなるけれど、会いたくもない。こんなもどかしい気持ち、初めてだ。
放課後、私は鞄を持ち、葉波に声をかける。教室には私と葉波しか残っていないようだった。今日は駅前でワッフルを食べる約束をしていた。葉波はこちらを見ると、一瞬戸惑った顔を見せてから、苦笑いをした。
「葉波? 何でそんな十面相なんかしてるの」
「いや……後ろ見てみなよ。まあ、」
たどたどしく言葉を紡ぐ葉波に違和感を感じながら、私は言われた通りに後ろを向く。
「南ちゃんが原因なんだろうな、とは思っていたけど」
葉波のそんなセリフをBGMにして、私は橋本先生の顔を凝視した。後ろには先生が立っていたのだ。複雑な顔をしながら。
「ごめん、間宮。高槻借りてもいいか?」
「ああ、はい。水帆、ワッフル今度にしようね」
「え、ちょっと……」
葉波はそう言い残して止める間もなく行ってしまった。
「高槻」
名前を呼ばれて、身体が反応するのが分かった。すごく、苛々する。
「……何の用ですか」
「今日は本当に悪かった。だけど、あれは高槻を同情しているんじゃなく……」
そう言われた瞬間、私はずっと抑えてきた感情を、出さないつもりだったのに、出してしまっていた。どうして、止まらないんだろう。
「別に、謝らなくていい! そういう風に思うのは当然だから。『同情じゃない』なんて言い訳はいらないです。もう、私に関わらないで下さい……!」
そう叫んだ時、両肩に違和感を感じた。先生が私の両肩を強く掴んでいるからだと気付くのに少しだけ時間がかかった。
驚いて先生を見つめると、先生は言葉を発した。
「あのなあっ……同情と心配なんて紙一重なんだよ! 俺はお前のこと心配してるんだよ。しっかりしてるくせに、マイペースで、何でも強がって……関わるなって言われても無理にに決まってるだろ! 高槻のことが気になって仕方がないんだよ!」
一気にまくしたてられる。先生は手の力を緩めた。「ごめん」と謝りながら。
「同情」と「心配」は紙一重。そんなことは考えてこともなかった。この人は、私と違う考えを持っている。そんなの、すごく、すごく——
「先生って、面倒臭い人ですね」
「悪かったな」
拗ねたように先生はそう言った。
「ありがとうございます、先生。……嬉しかったです。そう言ってもらえて」
「お前……そういう風に笑うんだな」
言葉の意味を理解できず、何も言えずにいると、先生は付け足して言った。
「今までからかったり、大人ぶった笑顔しか見てこなかったからな。そんな優しく年相応の笑顔、初めてみた」
「そっちこそ」と言ったら機嫌を損ねそうだから、私は開きかけた口を閉じた。
先生が心配してくれている、と知り、何なのか分からない感情が生まれた。温かくて、すべてを癒してくれるような気持ちが。
この人のことを、もっと知りたい、という気持ちが。
第3章 完