コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。【6/25更新】 ( No.45 )
- 日時: 2014/06/29 12:32
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第4章 本気と女子高生
「おはよう」という教師と生徒の声が飛び交う中、私は教室に入る。声をかけられるものの、朝だからかテンションは低く、引きつった笑顔しか作れない。
「水帆、おはよう!」
「葉波か。おはよう」
葉波の高いテンションについていけない。
呟くような声で挨拶をすると、葉波は私に身体を近づけて聞いてくる。
「で、昨日南ちゃんとは何があったの?」
「特になにも」
「はあ!? そんなわけないでしょ! あんな必死な顔の南ちゃん初めて見たよ!」
南ちゃん——橋本先生とは本当に何もない。ただ、面倒臭い人だな、と知っただけ。
それと、何だか分からないもどかしい気持ちが生まれただけ。それだけなのだ。
「生徒と教師の禁断の恋かあ……」
「変に妄想広げないでくれる?」
目を瞑って、意味不明な妄想を繰り広げる葉波に一喝する。葉波は「冗談」と言いながら私を指差した。
「それに、水帆には『幼馴染ラブ』も存在するからね」
「……え? 薫ってこと?」
葉波は縦に首を振る。
薫となんて考えたこともない。昔からずっと一緒で、恋愛なんて絶対に生まれない。葉波の勘違いもついにそこまでいってしまったのか。
放課後玄関を出ると、アスファルトに雨が叩きつけられていた。傘を開き、歩き出そうとした時に薫の姿を見つけた。薫は憂鬱そうに空を見つめていた。多分、傘がないのだろう。そう思いながら薫に近づく。
「薫。傘、入っていく?」
「水帆!? ……って何言ってんだよ。一緒の傘なんかに入れるわけないだろ」
「薫も周りの目を気にするようになったんだ……。じゃあ、あそこの角を曲がったら一緒に入ろう。ほとんど人いなくなるから」
「そういう問題じゃない」と後ろから声が聞こえてくるが、私はさっさと歩き出す。
角を曲がり、立ち止まる。数分後、薫も曲がってきた。薫は嫌そうに傘に入った。幼馴染なんだから、気にしなくてもいいのに。
薫は私の手から傘を取ると、私の方に傘を向けた。
「薫、濡れる」
「お前の傘なんだからいいんだよ」
こうなってしまったら、頑固な薫は揺るがない。仕方なく、私は薫に甘えた。
その時、脳裏に葉波との会話が浮かんだ。
「それに、水帆には『幼馴染ラブ』も存在するからね」
幼馴染ラブ、というのは存在しないとはいえ、薫も恋をするのだろう。いつまでも薫に構っていたら、薫も彼女が出来ないのかもしれない——。
そんなことを考えていると、薫が私の顔を覗きこんできた。
「水帆? どうした?」
「……一緒の傘に入りたくないって、薫の好きな人とかに誤解されるって意味?」
「は?」
「それとも、薫のことを好きな人に関係とかあるの?」
そう言うと、薫の足がピタリと止まった。薫は俯いていて顔が見えない。沈黙が流れる。雨音しか聞こえない。
「それ、本気で言ってるの?」
心なしか、声がいつもより低い。それでも、聞かれたのだから答えなければいけない。
「本気だけど」
そう答えると、薫は持っていた傘を落とした。冷たい雨が身体に降る。
薫の顔は強張っていた。何を言えばいいのか分からず、私は黙ってしまった。
「勘違いしてるのは、水帆の方だろ」
小さな声で薫は呟き、私の濡れた身体を自分の方に引き寄せた。いつの間にか、抱き締められていたのだ。
「やっ……薫!?」
「いつまで年下の可愛い幼馴染だと思ってんの?」
耳元で薫の少し低い声が響く。いつから、こんな声を出すようになったのだろう。
「好きだ。ずっと昔から、水帆のことが好きだ」
「え……?」
「水帆は恋愛に興味がないし、しばらくは今のままでもいいと思ってた。それなのに、水帆は勘違いしてるし」
そう言うと、薫は私の耳に軽く、優しく歯を立てた。
「——っ!」
思わず、身体が震える。そんな私を見て、薫の微笑む声が聞こえた。
「俺で、動揺してるんだ」
「ちが……」
薫の胸板に手を当て、抵抗するが全く敵わない。無駄な抵抗だと知りながらも、身体を離そうと努力する。
「ねえ、俺のこと好きになってよ」
薫は少しずつ腕の力を緩める。身体が自由になり、私は薫の顔を見た。
濡れた髪で目が少し隠れているけれど、薫の顔は真剣そのもので、何を言えばいいのか分からなくなる。
思わず、何も言わずにその場を去った。
家に着き、冷静になる。すると、自分の心臓の音が聞こえた。
「好きだ。ずっと昔から、水帆のことが好きだ」
薫の言葉を思い出して、顔が赤くなるのが分かる。
分からない。薫が。
それに、今の私が薫に出来ることは何か。それも分からない。
私は、どうすればいい?