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Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。 ( No.62 )
日時: 2014/07/23 21:24
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 第5章 補習と女子高生

『2年B組、高槻水帆さん、至急職員室まで来てください』

「……え」

 昼休み、放送が入った。昼食をとっていた私は思わず間抜けな声が出る。呼び出されるようなことをした覚えはないのだけれど。

「水帆、あんた何したの?」
「本当に私何したんだろう」

 何をしたのか聞く葉波。だけど、何をしたかなんて私が一番聞きたい。ここで考えていても無駄だしし、呼び出されてしまったら行かなければならない。面倒臭いと思いながら椅子を立つ。

「ごめん、葉波。行ってくる」

 葉波にそう告げて、すぐに教室を出る。何となく嫌な気がしないでもない。というか、嫌な気しかしない。

 職員室に入ると、橋本先生が手招きをする。私は黙って橋本先生の前に立つ。

「高槻、放課後補習だから」
「私が、ですか? 何で……」
「回答欄1つずつずれてる」

 そう言って私の前に突き出したのは数学のプリントだった。そこに書いてあるのは自分の字で書かれた名前、その隣には赤ペンで20点と。そしてその下にはことごとくバツが付けられた回答。

「——これ、私の回答を誰かが盗んで、自分の回答の名前を私に変えたんじゃないんですか?」
「そんなわけないだろ!」

 信じたくない物を見せられ、思わずそんな冗談を言ってしまう。私としたことが、ありえない。こんな計算テストで20点なんて、一生の恥だ。

「とりあえず、放課後俺とマンツーマンで補習な」
「……」
「いいかげん認めなさい」

 先生が私の回答で頭を軽く叩く。痛くはないけれど、私の心は痛い。






「じゃあねー水帆……ふふ、あははっ」
「葉波、そういう傷をえぐるような笑いはしないでくれる?」
「だって、いつも頭が良くて補習なんて受けたことない女がそんなミスするなんて、はははは!」
 
 回答欄をずらして補習、という私の話を聞いて爆笑する葉波に腹が立って仕方がない。こっちだって驚きとショックで立ち上がれてないのだから。
 葉波は笑顔で去って行った。そういう葉波は補習常連組なのだが。

「心が傷ついている、分からないことはないと言い切った高槻水帆さーん、やりますよー」

 橋本先生が意地の悪い笑みを浮かべながら、教室の扉を開けた。本当に私の周りは酷い人ばかりなのだと、改めて知った。

「じゃあ、このプリント解いてて」
「はい」

 シャーペンを持ち、すぐに解きはじめる。
 その時、「分からないことはない」という言葉にふとひっかかり、ペンを走らせながら先生に言う。

「先生、私分からないことが1つありました」
「え?」
「恋、ってものが分かりません」

 そう言ってから、顔を上げる。先生はきょとん、とした顔で私の顔を見つめていた。

「どういう気持ちになったらそれは恋なんでしょうか? どうやって気持ちを量ればいいんでしょうか?」
「……それが、高槻の“分からないこと”なのか?」
「はい」

 先生はそう言ってから、ため息をついた。