コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。 ( No.65 )
- 日時: 2014/07/27 11:49
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
ため息をついた先生は、教卓に背中をあずけ、真っ直ぐ私を見つめた。
「本能で分かるもの。何となく感じたらそれは多分“恋”だよ」
先生は遠くを見つめるように言う。私のことは一切見つめずに。
「で、そんなこと言うなんて恋でもしたのか?」
「いえ……」
私は完成したプリントを持ち、椅子から立って先生のもとへ向かう。プリントを手渡すと先生は採点を始める。
「ただ、知りたくなったんです」
「……へえ」
曖昧な答え。しかし、先生は何も言わずに相槌を打った。
ふと、疑問に思ったことを躊躇せずに先生に聞いた。
「先生は恋をしているんですか?」
「俺が?」
先生はそんなことを聞かれると思っていなかったのか少しだけ動揺していた。採点し終わったプリントを先生は私に向ける。一瞬だけ、プリントを強く握ったように見えた。
「——俺は、口に出したら壊れてしまうから」
「え?」
プリントに目線を落とし、私も手を伸ばす。しかし、先生は自分の手を離さない。目線を上げて先生の顔を見上げると、少しだけ悲しそうに、消えていくものを仕方なく見つめているような……そんな儚い表情をした。
「せ、んせい?」
「……ごめん」
プリントから手を離してから意味もなく謝れる。理由を聞こうと思うけれど、言葉が続かない。なんて言えばいいのか分からない。
「水帆! 終わったか?」
教室の扉の方から名前を呼ぶ声。この聞き慣れた少年らしい声は、薫だ。振り向かなくても分かる。それほどに一緒にいるのだから。
「薫……」
「カオル? ああ……近所の宮澤さんのか」
先生は薫を見つめてそう言った。
薫は先生を見てから怪訝そうに眉をひそめた。
「最近越してきた橋本先生……ですよね」
橋本先生は薫のクラスの授業は担当していない。同じ校舎にいても接点は少ないだろう。今回が初めての会話かもしれない。そんなことを考えた。
「終わったのなら帰ろう、水帆」
「うん……待っててくれたんだ」
「当然だろ」
薫は照れくさそうにはにかむ。気持ちを打ち明けてくれてから、妙に素直になった気がする(本人が言葉に出さなくても顔で分かるけれど)。
私は急いで鞄にペンケースやノートを入れる。
その時、橋本先生が近づき、私の耳元に顔を寄せる。
「あの子が“知りたい理由”?」
「……ええ、まあ」
小声でそう問われ、私は一応答える。先生は「やっぱり」と言い、満足げに頷く。
「じゃあ、今日はありがとうございました」
「はいはい。2人とも気を付けて帰るんだぞ」
薫のところに向かい、肩を並べて帰る。
その間も先生のあの切なげな表情が頭から離れなかった。
「……ずるいな、あいつは」
校舎の窓から見えるのはまるで恋人同士のような2人だった。
第5章 完