コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 制服は脱ぎ捨てて、今夜、君と。【企画実施中】 ( No.92 )
- 日時: 2014/08/23 09:54
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
先生に思い切り抱き締められて、どうするべきかと悩む。私のプライドが許さないが、方法はこれしかないだろうと考えて最後の手段を出す。
「せ、先生。勝手に来てすみませんでした。すぐに立ち去るので離してもらえませんか?」
好意で来たというのに謝らないといけなくなるなんてどんな展開だ。
「嫌だ」
「は? あの、本気で迷惑なんです」
「だって、折角触れられる距離にいるのに離すなんてもったいない」
「——え?」と、思わず声が裏返る。それは、どう受け取ればいい言葉なのだろうか。私の解釈が間違っていなければ、その言葉は私に対する——
「あ、の……橋本先生?」
「いいだろ。いつもは立場的に触れられないんだから」
先生の腕の力が強まる。私の身体は完全に拘束され、後ろに位置する先生の顔も見ることが出来ない。今、貴方はどんな表情をしているのか。
その言葉は私に対する禁じられた秘密の解放なのか。疑問ばかりがいくつも浮かぶ。
「ヤケ酒だってしたくなるだろ。幼馴染とあんな仲の良い姿見せられたら」
「薫のことですか?」
そう問うと、先生の左手が私の髪の毛に触れる。それは優しい触り方ではなくて。
「痛いっ……先生?!」
「俺の前でそいつの名前呼ばないでくれない?」
感情を髪の毛に触れる手に込めているように。長い髪の毛を引っ張る。いつもはこんな風に乱暴にはしないのに。
少しだけ沈黙ができる。それを破ったのは私だった。どうしても言いたかったことだから。
「先生。私は——生徒です」
「……うん、知ってる」
そう言いながら自嘲気味に失笑する声が聞こえた。それを聞くだけで胸に何か鈍い痛みが走る。
「でも、今、お前制服着てないし」
「そんなの理由にならないです!」
そう反論すると、急に身体を抑えつけていた力強い腕の力が離れる。後ろを見ると、ソファに寄りかかる先生がいた。どうやら眠ってしまったらしい。
「どれだけ自由人なの……」
——こんなに人の心を惑わせておきながら。
生姜焼きを作った、鍵を閉めておけ、ということを書置きしてから私は自宅に戻る。
部屋に戻っても、身体中に残る先生の薫り。離れようとしても離れられない薫だった。甘いけれどどこか切なげなそれは、まるでその想いのようでとても好ましいものではなかった。
この戸惑いは、どこかにやってしまわなければ。
だって私は、まだ制服を着ているのだから。
第7章 完