コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.11 )
- 日時: 2014/09/16 06:51
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: floOW.c4)
—8 凍える闇、その奥底に灯火を
最初に集められた子供たちの数は百人以上だったのを憶えている。
戦時の最中だ。親兄弟を失い孤児となった者たちは数えきれないほどだろう。
その中でもとりわけ『適正』が高かった者だけがこうして『ふるい』をかけられて厳選されたのだ。
今戦況は著しくない。
欧米列強の本土決戦も佳境に入り東亜連合軍も大敗を期した。
残るは我らが大日本帝国が誇る精鋭『陸軍龍虎機攻隊』のみ。
彼らも必死なのだ。
この実験の成功の有無が祖国の命運を握り、その未来を担っているのだから。
特殊強化された硬質ガラスの向こう側にいる白衣、あるいは軍服の大人たちが難しい顔をしながら何かを話しているのかなど、この時の幼いわたしには理解できなかっただろう。
ただ日ごとに周りの子供の人数が減っていくのが不安でどうしようもなく堪らなかった。
いつ自分の番が来るのか、明日なのかそれとも今日なのかと思うと、いてもたってもいられず、救いを求めるように大人たちの姿から必死に探す。
兄の存在を。
物心ついたとき、最初に嗅いだのは薬品の匂いだった。
たくさんの大人が自分を物珍しそうに長々と眺めているのが酷く不快に感じた。
大人たちはこぞって幼いわたしに繰り返す。
様々な試験、実験という名の日々。
皆自分を『人』として見ていないのが嫌でも理解できた。
己の両親とも言うべき者でさえも。
何か得体の知れない期待感を籠めて、わたしを見やるのだ。
日々成果が表れるのを待ち望むように。
それをわたしの心が冷やかに受け止めていく。
同時に自分というものが徐々に死んでいくのに気が付いたが、どうでもよくなり始め、周囲へ頑なに内面を閉ざしていた。
だけどそんな中ひとりの年若い少年が向ける視線だけが違った。
憐み、慈しみ、そんな感情が入り混じった哀しげな瞳。
その少年は実験が終わるたびに自分の元にやって来る。
自分の殻に閉じこもった少女に根気強く会いに来た。
そして優しく抱き寄せ、言うのだ。
ごめん、と。
力無い兄ですまない、と。
それは少しづつだが、冷たく平淡だったわたしの心に柔らかな光りが射した気がした。
ああ、この人がわたしの兄妹なのかと。
唯一肉親の存在を、そのかけがえのない暖かい絆を得ることが出来た。
凍り付いた水面を溶かす日差し。
枢木怜薙。
わたしの兄。
わたしの最愛の人。
この邂逅がその後のわたしたちの運命を大きく変えることとなるのだが、この時はまだそれらを知る由が無かった。