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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.12 )
日時: 2014/09/16 10:49
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: floOW.c4)


 —9 産まれ出でるもの





 研究施設にあれほどいた子供たちの人数も残すところ十余人幾ばかりとなっていた。

 この実験が非人道的で凄惨極まりない鬼畜の所業だということは身を持って解っている。

 痛いほどに。

 そして今それがこの胸を掻き毟られるような気分を味わっているのは、集められた子供たちの中に『彼女』の存在が有るから。





 『アンリ』





 それが彼女の名前。

 僕がそう勝手に名付けた。

 彼女にはもともと正式な名前は無かったから。

 彼女はある実験データをもとに培養槽で生み出された有機生命体。

 そのベースとなった素体の遺伝情報、精子と受精卵からは自分の親であり、当研究機関の最高責任者である父と母から創られていたいたのは、ただ単に遺伝的に優良だったという訳だ。

 そこに愛だの情があった訳では無く無数の試験的作業の一環に誕生したに過ぎなかった。

 それだけで生かされているこの幼い少女。

 だが紛れも無い自分の妹。

 世界でただ一人の。

 愛しく無い訳がない。

 歳は離れていても自分もまだ十代の若輩。天才ともてはやされ、両親と共にこうして研究に従事しているが、この小さな女の子の痩躯に過酷な運命を背負わせて罪悪感で押し潰されてしまいそうだった。

 父と母には最早倫理という枠組みは存在せずただひたすらに研究へと没頭していた。

 狂気とも妄執とも呼べるほどの。














 戦争末期のこの時代、一刻も早く争いの早期的決着をもたらすべく開始されたプロジェクト。



 『人為異能擬化実用法』



 曰く人間もかつては野生動物の一種。

 その中に眠る遺伝情報を再び目覚めさせ多種生物のように様々な能力を獲得出来はしないか、という荒唐無稽な実験だった。

 それは『超人』の創造。

 まさに新人類の作成である。

 完成すれば無敵の兵となり、たちまちの内に敵兵を根絶やし戦争終結も夢ではない。

 完成すればの話だが。

 その研究は後に足りない部分は現存生物のDNAを配置変換し補い新たに創りかえるという手法に成り変わっていった。

 しかし上手くいかない。

 人間の遺伝情報は数年前、既に解析されているのに関わらずそれらをコントロールする術が存在しないのである。

 肉体の維持が出来ない、自我が確立出来ない、外部命令を受け付けず暴走状態に陥ってしまう等・・・。 

 こうした結果の結論、成人年齢では適格者は皆無。

 ならばと全国から年端もいかない少年少女が集められた。

 肉体、精神共にある程度未成熟であることが重視された。

 訓練された兵士とは違う、一から戦闘訓練等の軍事教練は二の次で一刻も早くプロジェクトを成功させなければならなかった。

 我々には時間が無い。

 常人ならば眼を背けたくなる、あるいは正気を保つのが困難な実験の応酬の中でそれが誕生したのは神の悪戯か、悪魔の采配か。






 それはまだ目覚めて間もない少女に移植されたのだ。






  
 
 人を異形の器へと変貌させる最悪の種子。












 『キマイラ細胞』