コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.13 )
- 日時: 2014/09/18 06:18
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Jp7wPE2D)
—10 慟哭、目覚め
————眩しい。
白い。
真っ白いドーム状の部屋の中。
天井の照明が一様に照らし出し、少女アンリを浅い眠りの底から緩やかに呼び覚ます。
ドームの高所壁から数人の研究員が硬質板の防護窓から此方を見下ろしている。
まだ眠たげな眼を擦り、明るすぎるほどのライトの光に、ぎゅっと眉をしかめる。
微睡みから起こされ不機嫌さをおくびに隠すことも無く照明の強光に隠れ蔭る大人たちを睨む。
だがそこにいつもいる筈の兄、怜薙の姿は無い。
まただ。
また兄さんがいない。
今日も姿を現さない。
もう何日も逢っていない。
一体どうしてしまったのか。
まだ、わたしが・・・・・・じゃないから?
兄、怜薙との密会はわたしにとって最早無くてはならない程に楽しみになっていた。
兄は特定の決まった時間、わたしの部屋に訪れる。
そして様々な外の知識を教えてくれた。
それは時間にしては、ほんの僅かな刻だったが、兄に逢えるというだけで投薬と実験漬けの日々に耐えられた。
兄は二人で逢う事は秘密だと言った。
『良い子』にしていたら、また逢いに来てくれるとも約束してくれた。
だからわたしは絶対に秘密を喋らなかった。
だがある日を境に兄はわたしに逢いに来てくれなくなってしまった。
何故?
わたしを嫌いになってしまったのか?
わたしが『良い子』じゃないから?
どうしたら『良い子』になれるの?
どうしたら兄さんは逢いに来てくれるの?
大人たちは壁越しに彼女に言う。
『君が強くなれば彼は喜んで逢いに来るよ』
強く?
強くなればいいの?
強くなるにはどうしたらいいの?
大人たちは壁越しに彼女に言う。
『敵を殺せばいいんだよ』
敵?
敵って誰?
敵を殺せばいいの?
殺すにはどうすればいいの?
大人たちは壁越しに彼女に言う。
『君の目の前のすべてを喰らい尽くせばいいんだよ』
クら、う・・・?
食べル、の・・・?
わタしの、目の前・・・。
視える。
重武装の兵士が何人も自分を取り囲み火器を構えている姿を。
皆一様に驚愕し此方を見上げているのを。
己よりも小さな身体の筈の自分を。
低く唸る巨影。
鎮座する長大な白銀色の異形。
ゆっくりと開く両の眼。
冥緋。
黄泉を垣間見させる深淵。
ひとりの兵士が発狂したかのように甲高い奇声を上げ闇雲に火器を乱射する。
その気迫に当てられたかのごとく次々と掃射する兵士たち。
銃弾の雨が降り注ぎ、辺りを埋め尽くす。
揺らめく異形の影。
————疾る銀閃。
人工の太陽が照らし出す白いドーム状の部屋に幾重にも迸り、穿ち、染め上げる紅い飛沫。
踊り舞う影が黒く壁に伸び上がる。
切り裂く絶叫、木霊する悲鳴。
砕けひしゃげる骨、潰れ爆ぜ飛ぶ肉。
鳴り止まない銃声の反響音。
それに混ざり聞こえる何かを咀嚼する音。
同時に怨嗟の声、すすり泣く声、救いを求める声。
それすらも掻き消す無慈悲な獣の咆哮。
そして————
断末魔が。
轟いた。