コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.15 )
- 日時: 2014/09/21 07:22
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: mwHMOji8)
—11 やすらぎは愛しき者の腕の中で
————これは何だ。
独房を思わせる狭く薄暗い仕切りの小部屋。
少年、枢木怜薙は簡素なベッドに腰掛け、やや、やつれこけた顔を上げて天井の片隅に設置されたモニター画像を見つめていた。
呆然と。
その有り様を。
四角い画面には、その鋭猛な巨体をしならせ、先程まで『人』の形だったモノの肉塊に一心不乱で噛り付く銀色の異形が映っていた。
一瞬で複数の武装兵士を血祭りに料理、メインディッシュの晩餐へと変えた魔物。
すると徐々に異形の身体が小さく縮小し始め、本来在るべき姿へと戻っていく。
少女の姿へと。
それは怜薙がよく知る女の子であるのは、僅かの間だが頻繁に逢瀬を交わしていたから。
————僕は何を視ている?
映像越しにも今だ温かみが伝わる臓腑に喰らい付き、小さな唇を染め、幼い身を一面の血溜まりに浸しピチャピチャと真紅の雫を滴らせる。
夢中で死肉を漁る少女。
見る者に叫喚と絶望しか抱たかせない、そんなグロテスクで奇妙な光景。
赤い舌が覗きゾロリと歯牙を舐め上げる。
微笑み。
暗い、とても暗い微笑。
冥府から来たのだ。
死神が。
命ある者を狩るために。
最早戦いとは呼べない、一方的な虐殺と化した生温い赤が滑り広がる白いドームの屠殺場。
重苦しい壁が軋み震え、鈍い音を上げ押し開いていく。
少女は血濡れの顔を上げて、今しがた開閉された扉に瞳を向ける。
そこには暫く見ない内に痩せてしまった少年が所在無さげに立っていた。
少女は立ち上がり、滑る床に足を取られながら歩く。
ああ。
願いが通じた。
少しずつ歩みが速まり、やがて駆け足となる。
『良い子』にしてたから。
大人たちの言うとおり、『良い子』に。
そのまま勢いよく飛び込んだ。
最愛の人の胸元へと。
少年は幼い少女をその細い腕で受け止め、抱きしめた。
精一杯力強く、精一杯優しく。
血まみれの、己の分け身たる存在を。
その温もりを。
その鼓動を感じながら。
そして誓う。
もう二度と離れないと。
この危うく、か弱く、目の離せない、いと小さき愛しき者。
守りたい。
すべての邪悪から。
例え世界が、時代が望んだとしても。
護りたい。
すべての悪意から。
例え世界が敵になろうとも。
君を。
救いたい————。