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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.16 )
日時: 2014/09/21 22:37
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 8LMztvEq)


 —12 明けない夜も、共にあらんことを





 ラジコンの様な形状の飛行小型偵察機がジャイロを回転させ、辺りの様子を搭載されたカメラで窺いながら飛翔している。

 無機質なカメラのモノアイで有りのままの戦況を逐一監視し、情報を送信する。

 瓦礫と夥しい屍の山。

 その殆どが敵対する敵国の兵士たち。

 皆、首と四肢が細断され、バラバラと無造作に転がっており、その表情はどれもが驚愕と恐怖に引き攣り大きく眼球が見開かれていた。

 まるで此の世のものではない『何か』に出会ってしまったかのように。

 その中を悠々と歩を進める銀髪の少女。

 灰白のコンバットスーツの半身を真紅に染めて、アンリは両手の二対の相棒を器用に弄ぶ。

 右手に携える鉄紺のクルーディングナイフ『グルジエフ』。

 左手に添える滅紫のフォールディングナイフ『ヴァンブレイブ』。

 超硬合金製で刃渡りは約三十Cm程度、折り畳んで格納可能な、自分専用に設計された特殊仕様。

 兄、怜薙からの贈り物であり、お気に入りの武器だ。

 アンリはあらかた片づけた戦場の一帯を銀光の鋭い眼差しで見据えながら生存する敵の気配を探る。


 ・・・どうやらこれ以上動くものの存在は確認されない。


 「此方『ヴェアウォルフ』、敵殲滅を完了した。Fox2応答されたし」

 装備していたトランシーバーから交信すると直ぐに応答があった。

 『ヴェアウォルフ、此方Fox2。此方でも敵残存兵力の殲滅を確認。これより貴官の帰投を許可する、オーバー』

 「了解。これより帰投する、オーバー」

 上空を旋回しながら漂う偵察無人機を仰ぎ見るアンリ。

 すると通信機から聞き知った声が聞こえ、アンリの耳に届く。

 『任務ご苦労様、アンリ』 

 「怜薙兄さん! 何時こっちに来たの!? 本部で仕事があるんじゃ・・・」











 戦場から数キロ離れた窪地に停泊する武装した数台の車両。

 それらに護衛されるアンテナを搭載した大型トレーラー。

 車内では数人の科学者が機器を操作し、スーツの眼鏡の青年が偵察機から送られてくる映像を視ながら通信機で会話をしていた。

 「ああ、仕事なら終わらせてきたよ。どれも退屈なだけさ。それよりも君の任務の方が百万倍も大事だ、アンリ」

 怜薙は映像に映し出されている此方を見上げる少女の画像を拡大調整し、笑顔で飄々と嘯く。

 本当は相当無理をして此処まで来たのだ。

 幹部の特権をフルに行使して。

 職権乱用もいいとこであるにも関わらず、それが許されるのは彼と彼女の関係にあるところが大きい。

 怜薙とアンリ、ふたりの兄妹。

 かつて所属していたエグリゴリの前身だった機関。

 その組織は今は存在しない。

 何故なら、彼女らを残し、その関係者は皆死亡してしまったから。

 消滅してしまったのだ。


 たったふたり生き残った少年と少女。 

 何が起きたのか。

 真実を知るであろう兄妹。

 それをふたりは語ろうとはしない。

 ただ、そこには何人も踏み入れがたい深い、深い闇があることだけが解る。

 そして彼女らは当時世界再構を目的とし動き出していた統治機構『アイオーン』にその身を置き『エグリゴリ』となった。