コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.18 )
- 日時: 2015/09/19 08:23
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: jFPmKbnp)
—14 空の狩人、猛禽の刺客
山間、鋭い谷間が覗く渓谷。
黒煙を上げ、ひしゃげた輸送ヘリ。
プロペラは砕け朽ち、機体が横倒し無惨に墜落している。
「ぐ、ぐぅ・・・。な、何が、起こったんだ・・・」
横転したヘリの車体の隙間から血を流した兵士のひとりがヨロヨロと這いつくばり、何とか脱出する。
痛む首で置かれた状況を確認しようと、巡らせる。
ヘリは完全に大破している、航行は不可能だろう。
パイロットも項垂れピクリとも動かない。
・・・恐らく、もう駄目だろう。
機内を窺うと、他の隊員も反応は無い。
どうやら生き残ったのは自分だけ・・・。
「待てよ、あの少女は・・・!?」
少女が存在しないことに気付いた兵士は慌てて辺りを見渡すと、小高い岩の頂上に佇む銀髪をなびかせた少女を見つけた。
流れる銀糸、半身を血染めに塗り替えた灰白のコンバットスーツ。
日の光りを受け、妖しくも明美に輝いていた。
その少女は遥か上空を銀の瞳で睨みつつ、片手に持った通信機で誰かと話をしていた。
「・・・うん、間違いない。『機甲鋼鉄騎士団』だわ、兄さん」
少女アンリが見上げている空から徐々に影が近づき降りてくる。
陽光の逆光から映し出される姿。
「ふーん。『死神』が実際どんな奴かと思ったら、ボクと同い年ぐらいの女の子じゃない?」
鋼の装甲を華奢な身体に纏い、背中に生える機械の両翼を羽ばたかせ、宙でホバリングするフルフェイスメットの何者か。
F-16を破壊し、ヘリを墜落させたのは、この者なのは確定であろう。
その機翼には『逆卍』が刻まれていた。
「・・・ネオ・ナチスのサイボーグで構成された特殊部隊。通称機鋼団。こんなところまで出張? ご苦労なことね」
アンリは、さも面倒そうに呟く。
「ふふ、そう言わないで。これもボクの任務だから。君がパレスチナの残党勢力を軽く捻り潰す様を楽しく拝見させてもらったよ」
そう言って被っていたヘルメットを取り外すと、フワリと金栗色の髪が流れ、肩口に掛かる。
現れたのはセミロングの美少女。
翠の瞳、左目は機械化された義眼帯。
白いキメ細かい赤子のミルク肌を晒す。
十五歳程度の美しい少女だ。
「こうして逢うのは初めまして、だね。ボクの名前はアルスラ・ノインダート。『機甲鋼鉄騎士団』所属、皆からは『梟の凶眼』って呼ばれているんだ。アルって呼んでいいよ」
そして鋼鉄の身体の少女は、にこやかに笑顔をもたらす。
不吉なまでの柔らかい微笑み。
聞いたことはあるだろうか。
梟は夜の使者。
夜はこの世ならざるモノの時間。
監視し、そして導く。
死に逝く魂を。
迷わぬように。
神聖にして不吉の象徴。
「さ、始めよう。戦いの輪舞を。君と踊るのを愉しみにしていたんだ。『ネフィリムの死神』アンリ・クルルギ」
アルスラは年相応の可愛らしい声で闘争の言葉を紡いだ。