コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.2 )
日時: 2014/05/17 02:43
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: mEh5rhZz)

 —2 幽愁の誅戮者
 
 
 
 
 戦傷の狼煙が立ち込める戦場。

 静寂が支配し、動くものは何も無い。

 到る所で黒煙が撒き、弾痕と銃創が瓦礫と化した土くれの建物をただただ、静かにまるで命散らした者たちを弔う墓標のごと鎮座させる。

 その中を少女が、場違いなまでの可憐な容姿の白銀の少女が裸体の全身を真っ赤な鮮血に染め上げ、足取りも軽く悠々と此方に歩み寄って来るではないか。

 そこに数台の武装車両がエンジン音を唸らせ、砂塵を走らせる。

 一台の大型車の車内から黒髪のスーツ姿の東洋人の眼鏡の青年が降り、少女を出迎える。

 その後を武装した数十人の兵士が車両から駆け出し戦場跡へと向かって行った。

 「・・・ご苦労様、今日もいい仕事ぶりだったよ。『アンリ』」

 青年は血濡れの少女、己のものではない夥しい量の血を浴びた身体に優しく毛布を被せる。

 「ん・・・ありがとう。怜薙れいち兄さん・・・」

 少女は愛おしそうに触れる手に頬を添え、満面の微笑みを浮かべた。

 それは少女が唯一、この青年だけに見せる表情だった。

 真紅の血潮に彩られながら、少女は美の女神もかくやという美しさで微笑をたたえ、身を委ねた。

 「次の『エグリゴリ』の任務はウクライナを占拠する過激派組織だ。やれるかい?」

 青年が眼鏡の奥から怜悧な視線を投げ掛けながら薄い笑みを作る。

 「・・・世界の敵はわたしたちの敵・・・いつでも『殲滅』出来る・・・兄さん・・・」

 少女の答えに青年が満足そうに、力強く抱きしめ、己のスーツを血にまみれることも厭わずに少女を胸に抱擁する。

 「いい子だ・・・それでこそ僕の可愛い妹・・・『ネフィリムの死神』だ・・・アンリ・・・」

 少女は、アンリと呼ばれた白銀の少女は青年の温もりを感じながら、その意識は次の戦場へと想いを馳せていた。






 硝煙と血と生き物が焼ける匂い。




 今だ燻ぶる高揚の猛りを抑えるように、青年の身体を強く抱きしめ返す。






 
 ————嗚呼、次の狩場が待ち遠しい。 















 『逆賊、誅すべし』



















 西暦2XXX年、三度目の大戦を迎えた世界は壊滅的な打撃を受けた。

 この悲劇を繰り返さぬために国連は新生統治機構『アイオーン』を発端。

 従順する超非合法特殊組織『エグリゴリ』を設立した。

 彼らの目的はただひとつ。

 世界の平和と安寧。

 そのために一定の武力を持つ組織、団体、集団は国境を問わず、誅罰の対象となり『彼ら』の対象となった。





 世界は新たな局面に向かい、静かに、だが確実に蝕まれていく。






 飽和した果実がゆっくりと腐敗するように・・・。